クラウド型受付システム「RECEPTIONIST(レセプショニスト)」を提供するディライテッドは2月21日、セールスフォース・ドットコムの投資部門Salesforce Venturesを引受先とする第三者割当増資により、資金調達を実施したことを明らかにした。調達金額は非公開だが、1000万円を超えない規模とみられる。ディライテッドでは、Salesforceとの資本提携により、サービス連携も進めていく考えだ。
ディライテッドは何度か外部からの資金調達を行っており、今回の調達は2018年3月に発表された総額約1.2億円の調達に続くものとなる。
大手向けに進化したRECEPTIONIST、アポ調整機能も追加
RECEPTIONISTは、TechCrunch Tokyo 2015で開催されたハッカソンで生まれた「キヨタン」というiPad受付アプリをベースに、譲渡を受けたディライテッドが追加開発を行って、2017年1月からサービス提供を開始したという経緯を持つ。同社は2017年秋開催のTechCrunch Tokyo 2017スタートアップバトルにも参加し、東急電鉄賞を獲得している。
RECEPTIONISTでは、従来の内線による来客対応を、SlackやChatworkなどのビジネスチャットやSMSで直接担当者に通知することで置き換え、無人化している。来訪者がiPadアプリで担当者の名前を検索して受付できるほか、事前に来客予定を登録すれば、来客宛に受付コードをメールで送信でき、さらに受付を簡単にすることもできる。また来客者の履歴はデータで残すことができ、検索や来客動向の分析も可能だ(閲覧権限も設定できる)。
インターネットに接続できる環境とiPadがあれば、導入工事や初期費用が不要なため、スタートアップや中小規模の企業を中心に利用されていたが、ディライテッド代表取締役CEOの橋本真里子氏によると「大企業向け機能も充実させたことで、サービス開始から2年目以降は1000人以上の規模の会社にも利用が広がった」とのこと。現在は導入企業1300社を超えているという。
「例えば、アプリにはもともとカスタマイズ可能なボタンが4つ用意されていたが、これを階層化できるようにした。大手企業では一口に採用担当といっても新卒、中途で担当が異なる場合もある。配送受付にしても、宅配便なのかバイク便なのか、またはお弁当の配達なのか、というのでは受付する人が違う。お弁当配達では、これまで総務の方が『お弁当が来ました』と毎回告知していたのを、社内への一斉同報で『頼んだ方は取りに来て』と通知する形にしたことで、総務の負担が減り、重宝してもらっている」(橋本氏)
2018年12月には、ミーティングの日程調整が可能な新機能「調整アポ」も追加した。既存のカレンダーツールと連携・同期することで、関係者のスケジュールや会議室の空き状況をRECEPTIONISTの管理画面上へ表示。候補日時を選択し、会議室の仮押さえができる。来客には候補日時がみられるURLを発行し、メールを自動送信(チャット、メッセージツールでもURLは送れる)。URLを受け取った来客は画面上で候補の中から日時を確定し、社名・氏名を入力すると受付コードが発行される。この時、仮押さえした候補日時の予定は自動で解放されるので、出迎える側は当日、来客通知が来るまでは何もする必要はない。現在はGoogle カレンダーに連携可能で、近日Office365 Outlookへの対応も予定しているという。
確かにミーティングの日程調整は誰しも面倒なもの。つい先日も「以下の日程でご都合いかがでしょうかメーカー」が現れたときにはTwitterで大きな反響があった。
橋本氏は「事前の来客登録で受付コードを発行・お客さまに通知することで、RECEPTIONISTをまだ導入していない企業への認知・普及を図ったが、アポイントメントの事前登録には、必ず日程調整という作業をともなうし、そこが誰もが困っている点でもある。であれば、日程調整と受付機能が個別であるより、連携して使えた方がいい」と、日程調整から来客受付までをワンストップで行えるようにした理由について説明した。
