LINEは12月17日、ブロックチェーン開発者向けにオンラインイベント「LINE Blockchain Developers Meetup #1」を開催した。LINE Blockchain導入事例として複数サービスが紹介されたので、ここにまとめておこう。
LINE開発者による「LINE Blockchain Developers」を使った「dApp」(ブロックチェーンアプリ)開発デモについては別記事にまとめたので、そちらも参考にしてほしい。
韓国語、英語、日本語と順次多言語対応を計画、電子契約サービス「LinkSign」
導入事例での最初のセッションでは、LINE Blockchain基盤を使った電子契約サービスの「LinkSign」の紹介が行われた。LinkSignを提供するComakeのCEO Harrison Hyunmin Cho氏がビデオレターで解説した。
LinkSignは、オンライン契約プラットフォーム。AI、機械学習、ブロックチェーン技術を使い、契約プロセスを作成・レビュー・電子署名・契約締結の4つに分け、これらをすべてLinkSignというひとつのサービスに統合している。
ビジネス従事者にとって契約は避けて通れないものの、契約というのは非常に難しい専門用語が含まれており、多くの人はその知識を有していない。これを同社はリーガルバリア(法的な障壁)と呼ぶ。
さらに、リーガルバリアを認識していても、多くの中小企業が法律事務所の正式なレビューを受けることができずにいる。中小企業にとって法律事務所のレビューは高額であるからだ。
また、紙ベースのレビューは長年にわたり様々な障害を抱えてきたという。レビューや交渉プロセスにおける記録、署名の信憑性などの課題を抱えつつ、先に挙げたプロセスを経て契約の成立となるが、そもそも原本の管理もまた、中小企業にとっては問題になっている。
これらがLinkSignの開発背景となり、ビジネスとして立ち上げたとCho氏は語った。
LinkSign概要
LinkSignでは、契約プロセスを作成・レビュー・電子署名・契約締結の4つのプロセスを契約ライフサイクルと位置付けている。作成とレビューのステップではAIおよび機械学習の技術を統合し、電子署名と契約締結のステップにはシステムのセキュリティー向上のためにブロックチェーン技術を統合している。
LinkSignは、クライアントがアクセスすると最初に契約書の作成に誘導する。
一般的な契約書の作成では、契約書をイチから作ることはなく、たいていはGoogleなど検索サイトで似たような契約書のテンプレートを検索して探し、それを参考に作成することが少なくない。
しかし実は、これはリスクの高いアクションだとCho氏は指摘する。契約書で重要なのは、どちらが情報を受け取る当事者か、どのような条件で損害賠償が発生するのか、また契約条項に関して紛争が起きた際どこが管轄地になるかなど、一般的なテンプレートではカバーできない条件が多々ある。法律事務所はこういった問題を適切に提案できるため、高額な費用がかかると説明した。
LinkSignの契約プラットフォームでは、クライアントは正しいテンプレートを選択できるという。テンプレートはすべて法律事務所の上級弁護士がレビューしたものになる。テンプレートを選択するとAIインタープリターが起動されるという。
契約書の作成にはふたつのケースがあり、ひとつはLinkSignで作成してドラフトから契約を始めるもの。もうひとつは契約相手から契約書のドラフトを受け取ったケースという。契約書を受け取った場合は、クライアントは契約書をLinkSignにアップロードできる。
LinkSignは、契約書を判断し法律的なリスクがあった場合はクライアントに報告する。契約レビューシステムでは、抽出サマリー、文章や条項ごとの詳細レビューなどが行われ、最後に最終レポートとして1ページにまとめられるという。現時点では、これらはまだ韓国語にしか対応していないが、英語、日本語と順次多言語対応していくそうだ。
詳細レビューページは、以下スクリーンショットにあるように、緑、黄、赤にハイライトされたセクションがある。緑は文章や条項が安全であることを意味し、黄色は標準的に使用される法律上のフレーズとは異なるが法律的には大きな問題にならない箇所、赤はシステムがこの契約を弁護士にレビューしてもらうことを推奨している箇所という。
詳細レビューページの後は、最終レポートとしてすべての情報が1ページにまとめられ、契約書の作成は完了。ここからは両者が署名をする段階になる。
両者から署名を得るためにLinkSignでは、紙ベースの契約書を電子トランザクションに移行するだけではなく、ブロックチェーン技術を使い契約のセキュリティーを強化する。ブロックチェーン技術を使うことで他のプラットフォームに存在するような多くの問題を解決できるとした。
各トランザクションの透明性を担保し、また署名した契約や原本を改ざんできないという点においても、クライアントからの信頼を獲得できる。
なぜLINE Blockchain Developersなのか?
