エラストマー素材で作られた自立動作する虫形ロボットはハエ叩きにも負けない

自然はロボティクスのインスピレーションの源となることが多い。しかし実際のプロダクトに結実する例は非常に稀だ。それでも我々は少しずつ自然に近づいている。ここで紹介する小さな虫形ロボットはソフト素材で作られており、1gくらいしかない。それでも素早く動くことができ、ある程度の知能を備えており、なんとハエ叩きで叩かれても生き延びる。

マイクロロボットは妥協の産物だ。素早く動けるが外部動力が必要、知能を備えているが遠隔操縦が必要、消費エネルギーが極小だが素早く動けず、知能も低いなどだ。

誘電エラストマー・アクチュエータ(Dielectric Elastomer Actuators)の頭文字をとってDEAnsectと呼ばれるこの虫形ロボットは運動能力、知能、省エネを同時に達成しようという野心的な試みだ。もちろんそれぞれの能力は極小サイズによって限定されている。

ロボットは小さな3本の脚を動かして運動する。脚に流れる電流がエラストマー素材を変形させることでロボットを前に引きずるかたちになる。1回の動きはごく小さいが毎秒何回も繰り返されるため、我々の目にはロボットはかなりのスピードで前進するように見える。速度は毎秒体長の30%ほどで、これはキッチンに出没するアブラムシやクモほどの素早さではないが、ほかのミニロボットに比べれば十分に速い。

しかし最も重要なのは誘電エラストマーの採用によりエネルギー効率と堅牢さが飛躍的に上昇した点だろう。DEAnsectは19mgの本体の5倍の重さになるバッテリーと電子回路を内蔵できる。電子回路はごく簡単なものだが、それでも初歩的な自立動作が可能だ。 例えば、極小の光学センサーからの情報で白地の上に引かれた黒い線をたどって移動するなどが可能だ。

堅牢さでいえば、トップのGIF画像でご覧のとおり家庭用のハエ叩きで叩かれても作動を続ける。もちろんぺちゃんこになった後はその場所から剥がさねばならないが、その後はまた問題なく作動を続ける。

極小のサイズと能力からして、このロボットが実行できる実用性あるタスクはいまのところ見つかっていない。しかしソフト素材によるロボティクスの分野に大きな可能性を感じさせる成果といっていいだろう。

DEAnsectはXiaobin Ji(シャオビン・ジ)氏とMatthias Imboden(マティアス・インボーデン)氏のチームがEPFL(スイス連邦工科大学)Soft Transducers Lab(ソフト・トランスデューサ・ラボ)で開発した。本日12月18日、詳細がScience Roboticsに発表された。

【Japan編集部追記】上記Scince Roboticsのリンク先にはビデオが3本公開されており、ロボットが8の字の線をたどる、誘電エラストマーの伸縮、ハエ叩きで叩かれた前後がそれぞれ撮影されている。ロボットはハエ叩きで叩かれると変形して動けなくなるが、その場から持ち上げられるとまた動き出している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook