なぜ俳優テリー・クルーズはソーシャルマネーを立ち上げるのか

俳優のTerry Crews(テリー・クルーズ)氏がブロックチェーンに参入する。ソーシャルマネーのスタートアップRoll(ロール)の協力を得て、クルーズ氏は独自のソーシャルマネー「$POWER(パワー)」を立ち上げる。

だがまずは、それが何を意味するのかを分析しよう。ソーシャルマネーは誰にでも作れる。すでに数百人ものクリエイターたちが、ファンやユーザーとの関係を変革しようとRoll(ロール)を通じてそれを行っている。Rollを利用すると、クリエイターはERC-20規格に準拠した独自のソーシャルマネーを作り配布できるようになり、さらに自分のコミュニティでのソーシャルマネーの獲得と利用の方法を規定できる。

「誰でも、どこでも、いつでも、自分のコンテンツが作れます」とRollの創設者でCEOのBradley Miles(ブラッドリー・マイルズ)氏はTechCrunchに話した。「私たちはこれを、コンテンツの大量パーソナライズと呼んでいます。現在、Rollではこれと同じことを通貨で実験しています。誰もが、どこでも、いつでも自分だけの通貨が作れるのです」。

私が思うにこれは、クレジットカードのポイントを獲得したり使ったりするようなものだ。ただし、そこにはカード会社が存在せず、代わりにブロックチェーンとクリエイターがいる。マイルズ氏にこの例えの妥当性は確認していないが、私はそう考えることに決めた。カード会社がカードを使うごとにポイントをくれて、後にポイントを現金や航空券などに交換できるように、Rollのクリエイターは、作品にいろいろなかたちで応答してくれたファンにソーシャルマネーを与える。そしてファンは、そのソーシャルマネーを使って、さらにアート作品やコンテンツなどが買える。

現在、Rollを利用しているクリエイターは、クルーズ氏を含め300人ほどいる。Balaji Srinivasan(バラキ・シュリニバサン)氏やTrevor McFedries(トレバー・マクフェドリース)氏などの投資家から270万ドル(約2億9000万円)の資金を調達したRollのソーシャルマネーの時価総額が、先日、10億ドル(約1080億円)を超えた。ブラッドリー・マイルズ氏は、私に0.1$WHALE(およそ330円相当)をくれた。それにより、クリエイターがRollを使っている理由が、もう少し深くわかってきた。$WHALEは、有形でレアな代替不可のトークンアセットに支えれている。つまり、私は$WHALEで他のNFT(非代替性トークン)が買えるということだ。Rollでは、そのソーシャルマネーを600を超える他のデジタル資産と交換できるようにしているため、私はNFTマーケットプレイスのOpenSea(オープンシー)で下のNFTを買うことも可能だ。

画像クレジット:OpenSea(スクリーンショット)

ただし、見てのとおりPodmork Pix 35 WSは28$WHALEもするので、このNFTは買えない。

クルーズ氏の場合、彼はブロックチェーンアートを買ってくれた人が$POWERを獲得し、それを使ってNFTや物理的な商品や体験を購入するというかたちを思い描いている。まずは、クルーズ氏はDiscord(ディスコード)を通じて$POWERコミュニティに関わっていくつもりだ。例えば50$POWERを集めた人は、Discord内の特別なチャンネルへのアクセス権がもらえる。現在までにクルーズ氏は、100人ほどに$POWERを配ったと話している。

「私があなたに$POWERを渡せば、あなたは私の一部を所有したことになる」とクルーズ氏。「そうとしか言いようがない。また、誰が私を所有している(hold:抱いている)かについては、十分に注意したいと思っています。洒落ではなくて」。

$POWERは始まってまだ日が浅いが、クルーズ氏は、ゆくゆくはアーティストのための無利子のマイクロローンを提供したいと考えているという。$POWERの最終目標はアーティストに力を与えることだ。

「それが私たちの長期目標です」とクルーズ氏。「それを実現するためには、このコミュニティを存続させなければなりません。どこでも使えるようになります。食料品スーパーのTargetでもね」。

クルーズ氏は、この分野への興味を抱いたのは、4年前に彼の身に起きた事件がきっかけだと話す。

ミラノにいたとき、クルーズ氏は家具見本市ミラノサローネで、尊敬するデザイナーが作った家具を買おうとした。かなり高価であることを知ったのだが、彼の支払い口座にはそれに足りる現金が入っていなかった。そこでアメリカン・エキスプレスに電話で尋ねると、近くの銀行へ行けと指示されたという。アメリカン・エキスプレスは、クルーズ氏の代わりにその銀行の支店長に事情を説明し、ようやく家具の購入に必要な資金を手配できることになった。ところが、クルーズ氏によればその支店長は、彼をひと目見て「入るな」と言ったそうだ。

「私は一列になって通り過ぎて行く白人の男女を見つめ、彼らは私を奇妙な目で見つめていた」とクルーズ氏は話す。「私はそこに15分間立ち尽くして、だんだんわかってきました。私が黒人だからだと。お金は手に入りませんでした」と彼は語る。「それが、何もかも変えなければいけないと私が悟った瞬間です」。

仕方なくクルーズ氏は、小切手換金所を使うことにした。ウーバーの運転手はそこへ行くのを嫌がったそうだが、それでようやく家具の代金が用意できた。

「思い出すと今でも腹が立つけど」と彼はいう。「この新しい金融の世界ですばらしいのは、仮想通貨では人種も年齢も関係ないところです」。

$POWERによって、アーティストやクリエイターの手に力を取り戻させたいとクルーズ氏は願っているという。

「ここには『入るな』という門番はいません」と彼はいう。

またクルーズ氏は、彼のオリジナルのコンテンツを$POWERコミュニティに投入する予定だという。そこでは人々が作品を共同所有できる。

「これは私よりも大きなものです」と彼は話す。「新しい未来です」。

マイルズ氏は、$POWERが映画館やパラマウント・ピクチャーズの施設でも使えるようになる未来を夢見ている。

「ドルに置き換わるものではありませんが」とマイルズ氏。「現金を補完して、おそらくドルではうまくできなことの役に立ちます」。

私はクルーズ氏に、ハリウッドを離れて$POWERコミュニティのためのオリジナルコンテンツの制作に没頭するのかと聞いてみた。するとクルーズ氏は、2017年、William Morris Endeavor(ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテインメント、WME)の幹部が彼に痴漢を働いたとしてWMEを告訴した時点で、すでにハリウッドを去っていると答えた。クルーズ氏とWMEは2018年に和解している。

「そこで関係が断たれました」と彼は話す。「しかし重要なのは、私にはパワーがあり、才能があった点です。ウィリアム・モリスは私がやっていることのすべてを終わらせてやると脅してきました。しかし、今私はすべてをやっています。それは誰にも奪えません。そんなわけで、私はハリウッドと縁を切りました。もっとも、今日に至るまで、自分がハリウッドの人間だと感じたことは一度もありませんがね。世の中のすべてのアーティストは、私と同じ考えでしょう。みな自分のパワーを求めているのです」。

カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:Roll仮想通貨NFT

画像クレジット:Rodin Eckenroth/FilmMagic / Getty Images

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(文:Megan Rose Dickey、翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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