ゲーム専用機: いよいよご臨終か?

数日前にSonyは、Playstation 4が600万台売れたと発表した。肩を並べるMicrosoftの次世代ゲーム機Xbox Oneは、ほぼ400万台に達しているようだ。ゲーム専用機の両横綱はどちらも昨年の11月の終り頃に発売され、クリスマス年末商戦を競った。両社はどちらも、全世界および合衆国のような主要市場におけるゲーム機やゲームの売上で、トップを名乗るべく鎬(しのぎ)を削っている。

そして今のところは、PS4が首位、XB1は二位のようだ。

しかしどちらも、その売上台数は、前世代機に比べて見劣りがする。ゲーム専用機市場(コンソール(console)市場)は大幅に縮小しており、ゲーム制作企業やゲームのデベロッパが受けているダメージは大きい。とりわけ、つねに複数のプラットホームに張っている大手にとっては、市場全体の動向が業績を左右する。

ゲーム機メーカーは昔のように嬉々としてデータを発表しなくなったから、最近の次世代機の売上については明確な数字が得られにくい。でも、最近の彼らのこの寡黙が、実は何よりも雄弁だ。ここでは調査会社NPDの業界データをもとに、北米地区における売上の動向を探ってみよう。

まず、下の表は、NPDの公式データによる主要ゲーム機の2007年1月の売上台数(北米地区)だ。それは、2006年のホリデイシーズンの直後である:

Wii: 436,000
360: 294,000
PS3: 244,000
PS2: 299,000
NDS: 239,000
PSP: 211,000
GBA: 179,000
GC: 34,000

これらの数字の合計は、200万弱となる。

さて今度は、こちらはNPDの推計データになってしまうが、2014年1月の売上台数だ:

PS4: 271,000
XB1: 141,000
3DS: ~97,000
PS3: ~53,500
Wii U: ~49,000
360: ~48,500
Vita: ~17,000

これらの数字の合計は70万弱となる。この、200万対~70万という数字は、市場の大きな縮小を物語っている。~70万は最大で70万という意味だが、今後多少上方修正されたとしても、落差の大きさは解消しないだろう。

極端に悲惨なのはWiiだが、でも全体的に市場は縮小している。 Xboxも、Oneは前世代機360の半分に満たない。しかも2007年では前世代機PS2が、今年の現世代機PS4よりもたくさん売れているのだ。

別の情報によると、2014年1月の、ゲーム機とゲームを合わせた売上は前年同期比で1%ダウン、とされている。2012年年末には目立った新製品の発売はなく、逆に2013年年末は二大旗艦機の新型機が出たのだから、それで1%ダウンはあまりにも寂しい。つまり、市場回復のきざしはなかった、ということだ。

[pullquote]PS4とXB1は、主要ゲーム機としては初めて、最新ではない技術を使っている。[/pullquote]

たしかにPS4はこの時期、本国市場では未発売だったが、しかし日本での出だしもあまり芳しくない。日本の市場調査会社Media Createによると、PS4の発売第二週の売上台数は65685で、PS Vitaの72479やWii Uの130653に比べて低い。

本国で派手に新発売されたPS4も、市場に弾みをつけることはできなかった。

人気上位のゲーム機は、世代をあらためるたびに、ゲームの開発費用が高騰していく。しかしゲーム機本体の売上台数が伸びないのなら(ゲームも売れないから)、その費用を回収するすべがない。

これまで、好評のBioshock Infiniteを400万も売ったIrrational Gamesがついに白旗を掲げた。これに限らず、著名ゲームスタジオの近年の敗退歴は、死屍累々というありさまだ(NeoGAFのフォーラムより)。

今後、新世代ゲーム機PS4やXB1の売上がどうなるか、それを予言するのは早すぎるとはいえ、市場の縮退という事実はもはや覆い隠せない。

新世代機の売上が伸びないだけでなく、これまで見られた、旧世代機が売上のロングテールを支える、という現象もない。つまり、PS3/360/Wiiの落ち込みは、往時におけるPS2/GCの落ち込みよりも、びっくりするほど急峻なのだ。旧世代機が長くたくさん売れるという傾向がなくなり、むしろ消費者離れの傾向が顕著だ。

