デジタル政治運動 vs 民主主義:英国の選挙監査人、早急の法改正求める

英国の選挙委員会によるレポートでは、政治運動に使用されるデジタルツールについての不信感が民主プロセスを脅しているとして、その透明性を高めるために早急な法の見直しが必要と指摘している。

選挙運動の支出も監視するこの委員会は、1年かけて2016年に行われたEUからの離脱を問う国民投票と2017年の総選挙においてデジタル運動がどのように活用されたのかを調査すると同時に、デジタル運動についての投票者の考えを分析した。

同委員会が改善すべきと考えているのは、選挙支出に関する透明性だ。これにより、英国内での選挙運動に海外から資金が流入するのを防ぐことができ、選挙資金規制を破った場合に重大なペナルティを科すなどの経済的罰則を強化できる。

先のブレグジット(欧州連合からの英国脱退)運動ー脱退を支持する公の運動も含めーが選挙資金規制に反しているのではないかという調査はまだ続いている。BBCは先週、その運動で規制違反があったと選挙委員会が認めるだろうという内容のレポートの下書きについて報じた。

また、Leave.EU Brexit運動は先月、選挙委員会の調査の結果、国民投票の期間中にいくつかの点で選挙法を破ったとして、7万英ポンドの罰金を科せられた。

選挙に巨額の資金が注ぎ込まれるのが当たり前になっているのを考慮してもー別の欧州脱退賛成グループVote Leaveは700万ポンドをつぎ込んでいる(こちらも超過を指摘されている)ー明らかに、選挙委員会は法の実行のためにさらなる措置を必要としている。

デジタルツールは、民主参加を促すと同時に、選挙詐欺もしやすくしてしまっている。

「デジタル運動において、我々の出発点というのは選挙への参加であり、だからこそオンラインコミュニケーションのいい面を歓迎している。投票者への新たなアクセス方法があるというのは、みなとにとって益があり、我々は投票者保護を模索する過程において言論の自由を害さないよう細心の注意を払わなければならない。と同時に、現在デジタル運動について疑念がわき起こっているのも事実で、この点については早急に対応する必要がある」と委員長のJohn Holmesはレポートで書いている。

「デジタル運動の資金調達は、選挙支出や寄付に関する法律でカバーされている。しかし、誰がどれくらいの額を、どこで、どのように使ったのかをはっきりさせる必要があり、法を破った人にはより厳重な処罰を科す必要がある」

「ゆえに、このレポートでは英国政府ならびに議会に対し、オンライン運動が誰をターゲットにしているのかを投票者にわかりやすくし、またあってはならない行為を未然に防ぐために、ルールの改正を求める。このレポートとともに公開する世論調査では、投票者の混乱や懸念が浮き彫りになり、新たな策の必要性も明らかになっている」

選挙委員会の主な提案というのは以下の通りだ。

・誰が運動を行なっているのかをデジタルマテリアルに明記するよう、英国政府そして議会が法律を変更する

・政府も議会も、費用についての申告書のルールを改める。運動を行う人に、出費申告書を出費のタイプごとに細分化させる。こうしたカテゴリー分けをすることで、デジタル運動にいくら費やしたのかがわかるようになる。

・運動を行う人に、透明性を高めるためにデジタルサプライヤーからのインボイスをより詳しく、かつわかりやすい形で開示させる

・ソーシャルメディア企業は、英国における選挙と国民投票のための運動材料や広告についてポリシーを改善すべく我々とともに取り組む

・ソーシャルメディアプラットフォームにおける英国選挙や国民投票への言及はソースを明らかにすること。政治的な言及についてのオンラインデータベースは、英国の選挙や国民投票についてのルールに則る

・英国政府も議会も、許可されていない海外の団体や個人が負担する選挙や国民投票にかかる費用について明らかにすること。言論の自由を脅かしていないかも考慮すべき

・運動を行う人や政府に対し、我々はどのようにルールや費用報告の締め切りを改善すべきか提案を行う。運動後、または運動中でも我々、そして投票者に対し速やかに情報開示することを望む

