アフリカでの銀行業務と決済のためのローカルソリューション構築を目指すナイジェリアのAppzone

アフリカのフィンテック分野は、ここ数年の投資で一定の注目を集めているが、スタートアップ企業の多くが、高品質な製品の提供を課題としている。それでも従来型のコスト構造や極めて低い業務効率などの課題を抱える伝統的な銀行と比較すると、スタートアップ企業の首尾は上々のようだ。

フィンテックソフトウェアを提供するAppzone(アップゾーン)は、伝統的な金融機関のバンキングサービス・決済サービス向けに独自のソリューションを構築している数少ない企業の1つである。2021年4月、同社は1000万ドル(約11億円)のシリーズA資金調達ラウンドを完了したと発表した。

アフリカの金融機関は、通常、問題が生じた際に海外の技術ソリューションを利用しているが、その場合、価格、変化に対する柔軟性、現地の技術サポートの不足といった問題が付きまとう。ここに目を付けたEmeka Emetarom(エメカ・エメタロン)氏、Obi Emetarom(オビ・エメタロン)氏、Wale Onawunmi(ウェール・オナウンミ)氏の3人は、2008年、ナイジェリアのラゴスを拠点としてAppzoneを設立した。

Appzoneの手法は他のアフリカのフィンテック企業とは明らかに異なる。他社と明確に差別化される要因の1つは、同社が銀行や決済におけるイネーブラ(enabler、手助けする存在という意味。ここでは決済レールやコアインフラ)として機能しているという点にある。

同社は、商業銀行にカスタムソフトウェア開発サービスを提供するサービス会社として設立された。2011年に、マイクロファイナンス機関をターゲットとした最初の勘定系サービスを発売。2012年に商業銀行向けの最初のサービス(ブランチレスバンキング)を発売し、2016年にはモバイルバンキングとインターネットバンキング向けのサービスを開始、2017年にカード即時発行サービスを発売した。2020年には、銀行の融資業務におけるエンド・ツー・エンドの自動化サービスとブロックチェーンの交換に対応したサービスを開始した。

AppzoneのCEOであるオビ・エメタロン氏はTechCrunchに次のように話す。「私たちは(アフリカ)大陸における銀行業務と決済のための革新的なローカルソリューションを構築することを目指してAppzoneを立ち上げました。焦点となったのは、イネーブラとしての力を活用して、この分野での独自技術を開発することでした」。

画像クレジット:Appzone

Appzoneのプラットフォームは、アフリカの18の商業銀行と450以上のマイクロファイナンス金融機関で利用されていて、年間の取引額は20億ドル(約2200億円)、年間の融資額は3億ドル(330億円)に達する。

Google for Startups Acceleratorにも参加した同社は、設立以来、アフリカのフィンテック分野をリードし、アフリカからいくつかの世界初の試みを行ったという。1つ目は、世界初の分散型決済処理ネットワークの構築。2つ目は、クラウドでの勘定系およびオムニチャネルソフトウェア。そして3つ目が、複数の金融機関での口座振替サービスである。

エメタロン氏は、Appzoneを独自技術に重点を置いたフィンテック製品のエコシステムと表現する。このエコシステムの2つの層、すなわち、金融機関の業務全体を動かすソフトウェアを提供するデジタル勘定系サービスと、ブロックチェーンを利用した分散型ネットワークに金融機関を統合する銀行間処理については上述のとおりだ。

Appzoneは、今回の資金調達で、エンドユーザー向けのアプリケーションに焦点を当てた第3の層を導入し、規模を拡大する。銀行とフィンテックの両方のレイヤーを構築してきた同社は、次に個人や企業と自社のサービスをつなげようとしている。新時代のフィンテックスタートアップのほとんどが参入している分野で、Appzoneは遅れて参入することにはなるが、エメタロン氏は優位に立っていると考えている。

「エンドユーザー向けのアプリケーションを提供する企業の多くは、自社サービスを提供するために、勘定系システムと銀行間処理サービスに頼らざるを得ません。私たちはすでに両方のレイヤーで事業を展開しており、コストや柔軟性の面で優位性があると考えています」と、エメタロン氏は他社との競合について話す。

