テイラー・スウィフトとSpotifyが復縁――全楽曲が主要サービスで聞けるように

2014年の別れからしばらくが経ち、テイラー・スウィフトとSpotifyが再び手を結ぼうとしている。アルバム『1989』の販売枚数が1000万枚を突破し、個々の楽曲の販売数も合計1億曲に達したことを記念し、テイラー・スウィフトは、6月8日の深夜よりこれまでに発表された全音源が全ての音楽配信サービスで聞けるようになるとTwitter上で発表した

この発表以前にも、Apple Musicではテイラー・スウィフトの楽曲が配信されていたが、今回の決定によりSpotifyやAmazon Music Unlimited、Amazon Prime Music、Tidal、Pandora Premiumなどでも彼女の曲を聞けるようになる。業界筋によれば、Spotifyでは広告付きの無料プランと有料プランの両方が配信対象となる。

音楽配信サービスに抵抗しているアーティストの中でも特に名の通った彼女が方針を変更したことから、これまで制作者に十分な対価を支払っていないと批判されてきた音楽配信サービスに対するアーティストの見方が変わってきたのかもしれない。最近では、SpotifyとApple Musicの有料登録者数がそれぞれ5000万人と2700万人を超えたこともあり、アーティストの音楽配信サービスからの収益が増加し、物理的なメディアの売上の穴を埋め始めている。

テイラー・スウィフトは、無料プランでも彼女の曲が聞けることに納得できず、Spotifyとは2014年に決別した。当時彼女はTimeに対して「芸術作品は固有の価値があるものとして扱われるべきだと思っています」と語り、Spotifyと他社との違いについては「Beats MusicやRhapsodyでは、私のアルバムを聞くためには有料プランに加入しなければいけません。そのおかげで、私のつくったものに価値があると認識できるのです」と説明した。

テイラー・スウィフトとSpotifyが復縁。

その頃Spotifyは、ユーザーの混乱を避けるために、有料プランと無料プランで聞ける楽曲に差をつけないようにしていた。そのため、テイラー・スウィフトはほぼ全ての楽曲をSpotifyから引き上げることに(今年の4月、Spotifyは複数のレーベルと新たな契約を結び、無料プランでの売れ筋アルバムの配信を有料プランから2週間遅らせる代わりに、レーベルに支払われるロイヤルティーを下げることを決めた)。

しかし、同社に近い情報筋によれば、メディア各社がこの件を一斉に取り上げた結果、Spotifyの新規ユーザー数は急増したとのこと。「テイラー・スウィフトの曲以外ならSpotifyで全部無料で聞けるの?じゃあ登録しよ」という人がたくさんいたようだ。

その後彼女は、3か月間の無料トライアル期間中はアーティストへロイヤルティーを支払わないと決めたApple Musicと対立することに。当然ながらこの仕組みの下では、Appleのマーケティングのために、アーティストが不利益を被ることになるとテイラー・スウィフトは考えたのだ。最終的にAppleが折れ、トライアル期間中もアーティストにお金が支払われるようになった。また、Apple Musicは広告付きの無料プランを提供していなかったので、テイラー・スウィフトの楽曲を配信しているというのが彼らにとっての売りになった。

しかし最近アーティスト側も、基本的に音楽配信というのは、コンサートやグッズといった主要な収益源のための販促手段なのだということに気づき始めた。Spotifyで楽曲が配信されていれば、テイラー・スウィフトの曲をラジオでしか聞いたことがなかったという人が、コンサートチケットやTシャツにお金をかける熱心なファンへと変わっていく可能性がある。さらに音楽配信サービスの現在の成長率を考えると、ロイヤルティーの金額はこれから段々と全盛期のCDの売上に近づいていくだろう。

いずれにせよ、音楽配信サービスはなくならない。アーティストはこの仕組みを利用しなければ、ファン(既存・見込み共に)を失うだけだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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