ビジネスサービスこそがVRのキラーアプリだ

【編集部注】著者のChris Youngは、B2BソフトウェアのアーリーステージベンチャーファンドであるRevel Partnersの、マネージングジェネラルパートナーである。

仮想現実(VR)と拡張現実(AR)は、2016年に現実的な試練に晒された。膨大な投資と業界でのもてはやされ方にもかかわらず、予測されたVR/ARの大量採用は決して現実のものとはならなかった。しかし、その水面下では、地味で目立たない領域からではあるが、この技術の確実な動きが始まっていることがわかる。

B2Bとエンタープライズアプリケーションに於けるVR/ARの活動は、表面的には目立たずとも非常に活発な年だった。そしてその勢いは2017年も続いている。実際に、今やエンタープライズVRからのアプリケーション収益は、2020年までにはコンシューマーエンターテイメント収益を上回ると予測されている。しかも誇大宣伝は抜きで。

ゲームやエンターテイメントのためのVR/ARの早期の試みは、今だに初歩的な状況にあるままだ。Mark Zuckerbergでさえ、この技術が主流になるまでには、丸々10年はかかると見積もっている。不恰好で高価なハードウェアや、ヒット商品の欠如、そして消費者自身の関心の欠如などにその原因を求めることはできるが、業界による2025年までに7000億ドルの売上という予想は、少々野心的に思える。消費者向けのVR/ARが、いつか「やってくる」のはほぼ確実だが、一方業界の規模がどれ位のものになるのか、いつどのように成長が始まるのかは重要な疑問として残されたままだ。

調査会社のTracticaによれば、VR/ARの企業支出は、ハードウェア関連の収益を除いても、2020年までに消費者たちがVR/ARエンターテイメントに対して行う支出よりも約35%大きくなると予想されている。Tech Pro Researchによれば、彼らの調査に回答した企業のうち67%が現在ARの利用を検討しており、47%がVRをの利用を検討している。デジタルトランスフォーメーションは、VRハードウェアのコストの低下と共に、注目度が上がっている。関連するソフトウェア、システム、ツールの進歩との組み合わせと、企業による採用が、業界のための最も現実的な発射装置として成長しつつある。

2017年には、VR/ARのユースケースが、イノベーター、起業家、スタートアップたちが取り組むさまざまなビジネス分野で拡大し続けている。ヘルスケア、教育、CPG/FMCG(Consumer packaged goods / Fast-moving consumer goods:トイレットペーパーや洗剤のように安価かつ短いライフサイクルで大量に消費者に売られる商品のこと)、テレコム、広告、不動産などはすべて、VRもしくは強化現実(enhanced reality)から恩恵を受け始めている。何百もの3Dビジュアライゼーションと拡張のための、クリエイティブなアプリケーションたちが登場している。

スマートな起業家たちと開発者たちは、早期成功の鍵となる要素を特定し、その教訓を、B2Bに焦点を当てた消費者関連産業に応用するだろう。

マーケティングおよび広告セグメントには、VRスタジオ、アプリケーション開発者、流通ネットワークがひしめいている。多くの場合、彼らは広告代理店やブランドを支援して、販売やマーケティングのための没入型ブランド体験を提供している。たとえば、Outlyer Technologiesは、360度のモバイル広告フォーマットを使用して、ユーザーの関心を引きつけようとしている。最近のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)では、メトロアトランタ商工会議所が、Foundry 45の技術を利用してアトランタの仮想体験を提供し、求職者の候補を募った。特に、アトランタではVR/AR企業が急増しており、数年前には1ダース程だった企業数が現在では50程になっている。

これらのタイプのユースケースが急成長しているのは、マーケティングと広告分野だけに限らない。製造業では、WorldVizが、その企業向けのVizardとVizmove VRアプリケーションスイートを使い、ビジュアライゼーションとテスティングのリーダーとなっていて、P&G、Philips、3M、Perkins & Willなどの多くの企業で採用されている。オープンソースで拡張可能なライブラリにより、大企業や中小企業は、現実世界のシナリオで、新製品を迅速に設計、操作、そしてテストすることができる。

教育での利用は — それが従業員訓練でも、初等教育でも、そして先進的研究だとしても — 大量のデータを視覚化したり、遠隔地で学生の教育を行なうことのできるVRの能力から恩恵を受けている。GoogleのProject Expeditionは、仮想的な探検と、没入型世界旅行を教室にもたらす。アイスランドのSólfarStudiosは最近、エベレストVRプロジェクトを英国王立地理学会に寄付したAlchemy VRUnimersiv、そしてCuriscopeなどは、没入型で経験型のカリキュラム、ツール、トレーニングで急速に教育の世界を変えつつある。

ヘルスケアのVRは、患者のケア、遠隔医療、リハビリ、そしてトレーニングにまで及んでいる。実際、2016年はVRカメラを使用した手術が行われた最初の年として記憶された。医学生たち(および一般の人びと)は、Mativisionの手術視覚化アプリケーションでVRを使用する医師と共に、手術の現場に立ち会うことができた。VisitUは、ヘッドセットと家庭内の360度カメラを通して、病院の子供たちを自分の部屋につなぐことができる。The Virtual Reality Medical Centerは、恐怖症や他の慢性的なメンタルヘルスの問題を持つ患者を支援するために、サイバー心理学の中で急速に成長している医療実践の1つだ。

業界全体では、7000億ドルもの規模に達するだろうと予測する専門家もいる。こうしたエンタープライズ分野におけるイノベーションを促進する新規用途の例は、この技術の意義ある収益への明確な道筋を示している。確かに、この分野は消費者向けの分野で、発達し発展を続けるだろうが、今や企業とB2Bのケースが急速に成長している。スマートな起業家たちと開発者たちは、早期成功の鍵となる要素を特定し、その教訓を、B2Bに焦点を当てた消費者関連産業に応用するだろう。そここそが、このテクノロジーがその基盤を見出し、大量採用への扉を開く場所なのだ。

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(翻訳:Sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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