全国のバーは、誤ったお酒の管理の仕方のせいで何十億ドルもの損失を出している。それに加えて、お酒を注ぎ過ぎたり、お酒をこぼしたり、お酒が盗まれるなんてこともある。
IoTデバイスのNectarは、Palo Altoにある歯医者のオフィスに拠点を構えるスタートアップだ(よりによって、なぜそんな場所なのかと思ってしまうが)。同社は現地時間8日、シードラウンドで455万ドルを調達したと発表した。本ラウンドに参加した投資家は、Joe Lonsdale(8vVC + Palantir)、Lior Susan(Eclipse Ventures)、そしてModelo Group(酒造場)の創業家メンバーなどだ。同社は今回調達した資金を利用して、ホスピタリティー業界や消費財業界向けのIoTデバイスの開発を完了する予定だ。
私はNectarの本社を訪れ、共同創業者のAayush PhumbhraとPrabhanjan “PJ” Gurumoanの2人に取材をすることにした。この取材は、同社のプロダクトに対するちょっとしたデューデリジェンスの意味も込められている。同プロダクトの詳細はまだ公表されておらず、この記事でもまだ詳しいことはお伝えすることはできない。ただ、彼らが解決しようとしている社会的な課題はしっかりと定義されており、彼らのアプローチは科学的で、かつ「痛み」の少ない低侵襲なアプローチである ― この2つの単語が同じ文の中にあることは稀だ。
お酒の入ったボトルがもつ価値は、その仕入れ価格とイコールではない。そのボトルは将来の売上を生み出すものなのだ。ラフロイグ(お酒の一種)が750ミリリットル入ったボトルを40ドルで購入し、顧客に提供するときに注ぐお酒の量が1杯あたり44ミリリットルだった場合、そのボトルには17杯分のお酒が入っていることになる。コストの5倍の値段でお酒を提供する場合、40ドルで買ったボトルは将来200ドルの収益と、160ドルの利益を生み出す可能性をもっている。大規模のバーになると、そういったボトルを何百本もストックしている店もある。だから、少しの「お酒の注ぎすぎ」でも、それを合計すると何千ドルもの損失につながってしまうのだ。
現存するソリューションでは、バーのオーナーにかかる負担は大きく、彼らは毎日のルーティン以外の作業を追加でこなさなければならない。そのようなシステムの中には、高価な重量計を利用して在庫のトラッキングを行うものもあれば、スマートフォンのカメラを利用するものもある。だが結局のところ、そのようなシステムはすべて、オーナーに負担を強いる「侵襲性の高い」ソリューションなのだ。
何百万ドルもの費用と従業員のマンパワーを利用して、バーのオーナーたちが自分たちで課題を解決しようとしていることは言うまでもない。右のチャートにあるように、様々な従業員がお酒の在庫管理に関わっている。ある人は発注すべきお酒の種類を一覧化し、またある人はマーケットのトレンドを把握するために何日もの時間を費やしている。それに加えて、他の従業員の仕事に漏れがないかチェックするためだけに存在する役割もある。
Nectarが開発中のプロダクトは、Amazon Dashと似た役割をもつデバイスだ。発注プロセスにある様々な障害を取り除き、在庫情報をリアルタイムに把握できる効率的な方法を提供することが、このデバイスの目的だ。NectarとDashの違いは、デバイスがトラッキングする情報の量だ。洗濯用洗剤「Tide」を注文できるDashを利用するとき、「洗剤が減ってきているから注文しなければ」と考えるのは人間だ。一方でNectarでは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせることで在庫状況のトラッキングをし、その情報を元にしてシームレスにお酒を発注できるシステムを開発しようとしている。
創業者のPhumbhraとGurumohanの2人は、これまでにもスタートアップを立ち上げた経験をもつ連続起業家だ。Phumbhraは過去に、教科書レンタルサービスのCheggを共同創業してIPOを経験し、Gurumohanはエンゲージメント・プラットフォームのGenwiを立ち上げている。2人ともお酒はあまり飲まないということだが、お酒を注ぐという作業から解放されるために、それ専用のロボットを製作したのだとか。
Nectarによれば、バーやレストランのために在庫管理の手助けをすることが彼らの短期的な目標ということだが、長期的な目標は業界全体の需要予測をすることだという。そのためには、従来のプロセスをオンラインに移行することによって得られるデータが重要な役割を持つ。他の商品とは違って、アルコール飲料であるコニャックをFacebookのNews Feedから注文することは(まだ)できない。Nectarがデータを利用してお酒の需要予測をすることができれば、酒造業者にとって非常に魅力的な情報を提供できることになる。同社のプロダクトの詳細は、まもなく公開される予定だ。
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