風力を直接動力として自動航行する貨物帆船の開発を進めるエバーブルーテクノロジーズは、4月27日、逗子湾での貨物輸送の実証試験に成功したことを発表した。
地球温暖化対策として陸上輸送は電動化が進んでいるが、海上輸送は石油を燃やす動力船が主流だ。大型貨物船の電動化は大型のバッテリーを搭載する必要があるため、貨物の積載量を圧迫し、充電にも相当な長時間になるなど、現時点では現実的ではない。そこでエバーブルーテクノロジーズは自動航行できる帆船に目を付けた。これなら、人件費も燃料代も「ほぼゼロにすることが可能」だという。
今回の試験に使われたのは、2020年に開発された「Type-A プロトタイプ」と呼ばれる全長2mの無人操船ヨット、つまり帆船型ドローンだ。救援物資や医薬品の輸送を想定して、それに見立てたプリン500gを保冷剤とともにクーラーバッグに入れてカーボスペースに搭載。葉山町小浜海岸から逗子海岸のヨット利用エリア前までの約1kmを、あらかじめ設定された経由地を通過して、風力だけで自動帆走した。所要時間はおよそ12分。
船体の基本設計は、アメリカズカップチームに10年間所属し、最先端技術でヨットの設計を行ってきた船舶海洋工学博士でATCの共同創設者金井亮浩氏によるもの。「無人ヨットに最適」な三胴構造(トリマラン)になっている。
Type−Aが小型なのにはワケがある。エバーブルーテクノロジーズでは小型船舶の利点に着目しているからだ。その理由として特に重要な点として、小型船は大型船と違い港湾施設を必要としないことが挙げられる。大型船に大量の貨物を積み込んだ場合、港からさらにトラックなどで個別地域に輸送する必要が生じるが、小型船なら宅配トラックのように、海岸線の必要な場所へ直接届けることができる。
そうした特長から、同社の帆船ドローンは災害時の救援物資輸送の手段として期待されている。陸路が分断されエネルギーインフラが被害を受けた状況でも、風だけで目的地に救援物資や医薬品を輸送できるからだ。飛行型ドローンと違って、飲料水などの重量物やトイレットペーパーなどのかさばるものが運べる点も大きい。同社では、「輸血用血液など急を要するものは飛行型ドローン、重量物や日用品は船舶型といった使い分けをすることで、災害時、効果的に対応可能」と話している。
現在、エバーブルーテクノロジーズは、100kgの貨物が積める5m級のヨットを開発中で、2021年の夏には輸送実験を予定している。また、「飛行型と船舶型ドローンのハイブリッド」Type-Pを、シンガポール国立大学と共同で進めているところだ。
ゆくゆくは、潮力や波力など海の再生可能エネルギーで水素を製造し自動操船ヨットで運ぶ海上水素サプライチェーン「ハイドロループ」の構築し、水素エネルギーを利用した船舶の電動化を推し進め、海上での水素エネルギー補給サービスの展開を、エバーブルーテクノロジーズは目指している。
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