ようやく登場したMagic Leapは荒削りな驚異――初のデベロッパー・カンファレンスでARゲーム公開

何年も噂と推測、ときにはライバルからの批判の的となってきた拡張現実システムの開発企業、Magic Leapのヘッドセットがついにデベロッパー、消費者向けに出荷される。最初プロダクトは荒削りだがある種の驚異だということが判明した。

Magic Leapは先月、予約の受付を開始することを正式発表していたが、いよいよ、長年謎に包まれていた魔法のタネ明かしがなされた。

現在開催中の最初のデベロッパー向けカンファレンス、L.E.A.P.のキーノートでは、23億ドルを調達したARヘッドセットの詳細が明かされただけでなく、パートナー企業からのVIPも多数登壇した(多数のプレスが招かれており、TechCrunchでもこの後、詳しく報告する)。

10年近く前からMagic Leapと協力してきた開発スタジオ、Weta WorkshopPeter Jackson創立のAR開発企業、Wingnut ARはそれぞれMagic Leap向けのARアクションゲームを発表した。Wetaのゲームはロボットを、Wingutのゲームは毒グモをそれぞれターゲットとする一人称ゲームだ。医療向けイメージング企業のBrainlab、家具を消費者に直接製品を販売するリテラー兼コンサルタントのWayfairもMagic LeapによるARユースケースを紹介する。昨日(米国時間10/9)は合計16社がデモした。

カンファレンスでWetaはARゲームのプレビュー版を披露したが、なかなか印象的な出来栄えだった。このDr. Grordbort’s Invadersというゲームではブラスター銃を撃ちまって異世界からワープしてくる無数のロボットを撃ち落とす。Magic LeapではこれらのゲームをショーケースとしてARプラットフォームの能力を強く訴えた。【略】

Magic Leapの原動力であるファウンダー、CEOのRony AbovitzやWetaスタジオのゲーム・ディレクターGreg Broadmoreによれば、AbovitzがSF的な没入的世界を構築するためにWetaに協力を求めたのは6年以上前になるという。

その最初の成果がDr. Grodbortだ。

もちろんこのプロダクトは視野が狭いことや焦点調節など明らかな欠点もある(ゲーム内でときおり感じた不具合は記者が不慣れだったせいかもしれない)が、Dr. GrordbortはMagic Leapのヘッドセットがゲームデバイスとして大きな可能性を持つことを証明できた。ただし、今回のデバイスは2295ドルと消費者向けとしては禁止的な価格だ。

ゲームをスタートさせる前に!ユーザーはヘッドセットを装着してプレイの舞台になる部屋の中を歩き回る必要がある(部屋のサイズによるが、最大で4分程度かかる)。システムが部屋を記憶した後、ナレーションが「地球はエイリアンのロボットの大群に侵略されている。きみたちが人類最後の砦だ」と世界観を説明する。プレイヤーは壁その他にワープホールを開いて次々に出現する敵ロボットを射って破壊する。

WetaのBrodmoreは「このゲームはMagic Leapプラットフォームを構築するために大いに役立った。 Dr. Grordbortという問題を解決するのがMagic Leapだ」と語った。

WetaほどMagice Leapと緊密な関係を得ていたわけではないためまだ欠点も目立つが、それでもWingnutの毒グモ退治ゲームも十分に面白い。

プレイヤーは架空の害虫駆除業者の見習いとなって奇怪な実地訓練に挑む。この会社が駆除するのはおよそグロテスクな虫だ。プレイヤーはさまざまな器具を使って自分の家のリビングに現れる害虫を退治する。マッピング・エンジンとグラフィックスは素晴らしく、Magic Leapの高度なサウンド・テクノロジーのおかげでプレイヤーにゲームを説明するナレーションも極めて効果的に聞こえる。

プレヤーが使える武器はバットから火炎放射器までさまざまだ。武器の使い方や害虫をおびき寄せるねばねばした餌の作り方はナレーションで解説される。正直私は一人称シューティングゲーム(というかゲーム全般)の熱心なファンではないが、それでもWingnutのゲームは非常に面白かった。

ただしMagic Leapはゲームだけではなく、ビジネスにもユースケースを広げようと努力している。

医療画像処理企業のBrainlabと提携し、内科、外科の医療の教育と現場でMagic Leapのツールキットが役立つことが示された。デモでは患者の脳のスキャン映像から、脳腫瘍を3Dで再現し、ヘッドセットを用いて観察するところがデモされた。これにより医師が手術に関して必要な情報を得ることを助け、術式の決定にも役立つという。

一方、通販のWayfairはヘッドセットを利用してバーチャル・ショールームから家具を選び、ユーザーが自分の家にそれを据え付けたときどう見えるか試せることをデモした。ロッキード社の秘密航空機開発工場のスカンクワークスを思わせるような開発プロジェクトでWayfairは現実のショールームなしで家具を販売するという難問に挑んできた。

こうしたデモを通じてMagic Leapに必要なのはまず優れたコンテンツだということが改めて紹介された。また小型化と使い勝手の改良も急務だったが、これについては予想以上の進歩が見られ、Magic Leapのもっとも懐疑的な人々も納得させる出来栄えとなった。

見た目はまださほど洗練されているとはいえないが、Magic Leapの装着感ははるかに向上し、能力もこうしたプロダクト中で最高クラスだろう。3時間でバッテリーが充電できるというのも大きなメリットだ。

ただし、ユーザー側である程度の作業は必要だ。目とヘッドセットの距離を適切に設定するために鼻梁にかけるノースブリッジのサイズを選ぶ必要がある。またメガネを使っている場合は別途処方箋を送り、ヘッドセット用の適切なレンズを添付してもらう必要がある。

パッケージに標準で同梱されるのはモーション・センサーを内蔵するコントローラー(ビデオゲームのコントローラーのようなタイプ)と腰に装着するコンピューティング・ユニットで、これはノート・パソコンなみの処理能力がある。

ヘッドセットはパソコンにテザー接続される必要はないが、作動は屋内のみとなる。

第一世代のハードウェアに特有な多少の欠点を別にすれば、Magic LeapはAR、VRを通じて私が体験した中で最高クラスのプロダクトだ。Magic Leapより 視野が広く軽いデバイスも発表されているが、コンテンツの質とユースケースの多様さでは遠く及ばない。当初から提携していた各社はそれぞれ十分にペイしそうだ。【略】

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滑川海彦@Facebook <A

投稿者:

TechCrunch Japan

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