子どもの頃に「弱視(lazy eye、amblyopia)」と診断された場合、選択肢は限られている。眼帯をつける、目薬をさす、矯正レンズをつけるなどだ。FDA (米食品医薬品局)の承認待ちではあるが、将来的にはテレビを見ることが加わるかもしれない。
それが、Scott Xiao(スコット・シャオ)氏とDean Travers(ディーン・トラバース)氏が率いる4人組のスタートアップであるLuminopia(ルミノピア)の構想の核だ。シャオ氏とトラバース氏は、6年前にハーバード大学の学部生としてLuminopiaを立ち上げた。彼らは、子どもの頃に弱視に悩まされていた同級生から、初めて弱視について聞いた。弱視は、小児期の視力低下の中で最も一般的なもので、子どもの100人に3人の割合で発症すると言われている。
弱視は人生の早い段階で起こることがある。何らかの原因で、片方の目の機能がもう片方の目に劣っている状態になる。片目の筋力が不足している場合や、片目がはるかに良く見える場合、白内障などで片目の視力が低下している場合などがある。時間が経つにつれ、脳は片方の視力に頼ることを覚え、もう片方の目が弱くなり、最終的には重度の視力低下につながる。
弱視の一般的な治療法は、弱い方の目を強化する点眼薬、矯正レンズ、眼帯などだ。Luminopiaのソリューションは異なる。子どもたちはVRヘッドセットでテレビを見る。その際、番組のパラメーターを少しだけ変える(同社はSesame Workshop、Nickelodeon、DreamWorks、NBCと契約し、100時間以上のコンテンツを提供している)。コントラストを強くしたり弱くしたり、弱い目が強い目に追いつくよう、画像の一部を削除したりする。
「我々は、画像のパラメーターをリアルタイムで変更しています。弱い方の目を多く使わせるように促し、患者の脳が両目からの情報入力を組み合わせるよう仕向けます」とシャオ氏はいう。
9月には、105人の子どもを対象とした無作為化比較試験の結果が発表された。子どもたちは全員、常時メガネをかけていた。そのうち51人が、Luminopiaのソフトウェアで修正されたテレビ番組を週6日、12週間にわたって1時間ずつ視聴した。
全体として、治療グループの子どもたちは、標準的な目のチャートで1.8段階改善された(12週間後の追跡調査では、2段階以上改善された子どももいた)のに対し、比較グループでは0.8段階だった。
この研究はOphthalmology誌に掲載された。
Luminopiaはまだ小さな企業で、従業員はわずか4人だ。しかし、Sesame Ventures(Sesame Workshopのベンチャーキャピタル部門)や、Moderna(モデルナ)の共同創業者で現在はLuminopiaの取締役を務めるRobert Langer(ロバート・ランガー)氏、Sesame Workshopの元社長兼CEOのJeffrey Dunn(ジェフリー・ダン)氏などのエンジェル投資家からの投資により、これまでに約1200万ドル(約13億1000万円)を調達した。
同社の特徴は、弱視や医療全般に共通する問題であるアドヒアランス(治療方針の順守)に対する独自のアプローチにある。
弱視の治療法が継続しにくいことを示す証拠がいくつかある。サウジアラビアの病院で行われたある研究では、弱視治療のためにアイパッチを使用している子を持つ37家庭を対象に調査が行われた。研究の対象となった子どもたちは、指示されたパッチの使用時間の約66%しか装着していなかった。子どもたちの家族は、アイパッチの推奨時間を守れなかった理由として、社会的な偏見、不快感、本人がパッチの装着をまったく受け付けなかったことなどを挙げた。
2013年にInvestigative Ophthalmology & Visual Science誌に掲載されたある研究では、152人の子どもたちがどれだけアイパッチの処方を守ったかを分析した。それによると、子どもたちが期間中の約42%の間、アイパッチをまったく着用していなかった。
Luminopiaの創業者らは弱視の治療法開発にあたり、最初にアドヒアランスの問題に取り組んだ。消費者向け製品の世界から借りてきた戦略だ。
「我々は、消費者向け製品の世界と医療の世界とでは、得られるエクスペリエンスに大きなギャップがあると考えてきました。消費者向けの世界で提供さえるモノは非常に考え抜かれ、喜びをもたらすものですが、医療の世界におけるエクスペリエンスは貧しく、アドヒアランスの低下につながることが多いのです」とトラバース氏は語る。
子どもにとってテレビを見ること以上に魅力的なことはないとシャオ氏は語る。今回の試みで、その仮説が証明されたようだ。研究に参加した子どもたちは、必要とされるテレビ視聴時間の88%を達成した。また、94%の親が、アイパッチよりもこの治療法を使う可能性が高い、または非常に高いと答えた。
だが重要なのは、データを入手し、FDAの承認を得て、そのような「喜びをもたらす」治療体験が実際に機能し、アドヒアランスの問題を克服できると証明することだ。Luminopiaは最近、9施設で84人の参加者を対象にしたパイロット・シングルアーム試験について発表した。その第1段階として、10人の子どもを対象に実施したところ、子どもたちは定められた時間の治療を78%完了したことがわかった。また、子どもたちの視力は、標準的な視力表の約3段階に相当する改善が見られた。この結果はScientific Reportsに掲載された。
ゲームや遊びをベースにした病気の治療法を検討を始めたのは、Luminopiaが初めてではない。FDAはすでに、同じ系統の他からの提案を多少なりとも支持している。
Akili Interactiveは2020年6月、子どものADHDの治療に使用するビデオゲームについて、De Novo申請(過去に同様の医療機器が存在しない場合の申請)を通じてFDAの承認を得た。この承認は、病気の治療にビデオゲームを承認した初めての例となった。Crunchbaseによると、Akili Interactiveは合計で約3億110万ドル(約331億円)の資金を集めた。
Akiliのゲーム「EndeavorRx」は、Luminopiaが真似できるかもしれない承認への道筋を示している。LuminopiaはEndeavorRxと同様、処方箋のみの治療サービスで、前例はない。LuminopiaもDe Novo申請により、2021年中にFDAの承認を得る予定だとシャオ氏はいう。最新のピボタル試験のデータは、2020年3月にFDAに提出されている。
「年内には審査結果が出ると思います。良い結果であれば、2021年発売できると考えています」とシャオ氏は述べた。
画像クレジット:Luminopia
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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi)