【TC Tokyo 2021レポート】自分をさらけ出す起業なので、肝はすわっている―ILLUMINATEハヤカワ五味氏・mederi坂梨氏にフェムテックを聞く

【TC Tokyo 2021レポート】「ILLUMINATE」ハヤカワ五味氏・「mederi」坂梨氏に聞く国内フェムテック

TechCrunch Japanは、12月2、3日に日本最大級のスタートアップイベント「TechCrunch Tokyo 2021」をオンラインで開催した。その1日目にあたる12月2日では「フェムテック」(FemTech)セッションを設け、ILLUMINATE(イルミネート)のハヤカワ五味氏、mederi(メデリ)の坂梨亜里咲氏登壇のもと、フェムテックとはどういったものなのか、また各社のサービスについて紹介した。モデレーターは、TechCrunch Japanのライター・イベント担当およびN.FIELD代表の野中瑛里子氏。

ハヤカワ五味氏(ILLUMINATE代表取締役社長)

【TC Tokyo 2021レポート】「ILLUMINATE」ハヤカワ五味氏・「mederi」坂梨氏に聞く国内フェムテックILLUMINATE代表取締役社長のハヤカワ五味氏は、多摩美術大学在学中にランジェリーブランド「feast」やワンピースブランド「ダブルチャカ」などを立ち上げ、Eコマースを主に販売。2019年には、生理から選択を考えるプロジェクト「ILLUMINATE」を立ち上げ、活動を続けている。

ILLUMINATEでは、女性向けヘルスケアブランドの企画・販売を手がけている。「女性の身体」や「女性のライフスタイル」に徹底的に向き合ったサプリメント「チケットサプリ」を展開しており、鉄分など女性が多く摂取する必要がある栄養素、あるいは不足しがちな栄養素をとれるという。また、デリケートゾーンソープ「NODOKA」を展開している。

ハヤカワ五味氏によると、ILLUMINATEが意識しているのは「どれだけ意義がある商品であっても、おしゃれだったりかわいかったりなど、普段から家・部屋に置きやすいデザインでないと使ってもらえないこと」という。特にサプリメントは継続して使ってもらうのが難しい商品であるため、その点を大事にしているそうだ。NODOKAについては、女性自身にまず自分の体のことを知ってもらい、自分の体を大切にしてもらうことを目的とした製品としている。

坂梨亜里咲氏(mederi代表取締役)

【TC Tokyo 2021レポート】「ILLUMINATE」ハヤカワ五味氏・「mederi」坂梨氏に聞く国内フェムテックmederi代表取締役の坂梨亜里咲氏は、明治大学卒業後、ECコンサルティング会社にてマーケティングおよびECオペレーションを担当。女性向けウェブメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、自らの4年に渡る不妊治療経験からMEDERIを設立した。「生みたいときに生める社会にしたい」との考えから、起業を決意した。

mederiは、自宅でできるもっとも身近な妊娠準備をコンセプトにプロダクトを展開。その1つ目が、妊娠・出産を望む女性向けのウーマンウェルネスブランド「Ubu」における、膣内フローラチェックキット「Ubu Check Kit」やサプリメント「Ubu Supplement」などだ。Ubuは、坂梨氏の不妊治療経験から生まれたブランドで、「普段利用していたサプリメントやこんなチェックキットがあったらいいな」と考えたものを手がけている。2つ目は、ピルについてオンライン上で産婦人科医の診療を受けられるというマッチングサービス「mederi Pill」だ。

坂梨氏も、デザインに関して海外のプロダクトを参考にしており、妊活というカテゴリーの中でもできるだけ重々しくならないように、また女性が少しでもハッピーな気持ちになれるようにこだっているという。「ユーザーの利用シーンに自然に溶け込めるプロダクト作りを心がけている」としていた。

mederi Pillは、オンラインで相談できることから、仕事で忙しく病院に行くなどなかなか相談できる時間をとれない、緊張してしまい病院に行くモチベーションがわかないという女性に評価されているそうだ。また地方では、産婦人科に行くだけで噂の元となるといったペイン(課題)がいまだにあり、それが産婦人科医のオンライン相談により解消されるという側面もある。

