グローバル企業に必須のユニバーサルアクセプタンス

拡大するグローバルビジネスでも、システムが、「.世界」や、「.ОНЛАЙН」など(英語なら、それぞれ「.world」と「.online」)といった拡張子を持つウェブアドレスと互換性を欠いたものだったら、利益を取りこぼしてしまう。このような機会の損失は、このところ増加する一方だ。2017年の調査では、軽く年間100億ドル(約10億9400万円)近くの規模のeコマース市場に相当すると結論付けられていた。しかも、これは控えめな見積もりだ。

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その理由を理解するには、次の2つの事実を考えてみればいい。

まず第1に、通常のラテン系アルファベット類の文字は、世界人口の3分の1をちょっと超える程度の人しか使っていない。その数は、中国語、アラビア語、キリル文字、デバナーガリ文字などを毎日読み書きしている数十億の人々には、とても及ばない。しかも、そうした文字は、人口増加、経済成長、インターネットの普及など、すべてが世界平均を上回っている地域で使用されている。

そして第2に、インターネットのナビゲート方法の革新によって、世界の各地域で使われているさまざまな文字のドメイン名が、世界の大部分で利用できるようになっている。2012年には、いわゆる一般的なドメイン名(よく知られた.comや.eduなどの拡張子を持つ部分)は、わずか22個だった。現在では、その数は1500を超えている。

このようなイノベーションは、たとえば日本のウェブサーファーが、キーボードを全角から半角に切り替えて「www」や「.com」を入力する必要があった時代を、事実上終わらせる。というのも、今やドメイン名全体を日本語で書くこともできるようになったからだ。

この変化は、世界中の急速に成長している市場で非常に重要だ。特にアジアでは、多言語の利用は一般的ではなく、スマートフォンの新規ユーザーが、デジタル化と経済成長の主な推進力となっている。今日でも、すべてのウェブアドレスのうち、漢字で記述されているのはほんの一部に過ぎない。中国標準語を話す人は、世界のインターネットユーザー人口のほぼ5分の1を占めているというのに。

オンライン消費者の次の波とさらに大きく関わってくるのは、新しいドメイン名に加えて、電子メールアドレスも異なるスクリプトで表記され得ること。そうしたメールアドレスを使用してサービスにサインアップしたり、プラットフォームにサインインしたりする人も、今後増えるはずだ。

賢明なグローバルな企業、そしてグローバル化への志の高い企業が、大きな死角をなくすために行動しているのは、そのためだ。多くのソフトウェア開発者や企業のリーダーは、英語圏、または「ラテン系アルファベット」が使われている世界に住んでおり、そういった人々にとって、インターネットは非常にスムーズに機能している。そのため彼らは、あらゆるドメイン名を等しく受け入れるために、ソフトウェアやアプリをアップグレードするための重要なステップを踏んでいない。そのための手順は、ドメイン名と電子メールアドレスに関する「ユニバーサルアクセプタンス」と呼ばれる、一種のベストプラクティスだ。

システムがユニバーサルアクセプタンスに対応していない場合、異なるスクリプトによるドメイン名または電子メールアドレスを使用しているユーザーは、自分のドメイン名や電子メールアドレスを入力しても「有効」と認識されないため、そうしたシステムを利用することができない。これは、大きな機会損失だ。JavaやPythonなどのプログラミング言語には、そのためのコードライブラリが既に存在していて、このようなタスクも「バグ修正」と同様にあつかうことができる。しかし、これは大きな意味を持つ修正となる。

ユニバーサルアクセプタンスの重要性を把握するには、インドのことを考えてみればいい。そこは、インターネットユーザー人口が、地球上で最も急速に成長している地域であり、明確なケーススタディを提供してくれる。

インドでは、全般的にインターネットの普及が進んでいるが、特に田舎ではさらに急速に普及している。インドのインターネットユーザー数は、最近5億人を超え、2020年までには6億2700万人に達する勢いだ。その5分の2のユーザーは農村地域にいる。そしてインドには22の公用語があり、ほとんどのユーザーはモバイルデバイスを使っていることも忘れてはならない。

インドのラジャスタン州で、最近州政府は、6900万の個々の住民にヒンディー語と英語、両方の電子メールアドレスを無料で提供した。それと同時に、オンラインの公共サービスを、ユニバーサルアクセプタンス対応で運営している。すべてヒンディー語でも利用可能となっているのだ。この対応のために、開発者は30日間ほど集中的に取り組む必要があったが、おかげで住民はヒンディー語の電子メールアドレスだけで、一連のオンラインプラットフォームとサービスにアクセスできるようになった。このラジャスタンの住民のうちのいくらかは、読者の将来の顧客になるかもしれない。

Microsoft(マイクロソフト)は、このような互換性を推し進めている企業の1つだ。昨年、同社の電子メールプラットフォームは、インド全土で話されているもののうち、なんと15種もの言語について、電子メールアドレス国際化(EAI、Email Address Internationalization)を達成したと発表した。Microsoft IndiaのCOOであるMeetul Patel(ミータル・ペイテル)氏は、以下のように述べている

「言語がテクノロジーの採用に対する障壁にならないようにすることは、デジタルインクルージョンの達成と成長の鍵です。15種類の言語で電子メールアドレスを記述できるようにすることは、現代のコミュニケーションおよびコラボレーションツールを、すべての人にとってアクセスしやすく、使いやすいものにするための、ワクワクするようなステップです。私たちは、その実現を目指して不断の努力を続けてきました。私たちがしているのは、テクノロジーに人々の言語を使わせることであって、人々にテクノロジーの標準言語をまず学んでもらうことではないのです」。

このようなメリットにもかかわらず、その達成にはまだまだ多くの作業が残っている。世界の上位1000のウェブサイトに関する最近のレビューでは、現在使われているすべての言語の電子メールアドレスを受け付けたのは、わずかに5%程度だった。

ユニバーサルアクセプタンスをサポートするよう、システムを更新することは、さまざまなスクリプトで記述された言語を使う数十億の人々にとって、インターネットをアクセスしやすいものにするための簡単な方法だ。そして、デジタルインクルージョン支持者が大切にする大義ともなっている。一方、新しいグローバル市場を探求するビジネスにとっては、グローバルなオンラインプラットフォームの時代において、直接的なeコマースからシェアリングエコノミーまで、競争力を差別化する重大な要因なのだ。この先行者利益は、数十億ドルに相当する可能性もある。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

投稿者:

TechCrunch Japan

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