SNSなどのクチコミ(ソーシャルビッグデータ)から抽出した消費者のインサイトを活用して、日本企業の中国市場向けマーケティングをトータルで支援するトレンドExpressは10月29日、日本郵政キャピタルやDNX Venturesを含む複数の投資家より7億円を調達したことを明らかにした。
トレンドExpressにとっては2017年11月にDraper Nexusやアコード・ベンチャーズ、エボラブルアジアから1.8億円を集めて以来、約2年ぶりとなるシリーズBラウンドでの資金調達。同社ではさらなる事業成長を目指して消費者ビッグデータをベースとした新規プロダクトの開発や組織体制の強化、越境EC事業の拡大を進めるほか、M&Aにも取り組む計画だ。
トレンドExpressはマザーズ上場企業であるホットリンクの新規事業として2015年にスタート。その後2017年1月に分社化され、いわゆる“カーブアウト型”のスタートアップとして外部投資家から資金を調達しながら事業を展開している。
当初から軸にしていたのがソーシャルビッグデータを基にした日本企業の中国マーケティング支援だ。具体的には中国版Twitter「weibo」など様々なSNSやオンライン通販サイト「Taobao」を含むECサイトに散らばるクチコミを収集・分析し、そこから現地の消費者のインサイトを発掘して日本企業のプロモーションやブランディングに活かしてきた。
特徴はデータの収集・分析力と、それを用いてマーケティングの全工程を垂直統合型でサポートできることだ。トレンドExpressでは現状調査や戦略策定段階から、認知拡大、理解促進、購買促進、購入に至るまでの各工程ごとに自社プロダクトやソリューションを保有。もちろん部分的にはそれぞれ競合となるプレイヤーはいるものの、顧客のフェーズや要望を汲み取った上で、幅広い選択肢の中から最適な施策をワンストップで提供できるのが優位性になっているという。
また代表取締役社長の濵野智成氏によると各施策の基盤となるデータの収集、解析力も顧客から選ばれる要因の1つだ。同社では様々なSNSなど、ソースとなるサイトからクローリングするだけでなく、各種サイトとAPI連携を進めることで多様なデータを収集。それに対して意味解析や心理判定などを実施しながら消費行動の裏側にあるインサイトを見出せるのが他社にはない強みなのだそうだ。
「商品がどのくらい売れているか、サイトのPVがどのくらい増えたかなどのデータやボリュームをフィードバックすることはどこでもできる。自分たちはそれだけじゃなく消費者たちの集合知や爆買いなどの行動に至った背景・要因、隠れた本音などを導けるコアな技術を持っているのがポイント。(特定のプラットフォームに偏ることなく)中国でここまでやれている企業はほとんどない。最近は中国の現地企業から依頼がくるケースも増えている」(濵野氏)
ホットリンクの新規事業として始まってから約4年、分社化してからはもうすぐで3年を迎えるが、これまでナショナルクライアントを中心に日本企業約300社の中国マーケティングを支援。トップ企業がこぞって顧客となっている美容・コスメ領域を筆頭に生活雑貨やヘルスケア、食品、小売、アパレルなど幅広い企業の海外進出をアシストしてきた。
事業の構造としては広告代理店のような色も強いが、自社開発のプロダクトを複数抱え単体のプロダクトのみを継続的に利用している企業もいるそうだ。
たとえば日本の商品が中国市場でどのように売れているのかをモニタリング・分析できる機能を備えた「中国トレンドEXPRESS」は月額制で提供。インサイトを基に記事や動画といったコンテンツを作成し、メディアへの露出と効果測定までトータルで行うPRサービスなども展開する。
2018年からは日本商品の爆買いブームの火付け役である「日本に在住する中国人ソーシャルバイヤー」を集めた越境ECサービス「越境EC X」をスタート。ソーシャルバイヤーとは小売店などで大量に仕入れた日本の商品を中国現地のSNSやECサイトを活用して販売するマイクロインフルエンサーのことで、彼ら彼女らに日本のメーカーが直接商品を紹介できる場所を用意した。
バイヤーにとってもアプリからメーカーからユニークな商品を直接仕入れられるのはメリット。今回の資金調達はこのプロダクトをさらに育てていくためのものでもある。
トレンドExpressでは今後も消費者ビッグデータを用いた商品ラインナップの拡充や既存プロダクトの強化を進めながら「まずは中国マーケティングと言えばトレンドExpressというブランドを早々に確立する」(濵野氏)ことを目指す方針。ゆくゆくは他のアジア諸国への進出支援も手がけていきたいという。
「日本国内の人口が縮小していく中で、日本企業は外需を取り込むべく今後一層グローバル展開を進めていく必要がある。その際のインフラとなるような存在を目指して、まずは需要の大きい中国市場向けの事業からしっかり拡大させていきたい」(濵野氏)