安定期に入ってしっかり定着してきた

昨今は「フェムテック」という言葉について聞くようになったものの、改めてここで、どういった広がり方をしているのか、どのようなソリューションが展開されているのか尋ねてみた。

「個人には、1~2年くらい前に特に盛り上がっていて、今は安定期に入ってしっかり定着してきた印象がある。海外では5年程度前には一般的に聞くようになったので、その辺りはギャップがある」(ハヤカワ五味氏)。

低用量ピルなどでも、例えばアメリカでは水泳など女性アスリートが利用するなど普及が進んでいる。

「そもそも低容量ピルでいうと、日本ではようやく1990年代終わり頃に認可された(アメリカは1960年代)。日本ではピル自体が約20年の歴史しかなく、親の世代からは大丈夫なの?と心配される。その意味では、フェムテックも歴史が浅くなりやすい」(ハヤカワ五味氏)

フェムテックの勃興が早かった国については、同氏は性教育との関連を挙げた。「性教育が早い国・しっかりしている国は、ニアリーイコールでフェムテックが盛り上がりやすいかなという側面がある。アメリカ、北欧、ニュージーランドなどは性教育が充実していて、結果的にフェムテックへのなじみがあるようだ」(ハヤカワ五味氏)。

自分自身の原体験から起業した、20~30代の女性起業家が多い

また坂梨氏は、フェムテックについて知ったのは2019年という。「不妊治療の経験をきっかけに、どんなジャンルがあるのかと調べていたら、フェムテックや様々な企業が存在することを知ってワクワクした」(坂梨氏)。国内についての盛り上がりについては、ハヤカワ五味氏同様2019年、2020年と指摘した。

国内については、「ウェルネスや月経に関するプロダクトが多い」(坂梨氏)という。この辺りは、国外との違いとして挙げられるようだ。生理が重い、不妊治療や更年期に向き合っているなどの経験があるなど「起業家も、20~40代の原体験がある女性が多い」(坂梨氏)としていた。

「更年期系に関していうと層が薄めで、起業家の人数がまだまだ少ない。起業家自身の原体験からの起業なので、ボリュームとしては20~30代の起業家が多くなっている。結果的に生理系が多くなりやすく、妊活系などもそこまで起業家はいない」(ハヤカワ五味氏)。ユーザーとしては妊娠や更年期を経験している人口が多く、ビジネスとしてはこの層を対象とした方がいいのだが、起業の原体験に基づく場合が多いので、現状では生理系のプロダクトやサービスが増えているそうだ。また早い段階で女性の課題に向き合うスタートアップが増えていくことで、「おそらく今後は、様々なプレイヤーが出てくる」(ハヤカワ五味氏)と見ているという。

一方坂梨氏は、「私自身は、早発閉経という症状で不妊になっていて、ホルモン治療を行っている。他の人よりも早く更年期を迎えると言われていて、最近は、30代で更年期に関するサービスやプロダクトを構築できるかなと考えている」としていた。

不妊治療経験から起業、自分をさらけ出す形なので肝はすわっている

原体験という話題が出たところで尋ねていたのが、坂梨氏とハヤカワ五味氏の起業のきっかけや苦労した点だ。

坂梨氏は、すでに触れたように自身の不妊治療経験から起業している。また、「女性だからということで、起業の点で苦労したことはあまりない」(坂梨氏)という。「自分のウィークポイントをさらけ出す形での起業なので、肝がすわっている方なのだと思う。ただ、BtoCのプロダクトを作っていて、どうしても投資フェーズが長くなるビジネスモデルなので、資金調達をずっと行っている初年度となり肉体的には疲れた」(坂梨氏)。

フェムテックというと、プロダクトのピッチを行う際に、女性ならではの課題(ペイン)を男性の投資家に理解してもらうのは難しそうだが、そうとも限らないという。「妊活領域では、男性の投資家でも、友人や家族などの声や男性としての経験があって、わかりやすかったようだ。不妊の原因が男性に由来することがあり、男性の投資家に共感してもらうことも多かった」(坂梨氏)。さらに「その点では、妊活領域については、女性向けだけでなく男性向け商材のアプローチも考えている」(坂梨氏)と明かしたていた。【TC Tokyo 2021レポート】「ILLUMINATE」ハヤカワ五味氏・「mederi」坂梨氏に聞く国内フェムテック

