4月のGunosy上場でさらに注目の集まるニュースキューレーションアプリ。その中でもひときわ異彩を放つのが、ディー・エヌ・エー(DeNA)が手がける「ハッカドール」だ。これまでiOSアプリでサービスを展開してきたが、5月3日にはウェブ版をリリース。あわせて、10月からのテレビアニメ化を発表した。
オタク系コンテンツ特化のニュースキューレーションアプリ
ハッカドールは2014年8月にリリースされたスマートフォン向けアプリで、アニメやマンガ、ゲームなどいわゆるオタク系コンテンツに特化したニュースを閲覧できる。ユーザーが閲覧したり、記事の評価をしたりして、好みのコンテンツを学習。朝、昼、夜の1日3回、25件のニュースをプッシュして配信してくれる。
遊び心も満載だ。ハッカドール1号、2号、3号という美少女キャラクター(それぞれ声優もついている。厳密には3号は男の娘…つまり男性なんだそうだ)がアプリの機能を紹介したり、ログイン時などに入手できる仮想通貨「ハッカ」でプレイできるミニゲームも用意する。
また、ユーザーの好むコンテンツを「成分」として表示できるが、通常表示だけでなくお弁当風(食品の原材料表示のように表示)、レシート風といった表示形式を用意。そのほかユーザーのさまざまなアクションに応じてのバッジ取得といった要素も盛り込んでいる。さらに同人誌へのキャラクターの利用を認めており、その旨を示す「同人マーク」もサイトに表示していることで話題となった。
こんな風に1つずつ書くとちょっとカタい印象もあるのだけれども、テキストの内容1つとってもネットスラングを使っていたりと、ネット好き、オタクカルチャー好きのツボを抑えた作りになっているのだ。
現在のダウンロード数は約60万件、月間8000万ページビューほど。ユーザー層は20代から30代の男性が中心。アクティブユーザーは非公開だが、とにかくリターンレートや1人あたりの記事閲覧率が高いのだそうだ。ニュースアプリとしてダウンロード60万件という数字は決して多いとは言えないが、ざっくり60万ユーザーで月間8000万PVという数字を見ればヘビーユーザーの多さは理解できるんじゃないだろうか。オタク系というジャンル特化型ということもあるのか、冒頭のGunosyや競合のSmartNewsなどと併用しているというユーザーも多いそうだ。
リリース時にこのアプリを見て、「上場企業が提供するニュースアプリにしてはずいぶんととがったものを出すなあ」という印象があった。プロダクトを手がける岩朝暁彦氏に聞いたところ、リリース当初は社内でも評価はさまざまなだったのだそうだ。「そもそも最初は社内のサークル活動程度だった。だが今ではサービスもチームも認識されている」(岩朝氏)
岩朝氏はMBAホルダーで外資系コンサルティング会社の出身。英語と中国語にも堪能だという。もともとは海外向けの事業のためにDeNAに入社したが、一方プライベートではラノベ(ライトノベル)やアニメといったオタクカルチャーが大好き。当初は別の事業を手がけていたものの、最終的に趣味が高じてハッカドールのプロジェクトを立ち上げるに至った。「僕がやりたかったのはベンチャーがチャレンジするような(立ち上げの)フェーズ。どうせやるなら汗をかくような仕事をしたかった。そんな中で社内のアニメやゲーム好きのグループに誘われたのがきっかけ」(岩朝氏)
ウェブ版は「だら見」での利用を提案
ウェブ版では、アプリの「記事25本配信」という仕組みではなく、ユーザーごとに最適化された最新のオタク系コンテンツが常に表示される(オートリロードを備えるほか、新着記事があればページ上部に表示する)ほか、検索にも対応する。アニメやゲームオタク関連のキーワードを網羅している辞書を持っているのもウリの1つだそうで、検索のサジェスト機能が(オタク系コンテンツに限定して)非常に優秀だそう。
画面を見ていてSmartnewsの前身のサービス「Crowsnest」をちょっと思い出したのだけれども、岩朝氏いわく同サービスは多少意識しているそうだ。開発については「もともとMobageをやっていて、大規模運用やセキュリティ分かっているチーム。気心も知れているので、アジャイル風に素早く回している」(岩朝氏)
アプリのリリース直後からウェブ版のニーズはあったそうで、開発陣も将来の提供を見越して処理をサーバ側に集中させていた。だが岩朝氏をはじめとしたメンバーは、ウェブ版のハッカドールをどういう形で提供するのが最適か迷っていたのだという。
「アプリ版は1日3回プッシュ通知でニュースを教えてくれるが、スマホとPCではユースケースが違う。ウェブ版に向けて出した答えは『だら見』。頭を空っぽにしても、なんとなくだらだらと見続けてしまう、そんなものにしたかった」(岩朝氏)。ユーザーの趣向に合わせてレコメンドされる記事は延々閲覧できるし、ユーザーが能動的に求める情報もキーワード検索や「あとで読む」機能で取得できるのが強みだ。
目指すは「初音ミクパイセン」—アニメやIP戦略も強化
マネタイズについてはECのほか、IPの展開も検討している。実はこのハッカドール、今回発表されたテレビアニメ化以前にも複数のソーシャルゲームに「ゲスト出演」しているほか、DeNAのマンガアプリ「マンガボックス」でもマンガ化されている。さらにさかのぼればコミケやアニメ関連イベントへの声優の出演などもある。岩朝氏は「(他プラットフォームとの)相互送客に関してはいろいろと仕込んでいるところ」と語る。
こういう話を聞くと、僕はクリプトン・フューチャー・メディアが生んだボーカロイドの「初音ミク」を思い浮かべたのだけど、岩朝氏も「まさに初音ミクパイセンですよ(笑)」と同意する。「(声優による)歌やトークなども含めて、全方位で作品として成長させていきたい。二次創作なんかも相互浸透性があると思っている」とのことだった。今後は独自コンテンツの展開も検討するとのことだ。
リリース時にもプロモーション用の短編アニメを制作しているハッカドールだが、テレビアニメも短編アニメと同じく気鋭の制作会社「TRIGGER」が担当する。放映は10月2日23時から。放送局はTOKYO MX。
岩朝氏は「今後ウェブとアプリ、IPの2つでビジネスを作っていく」なんて語っていたのだけれど、もともとIPでのビジネスまでを考えていたのか。最後にそれを尋ねると「『キャラが一人歩きする思っていた』と言えたらいいが、そんなものではなかった。そもそも名前すら決めなかったから最後まで『ハッカドール1号(仮)』となっていて、そのまま1号という名前になったくらい」と答えた。
オタク系のカルチャーを取り入れたゆるい空気を作ってファンを集めているハッカドールだが、決してその中身がゆるいわけじゃない。バックグラウンドには大規模サービスを運営してきたDeNAのノウハウがあるし、オートリロードや検索のサジェスト、パーソナライズなど、ウェブのトレンドやテクノロジーを積極的に取り入れている。ウェブ版のリリースやIPのマルチメディア展開でどこまでサービスを拡大できるのだろうか。