・政府、そして議会は、ルールを破った運動家に科す罰金の最高額を増やし、また調査以外の部分からも情報が得られるよう選挙委員会の権限を強化する

これらの提案は、Cambridge Analyticaの件を告発したChris Wylie(この記事のトップにある写真に写っている)の暴露の影響を受けている。Wylieはジャーナリストや法的機関に対し、Facebookユーザーの個人情報が、ユーザーの知らないところで許可なく政治運動での利用を目的に、今は廃業してなくなった選挙コンサルティング会社にいかに不正に流されたのかを詳細に語った。

Cambridge Analyticaのデータ不正使用スキャンダルに加え、Facebookもまた、クレムリンの息がかかったエージェント社会的な分断を招くようー2016年の米国大統領選挙もここに含まれているーいかにターゲティング広告ツールを集中的に使用したかという暴露で批判にさらされてきた。

Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグは、Facebookのプラットフォームがどのように運営され、民主プロセスにどのようなリスクを与えているのか、米国欧州の議員に問いただされた。

Facebookはサードパーティーがデータを入手しにくくなるよう、また政治広告に関する透明性を高めるためにいくつかの変更を発表した。たとえば、政治広告に対しその資金はどういうものなのか詳細を明らかにする、検索可能なアーカイブを提供する、といったことだ。

しかしながらFacebookの対応が十分かどうかということに対しては批判的な見方もある。たとえば、どれが政治広告でどれが政治広告ではない、ということをどうやって決定するのかといった疑念だ。

また、Facebookはプラットフォーム上の全広告の検索可能なアーカイブを提供してない。

ザッカーバーグは米国、欧州の政治家の質問に対し、あいまいにしか答えなかったとして批判されている。Facebookのプラットフォームがどのように運営されているのかについての懸念や質問に対し、ごまかし、ミスリードし、そして国際社会を混乱させたとして、ザッカーバーグは議会に呼び出された。

選挙管理委員会は直にソーシャルメディアに対し、デジタル政治広告についての透明性をより高め、“適切でない”コメントは削除するよう求めている。

加えて、「もしこれが不十分だということになれば、英国政府、そして議会は直の規制を検討すべき」と警告している。

これに対し我々はFacebookにコメントを求めていて、反応があり次第アップデートする。

内閣府の広報官は、選挙委員会のレポートに対する政府の反応を間もなく伝えるとしていて、こちらも入手次第アップデートする。

アップデート:内閣府の広報官は「政府は、公正さ、適切な民主プロセスを維持するため、デジタル運動における透明性の向上を図らなければならない。デジタル運動で氏名を明らかにするという提案は今後検討する」と発表した。

英国のデータ保護の監視人であるICOは、引き続き政治運動におけるソーシャルメディアの活用を調査している。Elizabeth Denhamコミッショナーは最近、政治広告に関するさらなるルールの開示と、ソーシャルメディア運営会社の行動規範を要求した。長く展開されてきた調査の結果は間もなく明らかになると見込まれている。

と同時に、 DCMS(デジタル・文化・メディア・スポーツ省)委員会は、フェイクニュースやオンライン上の偽情報のインパクト、また政治プロセスに対するインパクトの調査を行なっている。ザッカーバーグに証言するよう求めたものの却下されている。ザッカーバーグは、CTOのMike Schroepfer含む何人もの手下を身代わりに送っている。Schroepferは憤まん募らせた議員から5時間にわたって集中砲火を浴びたが、彼の答えはまったく議員らを満足させるものではなかった。

DCMS委員会は、大きなテクノロジーが民主プロセスに及ぼした影響について、別のレポートにまとめておそらく数カ月内に公表する見込みだ。委員長のDamian Collinsは今日、「調査は、時代遅れの選挙法が巨大なテックメディアに支配されつつあるか、といったことについても焦点をあてている」とツイートした。

間もなく発表される、ブレグジット運動支出のレポートについて、選挙委員会の広報官は我々に次のように語っている。「実施方針に従って、選挙管理委員会は2017年11月20日から始まった調査の結果をVote LeaveのDarren Grimes氏とVeterans for Britainに対しすでに通知している。最終的な判断が出る前に、抗議する猶予として28日間が与えられている。最終決定が下されれば、委員会は調査結果を公表し、また調査のレポートを公表する」。

イメージクレジット: TOLGA AKMEN/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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