女性には自分自身をもっと知ってもらいたい、知ることが力になる

ハヤカワ五味氏は、周囲の女性の苦労に気が付いたことがきっかけという。「私は当事者ではなく、2004年から経営している会社(ランジェリーブランドのfeast)で課題があって、それが原体験になっている。女性向け下着をプロダクトとして扱っているので、ほとんどのスタッフが女性という状態だった。そんな中で、毎月同じタイミングで休む方がいる場合に、もしかして生理が重いのかなと思って尋ねてしまうとセクハラになってしまう。スタッフ側としても、同じ女性であっても上司には話しにくい。そこに課題、問題を感じた」(ハヤカワ五味氏)。

そこからさらに、「生理用品を紙袋に入れないといけないよねという風潮や、生理痛が重いけれど産婦人科に行っていない子がいるなど、いろんな課題を見つけるようになった。それが自分にとって糧や力になって、起業してやっていこう」(ハヤカワ五味氏)と思ったという。

「私自身は、生理や女性ホルモンなどで悩んだ経験があるわけではない。多少話題からずれるが、子宮頸がんの検査で引っかかったことがあって、これは病院に検査に行ったからこそ気付けたと考えている。そういった意味で、女性には、自分自身のことをもっと知ってもらいたい、知ることが力になると思う。そこが原体験としてある」(ハヤカワ五味氏)。

女性向けの検査が、「ブライダルチェック」など結婚後を前提にしたイメージに偏ってしまっている

フェムテックという話題からやや離れてしまうが、子宮頸がんワクチンについても触れていた。子宮頸がんワクチンは十分な周知がなされなかったため、接種している女性は少ない。「私くらいの世代で子宮頸がんワクチンを無料接種できるようになったものの、副作用の話がすごくフォーカスされてしまい、現在に至るまでほとんど接種されていないという状況が続いていた。しかし最近、周知に関する状況は変わってきた。子宮頸がんは20代でもかかってしまう身近ながんなので、女性はもっと恐れた方がいい」(ハヤカワ五味氏)。

一般に、がんは「がん化」してから発覚するのだが、子宮頸がんの場合は「がん化」する前に発見できる例は少なくない(子宮頸がんは、「がん化」前の状態を経過してからがんになる)。「現在であれば、子宮頸がんを引き起こすHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染をチェックできるキットもある」(ハヤカワ五味氏)。そういったキットの広まりも含め、「一般的な健康診断にも女性特有の検査をオプションとせずにまとめて扱うようにしてほしい。卵巣や不妊治療に関する検査なども行って、早い段階で知ることができるようにしてほしい」(ハヤカワ五味氏)。

「現在では、女性対象の様々な検査が『ブライダルチェック』など結婚後のものとイメージさせてしまう言葉の形で、浸透してしまっている。言葉を換えて、妊娠や不妊の可能性を含めて、早い段階で女性が自分自身のポテンシャルを把握できるようにすることが重要だと思う」(坂梨氏)。

「事業をやっていて感じるのは、我慢しなければならないという風潮が強いこと。例えば、小中学生の際に生理でもプールに入るように言われたり、自分だけが痛がっているだけかもしれないと思って我慢したりなどがある。フェムテックは、実はそんな我慢は必要ないものと知らせる、『実は、あなたは大変なことになっているよ』と女性自身に気づいてもらうきっかけになるプロダクトが多いと思う」(ハヤカワ五味氏)。【TC Tokyo 2021レポート】「ILLUMINATE」ハヤカワ五味氏・「mederi」坂梨氏に聞く国内フェムテック

また現在20~30代女性の場合、母親世代などからそんなことは言わないもの、男性に生理などについて相談しないものという価値観を示されやすく、相談相手がなかなかいない。「産婦人科にかかるタイミングや重要性なども自分では気づけない、家族にそんな女性がいても気づけないことはあるので、もう少しオープンに話せる場があるといい」(坂梨氏)。