LinkSignが多くのブロックチェーンプラットフォームの中から、LINE Blockchain Developersを選択した理由は、LINE Blockchain Developersの技術が単に優れているだけではなく、容易に拡張できることがポイントという。例としてLINE PaymentサービスをCho氏は挙げた。
LinkSignは、契約プラットフォームをフィンテック領域にも拡張していく計画があるという。LINE Payによってクライアントは、1ヵ所で契約を締結したあとに支払いが可能になる。同社プラットフォームをLINE PayやLINE ID Passport(KYCプラットフォーム)に接続できると、次世代のものに進化させられるだろうとCho氏は語った。
現在、他社からも電子契約プラットフォームサービスは提供されているが、契約書のテンプレートから提供し、契約書のレビューサービス、電子署名、そして契約管理まで、これらすべてを提供しているサービスはLinkSign以外にないという。
またLinkSignは、グローバルな法律事務所の弁護士プールを抱えており、もしクライアントが新しいテンプレートを依頼したい場合や、既存のテンプレートのレビューを法律事務所に依頼したい場合は、LinkSignがグローバルな法律事務所ネットワークを通してつなぐことも可能という。
LinkSignには、もうひとつのビジネスモデルとしてSaaSモデルがある。SaaSでは、クライアントがモジュールベースで電子署名を提供したい場合は、そのニーズに基づき提供することも可能という。
リーガルITソリューションを目指すLinkSignのロードマップ
同社のロードマップでは、電子署名プラットフォームは第1ステップという。将来的には、リーガルITソリューションになること検討している。
リーガルITソリューションでは、同社のプラットフォームを使用した契約、ライフサイクル管理を提供し、eディスカバリーのサービス、さらに契約作成、レビュー支援を提供する。リーガルテックビジネスという点でも、法的な部分とテクノロジーを融合していくとした。
また、電子契約プラットフォームを利用することで、より多くのデータを収集できるため、情報を蓄積・活用しながらさらにAIプラットフォームも強化していくという。契約データを収集する際にはブロックチェーンシステムを使い、透明性を担保し、オープンにしていく。電子署名サービスは、一部無償で提供しており、より多くの人が試すことが可能という。
テクノロジーを融合させることにより、同社は、仕事でもプライベートでも法律アシスタントを提供するリーガルサービスも可能と考えているという。同社は、これを未来のAI弁護士と呼んでいるそうだ。特にクライアントのパーソナルな領域においても、法的な支援を提供していきたいと考えているそうだ。次世代の契約プラットフォームが我々のLinkSignで実現可能であるとして、Cho氏はまとめた。
クリエイターとファンをつなぐソーシャルメディア「aFan」(アファン)
続いてのセッションは、LINE Blockchain基盤を使ったクリエイターとファンをつなぐSNSおよび分散型アプリ「aFan」(アファン)。解説は、Common Computerブロックチェーンデベロッパー ソフトウェアエンジニアのLia Yoo氏。テーマは、。Ethereum(イーサリアム)からLINE Blockchainへの移行について明かした「Scaling Ethereum dApp to LINE Blockchain」。
aFanは、最近EthereumからLINE Blockchainベースに拡張したという。今回は、aFanについて簡単に説明を行い、なぜブロックチェーンをLINE Blockchainに変更したのか、どのように変えたのか、そしてブロックチェーン上で新たに開発した機能を紹介する。
aFanにおいてクリエイターとファンは、直接お互いをサポートしあい、共に成長できるようにしており、一般的なSNSアプリ同様、写真のアップやユーザー同士のフォロー、いいねやコメントをしあえる。
aFanの特徴は、「FANCO」(ファンコ)という暗号資産がエコシステムの中に組み込まれている点にある。クリエイターやファンは、好きな投稿に対してFANCOを贈ることができる。そのFANCOは投稿者に渡されるという。
aFanはSNSアプリには珍しくポートフォリオ機能を搭載しており、aFanにはなくてはならないものだという。ユーザーは、ポートフォリオページにおいて、FANCOをどれだけ受け取ったのか、自分の好きなクリエイターへどれだけ贈ったかを確認できる。また、引き出し機能というものがある。ユーザーはaFanからFANCOを引き出し、自分のブロックチェーン口座に入金できる。また、FANCOをアプリに預けることもできる。
SNSのエコシステムに暗号資産を組み込むには?
