ソニーは、同社初となる5Gスマートフォン「Xperia 1 II」を発表した。表記はわかりにくいが「エクスペリア・ワン・マークツー」と発音する。
「ソニーほど、エンターテインメント体験をよく理解している会社はありません」と、グループのモバイル通信部門であるソニーモバイルコミュニケーションズの岸田光也社長は述べた。また同社は、5Gセルラー技術の時代にあって「ユニークな位置にあり」、ソニーの広範なコンテンツポートフォリオのおかげで、ターゲットユーザーに「豊富な」体験を提供できると主張した。
「ダイナミックなスピードを必要とする放送業界のプロに対しても、エンターテインメントの強化を求める一般的なユーザーに対しても、Xperia 5Gはユーザーのモバイル体験を次のレベルに引き上げるものです」と、同氏は述べている。
ソニーは、スマートフォンのメーカーというよりも、他のスマホメーカーへのイメージセンサーのB2Bサプライヤーとして重要な位置を占めている。それもあって、Android 10を搭載した今回のフラッグシップ機が、どのようなカメラを搭載しているのか注目された。ちなみに、Xperia 5Gは、「シネマワイド」タイプの4K HDR OLED(解像度は3840×1644ドット)ディスプレイを搭載し、クアルコムのSnapdragon 865チップ(メモリー8GB)を内蔵している。
背面には、16mm、24mm、70mmのの異なる3種類の焦点距離レンズを搭載し、超広角からポートレートまでさまざまなタイプの写真を撮影できる。
これらの背面の3つのレンズには、すべて1200万画素のセンサーが付随する。前面には、8MPのセンサーを内蔵したレンズを備える。今回ソニーは、スマホ用としては初めてツァイス(Zeiss)の手になる光学系を採用した。両社の長期にわたるコラボレーションが、新しいタイプのデバイスにも拡張されたわけだ。
岸田氏はカメラについて、低光量でも動作する超高速のオートフォーカス性能を強調した。最高20コマ/秒で、オートフォーカス、自動追従の連写が可能となったのは世界初だという。これにより、動きの速い被写体もくっきりと撮影できる。
「この新しい連続オートフォーカスは、動いている被写体を追跡し続けます。これのすごいところは、20コマ/秒でオートフォーカスするために、1フレームごとにオブジェクトを3回計算することです。1秒あたりでは60回計算することになります。それにより、まさにその瞬間を捉えることができるのです」と岸田氏は説明する。
「また、5Gのパワーと速度により、こうして切り取られた瞬間を非常に高速、かつ簡単にネットワーク上で共有できるようになります」と付け加えた。
写真撮影に関するもう1つの機能は、AIによるリアルタイムの瞳のオートフォーカスだ。ソニーは、この機能を、おもちゃで遊ぶ猫のビデオ撮影でデモした。つまりソニーは、人間だけでなくペットの顔のデータも使ってAIモデルを訓練したことになる。
また、「Photography Pro」(フォトグラフィー プロ)と呼ばれるインターフェースを採用し、ソニーのミラーレスαカメラのユーザーにも馴染みやすいように設計されている。これにより、フォトグラファーは、同社のハイエンドデジタルカメラと同様の調整機能を使ってパラメーターにアクセスし、撮影条件を調整できる。
ソニーは、ビデオ撮影についても同様に力を入れている。ビデオ編集インターフェースでは、タッチオートフォーカスや、ホワイトバランスのカスタム設定といった機能が利用できる。岸田氏は「これにより「映像作家」がカメラをより簡単に操作できるようになる」と表現した。オーディオキャプチャの音質を高めるノイズリダクション機能も内蔵する。
何よりもうれしいのは、Xperia 1 IIが3.5mmのヘッドフォンジャックを備えていること。オーディオマニアなら、愛用のハイエンドの有線ヘッドフォンを差し込んで、音楽鑑賞に集中することができる。
岸田氏は、DSEE Ultimateと呼ばれるAI技術の採用も取り上げた。DSEE Ultimateは、ストリーミングオーディオも含め、音声信号を「ハイレゾ相当の高音質」にアップスケールにするものだと説明した。「携帯可能なものとして最高の音楽体験を提供します」とのこと。
ゲームについても、Qualcomm Snapdragon Elite Gamingとのコラボレーションにより、PlayStation 4のDualShock 4ワイヤレスコントローラーを使って、モバイル向けに最適化されたCall of Dutyを快適にプレイできるようになっている。一方このデバイスは、4000mAhのバッテリーと、高速ワイヤレス充電機能も搭載してる。
岸田氏によれば、Xperia 1 IIは、この春から出荷を開始する。ただし、ソニーがこのデバイスをどの市場に向けて導入するかはまだ明確ではない。昨年、同社のモバイル部門は、収益性を重視した結果、グローバル市場の大部分に注力するのを止めたと伝えられる。
Xperia 1 IIのターゲットは、かなりニッチな購買層となる可能性がある。ソニーと言えども、消費者向けスマホの販売では、サムスンやファーウェイなどの巨人と比べて小さなプレーヤーに過ぎない。しかし、このカメラ技術が、他のモバイルメーカーに提供できるもののショーケースとなることを意図している。
ソニーのモバイル部門は、今回のトップによる発表を、YouTube上の仮想記者会見という形で行なった。同社は、MWC(モバイルワールドコングレス)への参加の取り止めを発表した、最初の大企業だったという経緯がある。
MWCの主催者であるGSMAは、結局今週バルセロナで開催予定だった毎年恒例のモバイル業界イベントのキャンセルに追い込まれた。多くの出展者が、新型コロナウイルスによる公衆衛生上の懸念により、参加の取りやめを表明したからだ。
MWCは通常、4日間で10万人以上の参加者を呼び寄せる。今回のソニーの記者会見は、カメラも、拍手も、歓声もなく、誰もいない部屋でストリーミング再生されているのを見ることになる。それでも、記者が新製品の写真を撮るための時間を確保するために、進行がポーズしたりするのを見ると、なんだか奇妙な感覚にとらわれる。
岸田氏は、別の5Gスマホ、Xperia Proを開発中であることも発表した。プロのビデオ撮影者のためのフラッグシップ機だ。高解像度ビデオのストリーミング性能を向上させる5Gミリ波帯にも対応し、外付けのハイエンドカメラを簡単に接続可能なマイクロHDMI入力ポートも備える。
ソニーはすでに、米国のキャリア、ベライゾン(TechCrunchの親会社のVerizon)と協力して、これから登場する5Gスマホを使い、スポーツイベントのライブストリーミングのテストを完了したことを強調した。
「ソニーが、長年に渡ってプロ用のデジタル映像機器を提供してきた歴史と、専門的な知見は比類のないものです」と、岸田氏は付け加えた。「このように深く、強力な関係を築けるのはソニーだけです。プロによるコンテンツ作成から、5Gのモバイル通信技術まで、エンドツーエンドのソリューションに対して、数十年にもおよぶ経験を活かしています」。
ミッドレンジのスマートフォン、Xperia 10 IIの発表もあった。6インチのディスプレイを搭載し、トリプルレンズカメラと、防水性能を備えている。これも春以降に出荷されることになる。
[原文へ]
(翻訳:Fumihiko Shibata)