ゲーム専用機の市場の斜陽化、その原因は何だろう? まず挙げられるのは、消費者のゲームプレイの多くがモバイルデバイスに移行したこと。さらに2007年以降は、ゲーム以外のモバイルアプリやソーシャルネットワーキングがメインストリームになり、消費者の余暇時間を大きく奪った。またモバイルのカジュアルゲームにAngry BirdsやCandy Crushなどの大ヒットが現れ、さらにモバイルのメッセージングが大人気となり、消費者の余暇時間を填め尽くした。

デバイスのリフレッシュでも、ゲーム専用機は遅れを取るようになった。モバイルデバイスはふつう、1年でピカピカ新製品のハードウェアへとアップグレードされる。また、別の方向では、きわめてハイエンドなPCにゲーマーたちを奪われる。グラフィクスの性能やフレームレートなどでは、それらの最高クラスのPCの方がゲーム機よりも上で、したがってゲーム体験の内容も濃い。

[pullquote]カジュアルはモバイルへ行き、高度なゲームファンは見栄えの良いPCへ行く。伝統的なゲーム専用機は、左右両側から押しつぶされる。[/pullquote]

私にNPDのリークデータの存在を教えてくれたベテランのゲームデベロッパは、この業界に10年以上いる人物だが、彼はこう言う: “PS4/XB1は、史上初の、古い世代の技術を使っているゲーム機だ。今なら、2年前に出たGPUですら、これらのゲーム専用機が使っているものより良い。最新の低価格GPU、150ドルクラスのでも、PS4/XB1よりは良い。今のいちばんハイエンドのGPUなら、これらのゲーム機の3倍のパフォーマンスがある。しかもそれらのGPUは新世代の最初の製品だから、これからはいよいよ、前代未聞、驚異的なゲームグラフィクスの時代が来る”。

“つまり、カジュアルはモバイルへ行き、高度なゲームファンは見栄えの良いPCへ行く。伝統的なゲーム専用機は、左右両側から押しつぶされる”。

ゲーム専用機の、もう一つの困った問題は、市場の衰退に伴ってゲームタイトルの選択肢の幅がますます細っていることだ。小さなニッチのゲーム、きわめて多様なミッドサイズのゲーム、そしてトリプルAクラスの超大作、といった幅広い品揃えは、もはや過去のものだ。

業界は少数の超大作だけに注力することによって、開発費用の高騰を埋め合わせようとしているが、それだけの大きな開発費を出せる企業はとても少ないので、そういう大作ゲームも選択肢の幅が先細っている。今では一社が一年にビッグタイトル二作、しかも多くは、過去のヒット作の続編で新味がない。

ゲームの選択肢が痩せ細ると、ゲーム機を買う動機が希薄になる。ほんの一握りしか新作ゲームのない機種を400~500ドル出して買うのは、よほどのマニアだけだ。それはとうてい、持続可能な市場とは言えない。

ここに、初代ファミコン(1983発売)からPS3/Wii(2006発売)までの、上位10機種の累積売上データがある。これを見ると、現世代機は、横ばいの維持すらすでに手の届かない目標であることが分かる。たとえばWiiは1億台あまり売れ、360とPS3はそれぞれ8000万近く売れている。三者トータルで2億6000万だ。

2014年はこれまででWii Uが600万、XB1が~400万、PS4が600万だから、合計で1600万、2億6000万に達するにはあと2億4400万だ(今のペースであと何年かかるか?)。しかも開発費の高騰を考慮に入れると、横ばいではなく累計売上台数は、前世代機よりも相当多くなければならない。

しかしSonyの北米のメインのスタジオであるSony Santa Monicaは、最近大幅な人員削減を行い(1/4をカット、といわれる)、これまで開発中だった大作のPS4タイトルを中止したらしい。

このように、Sonyは大鉈をふるって自己の身を削っている。

合衆国のプレステ事業を20年あまり担当したJack Trettonが、つい先週辞めた。

さきほどのデベロッパは、こう解説する: “そのプラットホームのオーナーがプロジェクトをキャンセルして、しかも開発要員をレイオフしたってことは、そろそろあぶない、ということさ”。

今、ゲーム専用機に投げかけられている大きな質問は: 現世代における市場縮退という現象は克服可能なのか?それともゲーム専用機という製品カテゴリそのものの終焉を意味しているのか?だ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。