オンライン小売業者の偽チャージバック対策をAIで支援するJusttが計80億円を調達して登場

チャージバック軽減に取り組むテルアビブ拠点のスタートアップJustt(ジャスト)は現地時間11月16日、総額7000万ドル(約80億円)となる資金調達でステルス状態から登場した。

2020年2月にRoenen Ben-Ami(ロエネン・ベン・アミ)氏とOfir Tahor(オフィール・タホール)氏によって創業されたJusttは、オンライン小売業者に代わってチャージバック異議を完全に自動化する、と話す。同社は最近、コネチカット州グリニッジを拠点とするOak HC/FTがリードしたシリーズBラウンドで5000万ドル(約57億円)を調達した。このラウンドは、2月にZeev Venturesがリードした1500万ドル(約17億円)、2020年11月にF2 Venture Capitalがリードした500万ドル(約5億7000万円)の資金調達ラウンドに続くものだ。Justtの戦略的個人投資家には、PayPalの元社長David Marcus(デイビッド・マーカス)氏、Square Capitalの元代表Jacqueline Reses(ジャックリーン・ローズス)氏、DoorDashの幹部Gokul Rajaram(ゴクル・ラジャラム)氏などがいる。

以前AcroChargeという社名だったJusttは、年間経常収益(ARR)が2020年9月に比べて900%増加していると話す。従業員数は1年前の3人から110人超に増加している。同社は、シリーズBでの評価額については明らかにしなかった。

知らない人のために説明すると、チャージバックとは、クレジットカード会社が小売業者に対して、不正な取引や問題のある取引の損失を補填するよう要求することだ。Justtは、自社開発した人工知能を用いて、世界中の小売業者が偽のチャージバックに対処できるようにすることを目指している。

偽のチャージバックは「フレンドリー詐欺」とも呼ばれ、消費者がクレジットカードやデビットカードへの請求に不正に異議を唱えることで、金融機関が支払いをキャンセルし、小売業者が損失を被る。JusttのAI駆動の技術は、不正なチャージバックにフラグを立てるように設計されている。不正なチャージバックは通常、異議の85%以上を占め、年間1250億ドル(約14兆円)超の損失につながっているとJusttは話す。同社は、カードプロセッサーを統合している各小売業者に合わせたシステムを構築し、不正なチャージバック請求を否定する証拠を収集してその情報を小売業者に代わってクレジットカード会社に提出する。

最終的には、フィンテックのユニコーン企業Melioや、ブロックチェーンベースの決済会社Wyreなど、大企業を中心とした企業の社内チャージバック軽減プログラムに置き換わることを目指している。Justtは顧客のために月に1万件以上のチャージバックを処理している。

「チャージバックシステムは基本的に不正なものですが、多くの業者はその損失を単にビジネスのコストと捉えています。Justtではもっと良い方法があると信じています。eコマースの販売業者は、この古めかしいシステムを乗り越えるために誰かの助けを必要としているのです」とCEOで共同創業者のタホール氏は話した。

タホール氏は、Chargehound、Chargeback.com、Midigatorなど同業他社と自社は異なると考えている。これらの企業は技術的ツールを提供しているが「それでも顧客はテンプレートの作成や証拠の収集に必要な専門知識を備えた社内チームを維持する必要がある」。

「これらのシステムは、最適化と成功率の向上を顧客のチームに依存しており、Justtのようなフルサービスのソリューションは提供していません」とタホール氏は指摘する。

他の競合他社はフルサービスを提供しているが、顧客のチャージバック処理を支援するためにオフショアチームを使って証拠作成を手作業で管理していると同氏は主張する。

「技術的な要素がないため、オフショアチームは一般的なテンプレートに頼ってしまい、パフォーマンスの低下を招いています」。

同氏によると、Justtは調査チームが小売業者の精算プロセス、利用規約、確認メール、チャージバック理由コードなどを分析し、よりカスタマイズされたサービスを提供する点が異なるという。

同社のビジネスモデルは、潜在的な顧客のリスクを最小限に抑えるように設計されている。顧客の売上が回収されない限り、顧客には何の請求もない。

「我々のビジネスモデルはすべて成功に基づいています。統合費用や案件ごとの費用は一切ありません。当社が手数料を請求するのは、小売業者が取引詐欺の減少によって実際に節約できた場合のみです」とタホール氏はTechCrunchに語った。

Justtが設立されたのは、パンデミックによってオンライン取引が急増し、それにともなって不正なチャージバック行為が急増した時期だった。

「それ以来、当社のソリューションに対する需要はうなぎのぼりです。これは、オンラインビジネスやオンライン取引の一般的な成長と、経済的圧力、サプライチェーンの問題、配達遅延など特定のプレッシャーによって引き起こされたもので、不正取引の取り消しの増加に拍車をかけています」とタホール氏は話した。

同社は、新たに得た資金を製品開発、販売、マーケティングに「重点的」に投資する予定で、ここには販売とマーケティングの業務を米国と欧州に拡大することも含まれている。また、2022年にはイスラエルの研究開発部門の人員を3倍に増やすことも予定している。

タホール氏は「今回の資金調達により、ニューヨーク市に米国本社を設置し、西海岸のオフィス開設の準備を行うなど、北米市場への積極的な進出を計画しています。また、市場機会に応じて、欧州地域へのサービス提供にも投資していきます」と述べた。

Oak HC/FTのパートナーMatt Streisfeld(マット・ストリスフェルド)氏によると、Justtでは取引後に発生する不正なチャージバックによって失われた60〜80%の収益を取り戻すことができる。

eコマースブームでは不正チャージバックによる企業のリスクが高まっているにもかかわらず、不正なチャージバックを特定して追跡し、異議を唱え、失われた収益を回収するシステムを導入しているブランドはほとんどない、とストリスフェルド氏は指摘する。

「ほとんどのブランドは、これらの損失を単に帳消しにしています。これは持続不可能でコストのかかるアプローチであり、小売業者が新たな方法を模索する中で、Justtは今後5年間で記録的な普及を遂げるはずです」と同氏は電子メールに書いた。

画像クレジット:Justt

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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