ゆりかごから墓場、ラブホまで–グリーの新規事業と「100億円投資」の使い道

先日2014年6月期の通期決算を発表したグリー。ゲーム事業に関しては、300人の人員を1000人まで拡大してネイティブアプリの開発に注力すると発表したが、これと同時に今期は新規事業に注力する旨が発表されている。

実はグリーでは今春以降数多くの新サービスを開始している。5月には、子会社のグリーリユースがコメ兵と提携してブランド品のリユースサービス「uttoku by GREE」を開始。6月には子会社のTonightがホテルの当日予約アプリ「Tonight 」、7月には子会社のグリーユナイテッドライフがオンラインリフォームサービス「いえプラス」、さらに8月には子会社のプラチナファクトリーが介護施設の検索サイト「介護のほんね」、子会社のスマートシッターが訪問型保育のマッチングサービス「スマートシッター」を開始した。またTonightは、8月にラブホテルの当日予約アプリ「Tonight for Two」もリリースしている。育児から介護、まさにゆりかごから墓場まで、新しい領域での事業をスタートさせている。

グリー取締役 執行役員の荒木英士氏

かつてソーシャルゲームプラットフォームとして競合とされていたディー・エヌ・エー(DeNA)も、コミュニケーションやヘルスケアといった領域の新事業を提供しているほか、スタートアップへの投資を実施。M&Aにも意欲的な姿勢を見せている(DeNAで投資事業を手がける原田明典氏のインタビューはこちら)。グリーはどういった視点を持っているのか。グリー取締役 執行役員の荒木英士氏に聞いた。

–新規事業の方針について教えて下さい。

荒木氏(以下敬称略):グリーはこの数年間ゲームを中心に事業をやってきました。ですが、「インターネットの会社」「プロダクトの会社」というところははブレていなかったと思っています。常に新しいモノを模索してきました。

特にこの半年は新規事業に注力してきたのですが、それにはいくつかの理由があります。まずグリー自体も組織も大きくなり、人材層も厚くなってきました。また一方ではゲームでもフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行という波が来ています。もちろんゲームも手がけますが、1つの分野に集中するだけで成功するという時代でもなくなってきました。新しい取り組みを増やすことで、収益面での多様化をしていくことが必要になってきました。

一方では人材育成の意味もあります。子会社を立ち上げて新事業を手がけることで、事業経験者を増やしていこうとしています。

実は去年の末の役員合宿でそんな話をしていたのですが、まずは取締役全員が新事業のアイデアを考えてプレゼンして、ということをしました。その中から選ばれたいくつかのサービスが2月頃から動き出しました。また4〜5月には全社公募を実施して、150件ほどの企画が集まりました。その中で選抜したアイデアを役員にプレゼンをして立ち上げるということをしています。

–新規事業はこれまでの事業からは非連続的過ぎるというか、唐突な印象を受けます。

荒木:先日DeNAさんが決算で発表した(新規事業の方針)話と重なるところもあるのですが、年始に役員で話したのは、「自分たちのコアコンピタンスは『世の中をインターネット化すること』である」ということです。例えばゲームにしても、これまでのコンソールゲームをインターネット化して再定義し、それがうまくいきました。今度は別の領域で、ものごとをインターネット化していこうと考えています。

ホテル予約というサービスはすでにインターネット化されていますが、まだモバイル化はされきっておらず、また同時に市場も何兆円とあるわけです。ブランド品の買取もリフォームも、既存の市場が大きい一方でインターネット化、モバイル化されていませんでした。

新事業は外から見るとランダムな事業領域に見えますが、市場規模が潜在的、もしくは顕在的に大きいもの。またインターネット化、モバイル化されていないものです。

–既存事業とのシナジーについて教えて下さい。

荒木:もちろん既存事業を生かせるものはいくつかあります。ゲームのユーザーベースもありますし、モバイルにおける開発力やユーザーエクスペリエンスに強いと思っています。

「インターネットの会社」ではない既存の事業者は、サービスをアプリ化することだって大変です。我々はそれを2カ月程度で実現できますし、継続的なサービスの改善も実現できます。またプラットフォーム事業もやっているので、デベロッパーとのネットワークもあります。すでに社内で走っているプロジェクトは5〜6個あります(取材後に発表されたスマートシッターなどを含む)。

–新事業は基本的に別会社を立ち上げて展開するのですか。

荒木:新事業にはいくつかフェーズがあります。まずは社内の1チームとしてサービスを作るフェーズ、そしてある程度サービスがうまく回りそうであれば人を追加するといったインキュベーションのフェーズがあります。そして反応がよければ子会社化します。ただそれとは別に、許認可事業であるために法人格を必要とする場合もあります。もちろん大きくする前に撤退という場合もあり、その場合サービス開始から3カ月を目安にしています。

ホテル予約アプリ「Tonight」

–Tonightは好調ですか。

グリー広告・投資事業統括本部の井上裕史氏:有料広告などは展開していませんが、想定した以上の反応があります。数字は公開していませんが、すでにそれなりの数の予約が入っています。立ち上がりとしては順調です。

今までの予約サービスだと、毎日アプリやサイトを見るといった行動はありませんでした。ですがTonightでは毎日訪れるユーザーも多くいます。カタログ感覚で使っているユーザーが多いようです。このサービスは2月に提供を決めて、3カ月程度で開発しました。旅行業界のプレーヤーであれば、このスピードでは内製できません。やはり開発力は我々の強みだと思いました。

