ソーシャルな株式取引サービスのPublicがシリーズCで6500万ドルを調達

ソーシャルに特化した無料株式取引サービス、Public(パブリック)がシリーズCで6500万ドル(約67億円)を調達した。これは同社がシリーズBで1500万ドル(約15億4000万円)を調達してからわずか1年足らずのことである。

今年連続してラウンドを調達したのは同スタートアップだけではなく、Welcome(ウェルカム)やSkyflow(スカイフロー)などもこの偉業を成し遂げている。将来性のあるスタートアップに賭けるという投資家の最近の傾向が、PublicのシリーズCを実現させたのだろう。

パンデミック初期の数ヶ月間は動きがなかったものの、その後ベンチャーキャピタリストやその他の投資家は後期段階のスタートアップに小切手を切るペースを加速させている。PublicのシリーズCはこの傾向を代表するもので、これまでの同社の総資金調達額の72%強を占めている。

また、投資先企業の次のラウンドを既存投資家が先取りするという、ベンチャー界のもう一つのトレンドをPublicの今回のラウンドが例証している。このケースでは、Accel(アクセル)が新規投資を主導しているが、同社はPublicのシリーズAおよびシリーズBラウンドも主導している。

しかしトレンドだけでラウンドは調達できない。そこでTechCrunchはPublicを共同で創設したJannick Malling(ジャニック・マリング)氏とLeif Abraham(リーフ・エイブラハム)氏に電話で話す機会をもらい、投資家らがフィンテックスタートアップに何を見出しているのかについて話を伺った。

成長

同社は2020年、急成長を遂げており、年初から10倍数でユーザー数を拡大してきた。

エイブラハム氏によると同社の成長には一貫性があり、毎月約30%のペースで拡大を続けている。同氏はまたPublicのユーザーのほとんどがそのサービスを有機的に見つけていることを強調しており、同社のマーケティングコストはさほど高額なものではく、成長が人為的に押し上げられたものではないことを伝えている。

ユーザー数の成長がさらなる資金調達を可能にしたのは分かったが、なぜユーザー数が成長したのか。

創業者の2人は、前ラウンドからの資金はまだ十分に銀行に残っていたが、今回の資金調達は同社のモデルを強化するための手段として考えていたとTechCrunchに語っている。

Publicの競合他社の多くもゼロコスト取引を謳っているが、同社のモデルはソーシャルに焦点を当てたものだ(例えばTechCrunchはPublicのソーシャルプラットフォームの要素をこの記事で取り上げている)。より多くの人がPublicを利用すればするほど、Publicが優れたものになっていくというのが創業者2人の考えだ。

したがって同社は新たな資本を使い、安定性を保ちつつも製品に投資を続けていくというわけだ。

このダイナミックな自己強化型モデルの仕組みは次の通りだ。同社は投資家が無料で取引について話し合い実行できる場を提供する。こういった投資家が同社のことを友人に伝えると、その友人らも後に会話に参加するようになる。これらの会話は新たな参加者によってより豊かなものとなり、そのプロセスは延々と繰り返される。ちなみにPublicは有価証券を扱っているので、荒らしを制限するために登録したユーザーだけが参加できることになっている。

これまでのところ同モデルは順調のようだ。しかし、同社やRobinhood(ロビンフッド)、M1(エムワン)、Wealthfront(ウェルスフロント)やその他の競合が今後どのくらいの期間、彼らのプラットフォームに純新規投資家を追加し続けることができるかは知る由もない。

収益

鋭い読者は上記の段落で、筆者がPublicの成長をユーザーの視点からのみ論じたことに気がついただろう。収益に関してはどうなのか。

無料の株式取引を提供している多くの企業と同様、同社は「Payment for order flow(PFOF)」と呼ばれるものから利益を得ている。これは異なるマーケットメーカーへの取引ルーティングであり、例えばRobinhoodはこの仕組みから莫大な利益を得ている

Publicと話をする前、筆者はPFOFの額について学ぶために同社の取引パートナーであるApex(アペックス)の提出書類を掘り下げてみた。合計金額はApexが収集したクライアントを考えるとやや控えめである。したがって総額の一部であるPublicの収益指標はなおさら控えめであるということだ。

当然我々は、同社がビジネスモデルを変更し、外部資料からは見抜けないような収益が新たな投資に向かっているのではないかと気になっていた。しかし創業チームはTechCrunchにモデルは変えていないと語っており、同社は目先の収益目標よりもユーザーの成長を重視しているという。

これはある程度理にかなっている。同社はユーザーのほとんどが長期保有者であることを強調している。ユーザーが証券を保有している期間が長ければ長いほど、取引をする可能性は低下する。するとPFOFのような取引収入がそれにより限られてしまうため、同社の利益率の成長にはつながらない可能性が高い。

同社の収益化計画は不透明なままだ。つまり同社が手に入れた新たな小切手は、ソーシャル体験という点でのプロダクトワークだけでなく、将来の収益創出のための資金にもなるのではないかと推測される。

フィンテック市場を見て回れば、同社がユーザーベースを収益化するための方法例を見つけることができる。

Publicの収益が全く伸びていないと言っているわけではない。事実成長はしているのだ。筆者が一般的に取引量がユーザーの成長に比例するのかどうかを同社に尋ねると、相関関係はあると創業者は伝えている。つまり今もなお成長を続けている同社のユーザーベースは、時間をかけてより多くの取引を実行することになるだろう。

Publicが次に何を構築するのかを楽しみに待つことにしよう。そして同社がいつ、ユーザーから十分な収益を得ることができるようになるのかも乞うご期待である。

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カテゴリー:フィンテック
タグ:投資 資金調達

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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