自動運転配達会社のNuro(ニューロ)がIke(アイク)を買収した。Ikeは自動運転トラックの商品化を目指してApple(アップル)、Google(グーグル)、Uber Advanced Technologies Group(ウーバー・アドバンスト・テクノロジーズ・グループ)の卒業生が創業したスタートアップだ。
買収と統合で忙しいシーズンを送った自動運転車業界におけるこの最新の取引は、深い関係と共有するテクノロジーを持つ2社を結びつけた。また、Nuroはローカル配送、Ikeは長距離貨物という異なる分野に自動運転車のテクノロジーを応用しようとしているが、2社の創業者は物流の分野で共通のビジョンがあると言う。
取引の金銭的条件は明らかにされていない。
2社の関係の中でNuroは巨人だ。バリュエーションは50億ドル(約5200億円)、従業員数は600人を超える。情報筋によると、Ikeは約60人の従業員を抱え、昨年時点のポストマネーのバリュエーションは約2億5000万ドル(約260億円)だった。ただし2社の創業者らは、これを古典的なシリコンバレーのアクハイヤー(人材獲得を目的とする買収)だとは捉えていない。Jur van den Berg(ジュール・バン・デン・ベルグ)氏およびNancy Sun(ナンシー・サン)氏と会社を共同で創業したIkeのCEOであるAlden Woodrow(アルデン・ウッドロー)氏によると、Ikeの従業員55名以上と創業者3名がNuroに合流する予定だ。
「会社創業時に掲げた原則をいくつか実現する明確な機会でした」とウッドロー氏は述べた。同氏は12月23日にMediumのブログ投稿で買収を発表した。
ウッドロー氏はTechCrunchに対し、Ikeにはまだランウェイ(資金調達なしで経営できる期間)が残っており、独立経営を続けるために必要な資金があると語った。それでも、自動運転車の会社を商業ベースに乗せるには、5200万ドル(約55億円)を超える資金のプールだけでなく提携が必要だ。Ikeは今秋、DHL、Ryder、NFIの車両にテクノロジーを提供することで合意に達したが、それらはまだ初期段階にすぎない。
Nuroの共同創業者で社長のDave Ferguson(デイブ・ファーガソン)氏はTechCrunchに、「Ikeのチームがどれほど素晴らしいか、そして彼らが開発したテクノロジーの質がどれほど素晴らしいかは極めて明白だと思います」と語った。「Nuroにとって特に魅力的なのはIkeが数年前にNuroのテクノロジースタックのライセンスを取得したためです。Ikeが開発したすべてのテクノロジーはそのスタック上にあり、共通のDNAがあります。Ikeが開発したテクノロジーは非常に簡単に移転することができ、ほぼプラグアンドプレイでシステムに組み込むことができます」
NuroはIkeが開発したテクノロジーを活用して、自社のローカル配達システムに取り込むだけでなく、将来の応用にも利用できるかもしれないとファーガソン氏は付け加えた。
将来の応用とは何か、という問いに答えは出ていない。Nuroによる特許出願は、熱々のホットピザやラテの配達から小型ロボットまでさまざまなアイデアを網羅している。Ikeのチームが加わったことで、Nuroはローカル配達だけでなく、スタートアップのGatik AIが注目を集めた領域である中距離の配達、その他のトラックを使った用途など他の種類の物流への応用へ拡大する可能性がある。ファーガソン氏は、R2と呼ばれるNuroのローカル配達ボットが最初の主要製品であると直ちに指摘した。
NuroはIkeにとって最高の家のように見えるかもしれないが、2つの情報筋はTechCrunchに、Ikeが少なくとも他の自動運転車の会社1社と取引について協議していたと語った。同情報筋は、その話はあまり進展しなかったと付け加えた。
創業物語
2社の創業者は、IkeをNuroのスピンアウトと表現することを好まない。技術面では正しいかもしれないが、2社のルーツは絡み合っている。
Nuroは、元Google(グーグル)のエンジニアのDave Ferguson(デイブ・ファーガソン)氏とJiajun Zhu(ジアジュン・ジュー)氏が2016年6月に創業した。同社は当初ファーガソン氏とジュー氏が独力で経営していたが、2017年6月にはGreylockとBanyanからの投資で9200万ドル(約96億円)をAラウンドで資金調達し、NetEaseの創業者であるDing Lei(別名William Ding)氏にNuroの取締役会の席を与えた。
一方、バン・デン・ベルグ氏とサン氏は2人ともAppleの特別プロジェクトグループで働いていたが、2016年にAppleを去り、Uberに買収された自動運転トラックのスタートアップであるOttoに加わった。Google XのMakaniプロジェクトの製品リーダーであったウッドロー氏も2017年2月、自動運転トラックプログラムのグループ製品マネージャーとしてUber ATGに移った。
2018年にはOttoの創業者のうち最後の1人がUberを去り、自動運転トラックプログラムはひたすら落ちて行った。サン氏、ウッドロー氏、バン・デン・ベルグ氏は2018年春にはUberを離れた。数カ月後、Uberは自動運転トラック部門を閉鎖して自動運転車に集中した。