荒木:当日予約は通常の予約と異なり、特殊なワークフローになります。そのため様々なニーズがあるのですが、我々には日々アップデートしていける体制があります。

–リリース直後から、競合サービスの「Hotel Tonight」とUIが非常に似ているという話がありました。

荒木:個人的にHotel Tonightのファンで、実際よく利用していたんですよ。

大事なのは、ユーザーのニーズやシチュエーションです。「似せないこと」を目的化しても、逆に考えなしに「完コピ」しても仕方がないと思います。(Tonightは)当日すぐに予約できるということ、そしてきれいな写真を見せることがコンセプトです。結果論として似ていますが、今更どこかがECサイトを始めても「Amazonに似ている」とは言わないでしょう。

--サービスの提供直後にHotel Quicklyへの出資とサービス連携を発表しました(Hotel Quicklyは東南アジアを中心にホテルの直前予約サービスを提供している。アプリは30万ダウンロード。登録会員は15万人以上)。

荒木:実際にはTonightの開発中に出会って、彼らが「パートナーと投資家を探している」という話を聞きました。それで、「お互いに強みを持ち合える」となってとんとん拍子に話が進みました。

具体的な業務提携は今後になりますが、彼らはリリースしてから1年半くらいで、12カ国、数千ホテルと提携しています。ビジネスモデルは同じで、僕らがつまずくところで先につまずいているわけです。彼らに学ぶことで、Tonightで試行錯誤しなければいけないことをショートカットできると思っています。今後は開発の共通化も考えています。一方で彼らはこの事業での提携だけではなく、グリーの経営や海外進出、大規模開発といった「スケールするノウハウ」を求めています。

新規事業では、小さいチームでの「スピード感」を意識して動いていますが、世の中のスタートアップと同じ土俵で戦っても仕方がありません。グリーならではの強みを使わないといけません。グローバルなM&Aや提携ベースの国際展開なども意識しています。

–御社は1年で100億円の投資を実行するとしていますが(7月にイベントに登壇したグリー取締役 執行役員 常務の青柳直樹氏が語っている)、投資と新規事業はどのように進めていくのですか。

荒木:ストラテジックインベストメント(戦略投資)として100億円の予算はあります。

投資の目的はまず、HotelQuicklyのようにシナジーがある会社に出資して資本業務提携することです。また、自分たちでやりたいけれどもアサインできるリソースが足りなかったり、先行している事業者がいる場合は出資をします。場合によっては買収もあり得ます。出資について青柳が話して以来、問い合わせも多く頂いています。

グリーは新規事業と投資が完全に一体化していますし、だからこそ意味があると思っています。例えばゲーム会社を買収するにしても、実際に会って話して「こう改善すれば伸びる」というのが経験則で分かることもあります。ストラテジックな投資だからこそのシナジーだと思います。

–投資や買収で興味を持っている領域について教えて下さい。

荒木:大枠のコンセプトとしては、冒頭に語った「産業のインターネット化」。また領域というよりは切り口ですが、「モバイルコマース化されていおらず、されるべきもの」です。市場は顕在化されているがモバイル化されていない領域は常に見ています。

あとはバズワードになっていますが、広義での「シェアリングエコノミー」です。Uberもクラウドソーシングも含めて、働き方を変えたり、オンデマンドでサービスを提供したりするようになりました。さらに位置情報も含めて「モバイルだからできる」というものです。

新事業と投資、3年後に売上高数百億円の事業に

ここまでの話は同社の決算説明会以前に取材した際の内容なのだが、8月13日に開催された2014年6月期の決算説明会で、荒木氏と青柳氏に追加で話を聞いた。

荒木氏には、上記の取材後に発表されたToight for Twoについて聞いたのだけれども、これはもともとTonightの企画時から「ビジネスホテルとラブホテルの2軸でサービスの提供を検討していく」と決めていたそうだ。ラブホテルの当日予約も「ニーズとしてはむちゃくちゃある」(荒木氏)そうだが、一方で競合がまったくいない状況だったとのこと。

また青柳氏には、スマートニュースへの出資について聞いた。グリーでは今後、米国拠点で培ったノウハウをもとに、ニュースアプリ「SmartNews」の海外展開やユーザー獲得について支援することも検討中だそうだ。「グリーを米国に行くためのプラットフォーム、ゲートとして見てもらえるとありがたい」(青柳氏)

グリーでは今後1年間で100億円規模のベンチャー投資を検討しているということだったが、青柳氏は「案件次第だが、事業上の連携が描ける部分にを中心に、テーマを決めてやっていきたい」と説明した。また例として、Toightを挙げ、「グリーでホテル予約をやっているが、トラベル・レジャー関連で接続できるサービスがあればやっていきたい(投資する)。他社なら1つのサービスに(資金やリソースの都合)集中するかも知れないが、我々は自分たちでサービスを立ち上げながら補完できる」(青柳氏)と語った。

新事業(およびM&Aする事業)は、3年後に売上高「3ケタ億円」、つまり数百億円規模の成長を目指すとしている。また、200億円前後とも言われるスマートニュースのバリュエーションに関しては、「数字は公開していない」として回答を避けたが、「世の中に流れている数字より(金額は)抑えられている。またすでにアクティブなユーザーがいて、これから始められる広告事業については先行するグノシーがいる。比較的ビジネスモデルは見えているため評価しやすかった。仮に純投資であっても投資できた」(青柳氏)と語った。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。