タイでモビリティー関連事業を運営するFlareは3月23日、Spiral Ventures、千葉道場、Sun Asterisk、VOYAGE VENTURESを引受先とする第三者割当増資により総額1.5億円を調達したことを明らかにした。
同社ではこれまでKVP、Sun Asterisk、VOYAGE VENTURESなどから資金調達済み。今回はそれらに続くシリーズAラウンドとなる。主にエンジニアおよびセールスメンバーの採用に投資し、体制強化した上でさらな事業拡大を目指す計画だ。
Flareは2017年に代表取締役の神谷和輝氏が設立したスタートアップ。スマートフォンを活用した運転動態の解析プラットフォーム「Flare Analytics」を基盤技術として、カーラッピング広告プラットフォーム「Flare AD」やドライバー勤怠・動態管理システム「Flare Dash」を手がける。
本社は日本に構えているものの、現在は現地の100%子会社を通じてタイを軸に事業を展開中だ(現地法人としても豊田通商タイランドから出資を受けているとのこと)。
スマホだけで様々な運転データを取得
基盤となるFlare Analyticsはこれまで車載デバイスを用いて取得していた運転データを“スマートフォンだけで”取得できるのが特徴。スマホのGPSやセンサーから取得したデータをAIなどを活用して解析し、その傾向や運転スコアをダッシュボード上で可視化する。
急発進や急ブレーキ、走行スピードなどの基本的なものから、スマホを持った・触ったという情報を基に「スマホの脇見運転」などもわかる。これについても数万円〜数十万円するようなカメラデバイスを車内に設置したら把握できるものではあるけれど、Flare Analyticsはデバイスの初期コストや設置の手間もないので導入ハードルが低い。
神谷氏によるとタイは交通事故の死亡率が高く(以前WHOが公開したレポートでは10万人当たりの交通事故死亡者数が世界2位となった)、スマホの脇見運転は主要な原因の1つになっているそう。たとえば後述するFlare Dashを導入している企業であれば、自社のドライバーの脇見運転や危険運転を事故に繋がる前に把握し、対策を打つこともできるようになるわけだ。
Flare AnalyticsではSDKを提供していて、これをアプリに実装することで行動データを取得できるようになる。現時点で2つの自社プロダクトに実装されているほか、今後は他社とタッグを組み、テレマティクス保険や車両管理、タクシーの不正チェック、ローン審査などの領域でも事業展開を見据えているという。
Flare Analyticsを活用しC向け・B向け双方でプロダクトを展開
自社プロダクトのFlare ADの場合は、ドライバーと交通広告を出したい企業をマッチングする際に運転スコアを活用(スコアが高いドライバーをマッチング)。企業の広告をステッカーとして自分の車にラッピングして走ることで報酬を貰える仕組みで、開始以来のべ3万人が登録している。特にGrabなどライドシェアのドライバーが車の維持費やガソリン代を稼ぐ目的で始めるケースが多いとのことだ。
Googleマップと連動し、人が多い場所・時間帯で運転するほど収入があがる。広告主はダッシュボード上でリアルタイムに走行距離や走行ルートをチェックできるため、広告効果を簡単に把握することが可能だ。神谷氏の話では自動車広告領域ですでにタイ1位の実績があり、カンボジアへの展開も進めているという。
もう1つのFlare Dashは企業向けのサービスだ。タイを含めた東南アジアの新興国では交通インフラが十分に整ってないので、マネージャークラスや営業マンには1人1人にドライバーがついてるそう。ただ勤怠管理はいまだに紙ベースが主流で、効率化の余地があるほか虚偽報告の多発が課題になっている。
Flare DashはFlare Analyticsを通じて各ドライバーの動態や挙動を可視化することで不正を防止するとともに、ドライバーがアプリから簡単に勤怠を打刻できるようにすることで紙の勤怠管理の手間をなくす。
「(Flare Analyticsと連動することで)安全運転も管理できて、不正もなくなり業務も効率化される。ドライバーに関する業務を一括管理できるのが特徴だ。東南アジアの企業はまだそこまで安全運転意識が高くないところも多く、安全運転の機能だけを訴求してもそこに投資をする企業は限られる。一方で勤怠管理のニーズは明確にあり、自分たちはその両軸からアプローチできている」(神谷氏)
昨年12月にローンチしてからまだ日は浅いものの、タイに進出している日系大手企業などを始めミャンマーやインドネシアでも導入企業があるという。
今後は自動車のP2P保険などへの展開も
FlareとしてはADとDashを軸に経営基盤を整えつつ、今後はAnalyticsを使った自動車のP2P保険やてれマティクス保険などに事業を広げていく考え。今回の資金調達もそれに向けた組織体制の強化が目的だ。
同社の強みは個人ドライバーと法人に所属するドライバー双方にサービスを展開することによって、多様な運転データを取得できること。そしてAnalyticsをベースにした自社プロダクトも持っているため、細かいテストや改善などPDCAをスピーディーに回し、そこから得られたものを再びAnalyticsに反映した上で他社にも提供できることがあげられる。
「業務車両の動態を取得するプロダクトはあれど、個人ドライバーのデータを持っているプレイヤーはまだまだ少なく、保険領域への展開などを考えるとそこが重要だ。一般の人が持っているもので運転データを取得できるものはないか、そう考えた時にベストなのがスマートフォンだった。(Flare ADを通じて)自分たちはすでに約3万人のデータを蓄積できているのは強みだ」(Flare CSOの林真也氏)
水面下ではAnalyticsのアップデートも進めているところで、危険運転のイベントなどから事故率を推定して事故を起こしにくい人を判定したり、評価の高いドライバーの運転挙動を分析することで「会社で高いパフォーマンスを出すドライバーの傾向」を見極められる仕組みも開発中なのだそう。そうなるとドライバー採用などの領域でもFlareの技術を活かせるようになる。
また、今は車の領域に絞って事業を構築しているものの「スマホ×移動×データ」というジャンルであれば同社の技術を転用できるため、ゆくゆくは車以外での領域に進出することもありえるだろう。
ちなみに日本での事業展開も中長期的に検討していくそう。Flare ADについては難しいようだけれど、Flare AnalyticsやFlare Dashなどを用いた取り組みに関しては日本でもありえるとのことだった。