「海外の事例では、D2Cブランドがクリニックを展開する、クリニックがアプリと連動するなど、オンラインとオフラインをシームレスに展開している事業もある。例えば、気楽にオンラインで相談できて、実際の検査は現場に行くなど、いろいろな選択肢がで出てきている」(ハヤカワ五味氏)。

「私が感銘を受けた海外企業に、テレヘルス(Telehealth。非臨床的なサービスを含む遠隔医療)を手がけるHims & Hers Health(ヒムズ・アンド・ハーズ・ヘルス)がある(男性向けのHimsと女性向けのHersを展開)。男性のAGA(男性型脱毛症)やED、女性のピルを含めて、おしゃれなパッケージと世界観を展開している。自分の体やヘルスケアについて気遣うことがおしゃれなこと、ライフスタイルの一部になるようなブランド作りをしていきたい」(坂梨氏)。

フェムテックは女性だけのものではなく、もっと色々な方が関わってくれる業界になってほしい

最後にハヤカワ五味氏と坂梨氏にそれぞれ尋ねていたのが、事業を通じて作っていきたい世界像、理想だ。

ハヤカワ五味氏は、「ブランド名としている『ILLUMINATE』には、『照らす』『明示する』といった意味がある。弊社としては、女性の選択肢、ひいては男性も含めすべての人の選択肢が照らされているような状態を作りたい。知識があるから気付けるし、その気付いたものを得られる商品・状態を作りたい。広く女性自身が障壁を感じずにすむ世界になっていくといいと思う。その先に、男性やほかのジェンダーの方の幸せも待っているのかなと思う」という。

ILLUMINATEのスタッフの半分程度は男性で、「自分自身に体験がないからこそ、周囲の女性の体験を聞くなどヒヤリングを基に意見を出している」(ハヤカワ五味氏)という。それら意見も製品に反映しており、「フェムテックは、女性だけのビジネスではないことが伝わったらいい」としていた。「商品自体の『ゼロイチ』の部分は私が責任を持つにしても、「この商品の設計は、僕でも続けない」などの意見があったりするなど、男性スタッフにも体験・UXを自分事として考えてもらっている」(ハヤカワ五味氏)。フェムテックがより魅力のある市場になることで、男女問わず様々な人がそれぞれの事業を志望するようになると見ているという。

「フェムテックというと敷居が高い、女性だけのものというイメージがあるものの、(この領域の企業では)実際には男性やそれ以外のジェンダーも働いている。フェムテックは女性だけのものではなく、もっと色々な方が関わってくれる業界になってほしいと考えている。興味がある方は、ぜひ様々な事業をチェックしてもらえるとうれしい」(ハヤカワ五味氏)。

男女ともに支え合っていける、ユニセックスで使えるプロダクトも作りたい

坂梨氏は、「『mederi』という社名は『愛でる』という言葉が由来で、もっと「愛でり合う(愛で合う)」社会にしていきたい」という。「男女で性差はあるものの、お互いの良さや足りない部分を受け入れて補い合っていくといい」としていた。「今はフェムテックという領域で展開しているが、mederiとしては、男性も視野に入れた商品展開も行っていきたい。男女ともに支え合っていける、ユニセックスで使えるプロダクトも作りたいと考えている」(坂梨氏)。ジェンダーを問わず対象とする方向性から、「ヒューマンテック」(坂梨氏)ととらえているそうだ。「女性を軸に、男性もお子さんも関わりがあることなので、様々なコミュニティに浸透するようなサービスを展開していけるといいなと思う」(坂梨氏)。

「女性が幸せなら男性も幸せだし、男性が幸せなら女性も幸せという思いから、フェムテック領域でサービスを展開している。今後は、toCだけではなく、toBの福利厚生として、男女とも等しく展開できるようなオンライン診療を用いたパッケージなども展開したい。多くの人が自分事にできるようなサービスにしたいので、注目してほしい」(坂梨氏)。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。