また、受付システムとしてスタートしたRECEPTIONISTは、SaaSなど新しいサービスを使った業務改革に対して、総務担当者が感度の高い企業の導入が多かったということだが、日程調整機能が加わったことで「営業担当など別のルートからの引き合いの可能性も広がった」という橋本氏。「『日程調整ツールを入れるなら、受付システムも一緒に変えよう』と導入を検討してもらえる」と話している。
「現場のペインを分かっている方がよいサービスを提供できる」
今回のディライテッドへの出資について、セールスフォース・ドットコム常務執行役員でセールスフォース・ベンチャーズ日本代表の浅田慎二氏は、「Japan Trailblazer Fundからの出資のひとつ」と述べている。このファンドは、日本のエンタープライズ系スタートアップのためにSalesforce Ventureが設立したローカルファンドだ。2018年12月に1億ドル規模のファンド設立が発表されている。
浅田氏は「Salesforceではクラウド型の営業管理プロダクトを提供しており、広く捉えれば『データの蓄積をもとに、よい仕事の方法を提供する』ということをやっている。ここで来訪者を管理するという側面からみれば、まだデータ化されていない部分が多い」と話す。
「来客受付の手続きは、受付する人も、来訪する人も面倒なもの。システム化されていなければ、紙の受付票や人による取次などが必要で、しかも紙・人により制約されている。また大きな企業や、オフィスビルの入口でも、受付票や名刺で身分確認を行ってはいても、本当にセキュアとは言えないだろう」(浅田氏)
欧米の来客受付システムでは「Envoy」がマーケットをリード、多くの導入事例も持っている。またカナダのスタートアップが提供する「Traction Guest」は、セキュリティ監査への対応機能を備えるなど、ビジネスユースで求められる機能を特徴としていて、Salesforce Ventureも出資している。
日本で投資先としてディライテッドに白羽の矢が立てられたのは、代表の橋本氏が実務で受付業務を経験してきたことが大きい、と浅田氏は述べている。「SaaSプロダクトでは、現場のペイン(痛み)を分かっている人の方が、よりよいサービスを提供できる。橋本氏は受付の課題を解決したいという情熱も強く、ぜひ投資したいと考えた」(浅田氏)
今後、マーケティングやプロダクトのあり方など、Salesforceで培われた法人向け営業のノウハウをディライテッドにも投入し、クロスセルなどでも支援していく、と浅田氏はいう。また多くの投資先を抱えるCVCとしても「経営視点で情報をシェアしていく」と浅田氏は述べている。
橋本氏は「サービス開始から1年目、2年目と思った以上にニーズを得て、スタートアップだけでなく、大手・非IT企業にも導入が進んだ。3年目を迎え、ニーズがあるはずという思いが確証へ変わっていくなか、SaaSであっても営業も大切だと感じるようになった」として、このタイミングで「Salesforceの持つリソースを借りて、よりさまざまな分野へ拡大を目指す」と話している。
現在も、通常のオフィス来客受付だけでなく、ユーザー会などセミナー開催の受付や、美容院・サロンなどのレセプションなどで引き合いがあるというRECEPTIONISTだが、これを機にさらに幅広く利用してもらうべく、サービス拡充を検討していくという。
「顧客からの声は聞くようにしているが、社内だけでディスカッションしているだけでは、なかなか(視点が)広がらない。Salesforceとのディスカッションにより、SaaSのプロとしての視点で、スピード感を持ってサービスの考え方・進め方が聞けるのは有益だ。経験や知識も投資のひとつとして、お金の部分だけではないところで支援を得ていきたい」(橋本氏)
製品でも両社は、Salesforceが提供するCRMソリューション「Sales Cloud」とRECEPTIONISTとの連携を計画している。RECEPTIONISTが持つ来訪者データをSales Cloudへ連携することで、来客データを蓄積。受付と同時に自動で新規リードを作成する、顧客データと来客者をひも付け、活動履歴を更新する、といった連携を予定しているということだ。
また来訪目的の分析や、面接での来訪者のトラッキングなどでもデータの蓄積は役に立つ、と両社は考えている。「例えば受付業務の8割が配送関係だと分かれば『別に専用窓口を用意しよう』といった判断もできる。データがあれば、業務効率化推進につながるだろう」(浅田氏)