当初、同社はFANCOをSNSのエコシステムの中に取り入れさえすれば、ユーザーが積極的に使うようになると考えていた。P2Pの報酬システムというものがすぐに受け入れられると思っていたという。aFanは、熱心にFANCOをクリエイターに贈り、作品をサポートし、クリエイターに対してよりよい作品を作ろうという刺激になると思っていたそうだ。
しかし開発を続けていく中で、そう簡単なものではないと気づかされたという。サービス提供者は、ただ単に報酬を与えるツールを提供するだけではなく、もっとユーザーフレンドリーにならなければならないと悟ったそうだ。
aFanの開発スタートは2年前のことで、テスト済みエコシステムを成長させられそうで、なおかつ比較的簡単に使えるブロックチェーンプロジェクトは当時少なかった。誰もがEthereumのスマートコントラクトでERC-20準拠のトークンを利用しているという状況だったという。
当時のEthereumデベロッパーコミュニティが活発だったこともあり、事例やドキュメントなども豊富で、インターネット上で簡単に探し出せた。そういった自然の流れで、FANCOはEthereumのERC-20準拠トークンとして発行・展開してきたそうだ。
同社は、ユーザーがFANCOを購入したり、交換したり、預けたり、引き出したりできるようにしたが、ユーザーの中にEthereumの仕組みを理解している人は少なく、SNSを利用していく中で、アドレスベースのシステムと取引速度の遅さに不満を持つようになったという。この仕組みを理解しているユーザーは10%未満にとどまる結果になった。
同社は、ユーザーがSNSを利用していく中で、そういったことは考えたくないのだと理解したという。そこで、ブロックチェーンをLINE Blockchainに変更した。LINE Blockchainは、多くのユーザーが慣れ親しんできたユーザーフレンドリーなプラットフォームがベースであり、またトランザクションの確認も数秒と非常に速く、ストレスがない。
LINE Blockchain導入のさらなるメリット
LINE Blockchain導入でトークンのやり取りが簡単になったことに加えて、同社はさらなるメリットとして、ユーザーに事前にトークンを送付できる点を挙げた。LINE Blockchainでは、ユーザーがBITMAX Walletについて知らなくても、またBITMAXと契約する前でも、トークンを送ることができる。
もちろんユーザーがトークンを受け取り、それを確認し、他のウォレットに送りたいのであれば、BITMAXとの契約(口座開設)は必要になる。しかし開発者側からすれば、ユーザーにトークンを渡すために、ユーザーにあらかじめウォレットの仕組みを説明し理解してもらい、使ってもらうよう説得する手間がはぶけることはメリットが非常に大きいという。
また、LINE IDをベースとするLINE Blockchainは、ユーザーがいったんBITMAX Walletに登録すると、自分のウォレット鍵が何かとか、友達のウォレット鍵が何かというようなことを考えずに、FANCOを友達に送ることができる。Yoo氏はこれが、LINE BlockchainでdAppを開発する一番のメリットと断言する。
aFanの将来について
現在、NFTとして開発中のファンカードは、クリエイターがファンのために作成できるクリエイター独自のバッジのようなものという。将来、各個別トークンがユーザーから「トークン」としては意識されない存在になると、ファンカードが独自性を持つと同社は考えている。
ファンカードは、よりパーソナルな意味合いがあり、共有したり、見せびらかしたりするようなものにしたいという。ファンカードには、クリエイター名や発行枚数、発行者、メリット、イメージ、ファンへのメッセージなどの価値を持たせることができる。同社は、これをNFTのメタデータに記録するが、これらは暗号化し、情報を圧縮し記憶する。
メリットの事例としては、クリエイターが特別なLINEスタンプを作り、そのURLを埋め込むようなこと考えているそうだ。また、メリットは隠されており、解除条件などが設定でき、解除条件をクリアしたユーザーだけが見られる仕組みという。
クリエイターは、解除条件をファンカードに設定できる。条件としては、クリエイターに対して贈ったFANCOの数や、いいねの数、投稿コメントの数などを設定できるという。これらの条件や解除方法については、ファンカードを開発しながら、今後調整していくとした。
イーサリアム上で開発していたら、こういったことは不可能だっただろうと最後にYoo氏は語った。
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