10年以上もひっそりと活動してきたAppzoneだが、ここにきて製品やサービスの規模を爆発的に拡大しようとしている。450以上の顧客の大部分はナイジェリアを拠点としているが、同社はまず、アフリカ全土への拡大を真剣に取り組む。コンゴ民主共和国、ガーナ、ガンビア、ギニア、タンザニア、セネガルは存在感を増しているが、Appzoneには、これらの有望な市場に積極的に参入するためのリソースが不足していた。シリーズA資金調達ラウンドを完了した今、同社はこれらの国々を手始めに、さらにアフリカ全土に拡大していく計画だ。

また、Appzoneは規模の拡大を実現するために、同社が誇るエンジニアリングチームをさらに成長させることを計画している。すでに従業員150人のうち半数がエンジニアであるが、この数を2倍に増やす。ナイジェリアの多くのスタートアップ企業と同じように、Appzoneもシニアエンジニアを重視している。しかし、他の企業ではシニアエンジニアの不足が問題になっても、Appzoneでは有望な若手人材を育成して専門知識を身につけさせることができる、とエメタロン氏は話す。

「わずかなコストでイノベーションを起こすことができる私たちの独自の技術は、基本的に地元の優秀な人材によって構築されています。私たちのシステムは非常に複雑で、必要とされるイノベーションのレベルも別次元です。文字通りナイジェリアのトップ1%の人材を求めています」とエメタロン氏。「たとえ専門知識がなくても、最高の人材を育成すれば、専門性の高い人材をスムーズに得られることがわかっています。エンジニアを育てれば育てるほど彼らの専門性は高まり、私たちが期待する世界標準グレードの品質でサービスを提供できるようになります」。

Appzoneの共同創業者兼CEOオビ・エメタロン氏(画像クレジット:Appzone)

資金調達ラウンドに話を戻そう。注目すべき点は、参加した投資家のほとんどがナイジェリアを拠点としていることで、公開されている情報によると、ナイジェリアの投資家が主導したラウンドとしては最大規模であることは間違いない。主導したのは、ラゴスに拠点を置く投資会社のCardinalStone Capital Advisers(カーディナルストーンキャピタルアドバイザー)V8 Capital(V8キャピタル)Constant Capital(コンスタントキャピタル)Itanna Capital Ventures(アターナキャピタルベンチャーズ)の他、ニューヨークを拠点とし、アフリカに特化した企業であるLateral Investment Partners(ラテラルインベストメントパートナーズ)も参加した。

これまでにAppzoneは、南アフリカのBusiness Connexion(BCX、ビジネスコネクション)から200万ドル(約2億2000万円)のラウンドを2014年に獲得している。その4年後には、転換社債で250万ドル(約2億7000万円)を調達し、その過程でBCXから株式を買い戻した。全体としては株式発行による資金調達で1500万ドル(約16億3000万円)を獲得したことになるという。

CardinalStone Capital Advisersの共同設立者兼マネージングディレクターのYomi Jemibewon(ヨミ・ジュマイボワン)氏は、今回のAppzoneへの投資について、アフリカが将来的に世界クラスのテクノロジーの拠点となる可能性をさらに証明するものだと話す。

「Appzoneは、アフリカの金融業界のバックボーンとなる革新的なフィンテックエコシステムを構築しており、決済、インフラ、サービスとしてのソフトウェアにまたがる商品を提供しています。Appzoneは、アフリカ大陸全体の金融包摂(Financial Inclusion)を推し進めるサービスと同時に、金融機関に最適な低コストのソリューションを提供していて、この企業活動がもたらす影響は多岐にわたります。また、優秀な人材に重点を置くことで頭脳流出を防ぎ、アフリカの優秀な人材に最高の雇用機会を提供しています」とジュマイボワン氏。

アフリカのフィンテック分野は、2021年1月の低迷の後、Appzoneの資金調達も含め、ペースの速い投資活動を継続している。この2カ月を見ると、2月には南アフリカのデジタルバンクTymeBank(タイムバンク)(1億900万ドル、約119億円)、3月にはアフリカの決済会社Flutterwave(フラッターウェーブ)(1億7000万ドル、約185億円)による大規模な資金調達など、8社以上のフィンテック企業が100万ドル(1億900万円)規模の資金調達を行った。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:Appzone資金調達アフリカナイジェリア

画像クレジット:Appzone

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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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