タンパク質ベースの医薬品を開発するGenerate BiomedicinesがシリーズBで422億円調達

医薬品開発の分野に引き寄せられる投資が増え続けている。米国時間11月18日には、Generate Biomedicines(ジェネレート・バイオメディシンズ)が3億7000万ドル(約422億円)のシリーズBラウンドを発表した。

同社は、プラットフォームをベースとした医薬品開発のアプローチをうたっているが、独自のひねりを加え、タンパク質に取り組んでいる。

同社の仮説はシンプルだ。自然界(あるいは多くの場合、科学的なデータや文献)にすでに存在するタンパク質とターゲットを結びつけるのではなく、全体像を理解することを目指している。つまり、どのようにタンパク質が作られ、なぜそれらがそう振る舞うのか(つまり、基本的には体内のすべてのこと)についての「基礎的な原理」の理解だ。最終的な目標は、その知識を利用し、いつの日か「生命の機能の大部分」を動かせる新しいタンパク質を作ることだ、とCEOのMike Nally(マイク・ナリー)氏はTechCrunchに語った。

この3年間で、同社はそのような基本原理を実用化することができた。

「私たちは、抗体、ペプチド、酵素、細胞治療、遺伝子治療など、あらゆるタンパク質の形状で、新しいタンパク質を生成することができました」とナリー氏は話す。

Generate Biomedicinesは、Moderna(モデルナ)の投資家であるFlagship Pioneeringが育てた、優れた企業の1つだ。Generate Biomedicinesは、2020年にステルスモードから脱け出し、Flagship Pioneeringから5000万ドル(57億円)の初期投資を受けた。新たに創業したAlltrnaのような、Flagship Pioneeringが投資する他の会社と同じ事が起きた。

この最新のラウンドは、Generate Biomedicinesにとって、初めて外部から資金調達するという重要な試みだ。このラウンドでは、Alaska Permanent Fund、Altitude Life Science Ventures、ARCH Venture Partnersや、T. Rowe Price Associatesが顧問を務めるファンドや口座の他、Flagship Pioneeringも追加で投資した。

これまでのところ、Generate Biomedicinesは関心を集めることに苦労していないようだ。

一方で、同社は一般的なトレンドの追い風を受けている可能性もある。創薬に対するベンチャーキャピタルの投資額は、2019年から2020年にかけてほぼ倍増し、162億ドル(約1兆8500億円)に達した。一方、AIによる医薬品開発への投資も雪だるま式に増えている。スタンフォード大学の2020年のレポートによると、2020年には139億ドル(1兆5800億円)に達し、2019年の資金調達の4倍以上の水準になった。2021年8月には、Signify Researchのレポートによると、資金調達額は107億ドル(約1兆2200億円)に達した。

今回のラウンドは大規模だが、Insilico Medicineの2億5500万ドル(約291億円)のシリーズCや、 Cellarity(Flagship Pioneeringが投資するパイオニア企業)の1億2300万ドル(約140億円)のシリーズBなど、類似領域の企業に2021年見られた数字からそれほど遠くはない。

Generate Biomedicinesの経営陣によると、今回の規模のラウンドが達成できたのは、タンパク質生物学やタンパク質ベースの医薬品開発に新たに取り組んできたおかげだ。

治療用タンパク質、特にモノクローナル抗体は、医薬品市場で大きなシェアを占めるようになっている。2018年に最も売れた薬トップ10のうち、7つがモノクローナル抗体だった。Bioprocess Internationalの2020年のレポートによると、過去5年間、全世界でのモノクローナル抗体の売上高は、他のバイオ医薬品よりも速く成長した。

モノクローナル抗体は、おそらく腫瘍学や免疫学の領域で最もよく知られている。しかし、使用例は拡がっている。例えば、Eli Lilly(イーライリリー)が新型コロナウイルス治療のために製造しているようなモノクローナル抗体は、治療用タンパク質の一例であり、読者はすでに耳にしたことがあるかもしれない。

Generate Biomedicinesはあらゆるタンパク質を視野に入れているが、当初は抗体の開発に注力していた。ナリー氏によると、抗体はタンパク質ベースのバイオ治療薬市場の約60%を占める。

しかし、抗体の開発は青写真のほんの一部にすぎない。共同創業者であり、チーフストラテジーイノベーションオフィサーであるMolly Gibson(モリー・ギブソン)氏は、タンパク質の機能の基本原理に着目すれば、タンパク質をオーダーメイドで設計できると語る。

スケールの大きさを理解するために、生命誕生以来、自然淘汰の過程で洗練されてきたすべてのタンパク質を思い浮かべて欲しい。そうしたタンパク質は、生命の構成要素であるタンパク質のごく一部にすぎないのだ。

「生命の歴史の中で自然界に残った配列空間の量は、地球上のすべての海に含まれる水のたった一滴に相当します」とギブソン氏は語る。

Generate Biomedicinesは、現存する未利用のタンパク質を発見するのではなく、人間が作ることのできる他の機能性タンパク質を、人工知能を使って理解するアプローチをとる。

とはいえ、治療用タンパク質は簡単に作れる薬ではない。歴史的に見ても、免疫システムは新しいタンパク質を受け入れないことが多い。しかし、ギブソン氏は、同社の技術がこの障害を克服できると話す。同社は、免疫原性とタンパク質の機能を「ともに最適化」することができるという。

「そのために、免疫系がタンパク質をどのように認識するかを測定する独自の実験手法と機械学習アプローチを開発しました。それらにより、免疫系による認識を避けることができます」とギブソン氏は語る。

全体として、Generate Biomedicinesは自らを医薬品メーカーであると同時にプラットフォームでもあると考えている。同社は、前臨床段階にあるいくつかの医薬品候補を抱える(重点的に取り組んでいるのは、感染症、腫瘍学、免疫学だとナリー氏はいう)。目標は、2023年までに治験薬として認可されることだ。

しかし、同社の最大の伸びしろは、タンパク質ベースの医薬品開発プロセス全般を円滑に進めるためのプラットフォームであることだとナリー氏はいう。同氏は過去に、提携が戦略の一部になると指摘していた。これまでのところ、同社は何も公表していない。だが同氏は、同社が深い疾患領域の専門知識や、特定のターゲットに関する専門知識を持つパートナーを探していると付け加えた。

今回の資金調達により、Generate Biomedicinesは従業員を500人に増やす予定だ(現在の従業員数は80人)。また、ウェットラボ、機械学習、データ生成能力を拡張するために、2つの施設を建設中だ。

画像クレジット:JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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