3人は当初、配達ボットと成長中のチームを収容するには小さすぎるNuroのオフィススペースで働いた。当時、サン氏のフォルクスワーゲンのキャンピングカーがIkeの会議室として使われていた。3人が7月に正式にIkeを設立する前にNuroのチームと数カ月間緊密に連携していたことが、カリフォルニア州とデラウェア州のビジネス記録が示している。Ikeという社名は、ドワイト ・D・アイゼンハワー大統領と彼が連邦補助高速道路法に署名して整備を後押しした米国の州間高速道路システムにちなんでいる。
最初のコラボレーションのポイントは、Nuroが開発したものをトラック輸送の新しい用途にどう応用するかを考えることだった。「これは私たちが独自の方向へ進む機会であり、Nuroがローカル配達に集中する間、私たちはそちらに真剣に取り組みました」とウッドロー氏は最近のインタビューで述べた。
Ikeは、Nuroのテクノロジー、特にハードウェアのデザイン、自動運転ソフトウェア、データの記録、地図、シミュレーションのライセンスを供与される。その見返りに、NuroはIkeのマイノリティ持ち分を取得した。
2018年10月にIkeがステルスモードから抜け出したとき、NuroはIkeとの関係を提携と位置づけ、「Ikeに自動運転とインフラのソフトウェアのコピーを提供し、その代わりにNuroはIkeの株式を取得しました」。
Ikeは小さく始め、仕事を進めるにあたりに穏便なアプローチを選んだ。2019年2月までにIkeは約30人を抱え、最終的にはBain Capital VenturesがリードするシードとシリーズAの資金調達ラウンドで5200万ドル(約55億円)を調達した。Redpoint Ventures、Fontinalis Partners、Basis Set Ventures、Neoもこのラウンドに参加した。Bain Capital VenturesのパートナーであるAjay Agarwal(アジェイ・アガワル)氏がIkeの取締役会に加った。
自動運転トラックに携わる他社とは異なり、Ikeの創業者は当時のブログ投稿で、最初の自動運転トラックを走らせることにこだわっていたわけではなかったと述べた。自動運転トラック配送業界の複数の情報筋によると、Ikeはシステムエンジニアリングのアプローチ、モーションプランニング、シミュレーションツールで業界内で高い評価を得ていた。
Ikeが静かに仕事を進めている間に、Nuroの方は2019年2月にソフトバンク・ビジョン・ファンドが9億4000万ドル(約980億円)を投資したおかげで注目を集めた。Nuroはチームを600人以上に拡大し、2018年にKrogerと提携しアリゾナで配送サービスを試験的に実施した。当初トヨタのプリウスを使用していたが、R1配達ボットに移行した。Nuroは、CVS、Domino’s、Walmartといった企業とも提携している。同社は、レストラン、食料品店、その他の企業向けのローカル配達サービス向けに設計されたR2と呼ばれる第2世代の車両を開発した。R2は今年初めに連邦政府から自動運転車の運用を許可する安全規定適用除外の認可を受けた。
投資家はNuroから離れたわけではなかった。新型コロナウイルスのパンデミックがシリコンバレーの多くのスタートアップの計画を遅らせた。しかしローカル配達の可能性など明るい点もある。Nuroは11月、シリーズCラウンドで5億ドル(約520億円)を調達した。ポストマネーのバリュエーションは50億ドル(約5200億円)だった。T. Rowe Price Associates, Incのアドバイスを受けたファンドや投資家がリードし、Fidelity Management & Research CompanyやBaillie Giffordなどの新しい投資家が参加した。このラウンドにはソフトバンク・ビジョン・ファンド1やGreylockといった既存投資家も参加した。
次に起こるのは何か
2社はNuroでよりシニアな役割を担うIkeの多くのエンジニアとの融合を始める。ウッドロー氏はCEOではなくなり、同氏の新しい役職は決まっていない。同氏の仕事は、自身の経験に基づく製品開発になると思われる。
Nuroがローカル配達に重点を置いているため、トラックを商品化するというIkeの使命は今のところ棚上げになっている。ローカル配達に目を向けるというその決定は、Ikeの創業者らがトラックへの情熱について何度も語った多くのコメントと対立するようにみえる。
「私たちが家で食べたり、触れたり、持ったりするものはすべて、おそらくどこかの時点でトラックに乗せられていたはずです」とサン氏は10月のTC Sessions: Mobilityイベントで述べた。「トラック輸送が実際に私たちの日常生活へ与える影響の大きさがまだまだ理解されていません」
しかし、ウッドロー氏と共同創業者らは、製品を世に送り出し、「私たちの多くが何年にもわたりさまざまな企業で取り組んできた自動化の約束を果たすこと」について語っている。
「結局のところこれは、Nuroはその約束を果たし、すぐにそれを実行し、非常に大きな規模で実行するという、信じられないほどユニークで本当に説得力のある立場にあると私たちは考えています」とウッドロー氏は言う。「それがNuroの申し出を受け入れ、こうして前進すると決めた原動力でした」
カテゴリー:モビリティ
タグ:Nuro、ソフトバンク・ビジョン・ファンド、買収 / 合併 / M&A、自動運転
画像クレジット:Bryce Durbin
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(翻訳:Mizoguchi)