ビットコイン資産をより安全に保管、テックビューロがハードウェアウォレットTREZORを販売

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ビットコインの安全な保管方法──地味に聞こえるかもしれないが大事な話だ。ビットコインを筆頭とする仮想通貨(暗号通貨)に現実世界のマネーが流入して価格の上昇が続いている。すでに資産の大きな部分をビットコイン(やそれ以外の仮想通貨)で保有している人も大勢いる。安全な保管方法への需要は高まっている。

ビットコインにある程度親しんだ人なら知っていることだが、ビットコインの保管方法には最近になって大きな進展があった。一つは秘密鍵のバックアップを簡単にする技術のBIP39(BIPはビットコイン開発者コミュニティ内の技術提案文書)が登場したこと、もう一つはこのBIP39を前提とするウォレット製品が多数登場して競争が起きていることだ。

そして今日(2016年6月21日)、ビットコイン取引所Zaifを運営するテックビューロはビットコイン向けハードウェアウォレットTREZOR(チェコ共和国SatoshiLabsの製品)の正規代理店となり国内販売に乗り出すと発表した(プレスリリース)。2016年6月24日にAmazon Prime向けに売り出し、楽天市場で販売する準備も進めている。価格は1台1万4800円(税込み)。先行150台限定で1000円引きのキャンペーン価格で販売する。

テックビューロ代表取締役の朝山貴生氏は、TREZORを選んだ理由を次のように話している。「TREZORを使えば、たとえパソコンへの入力を盗聴されたとしてもビットコインは盗まれない。他のハードウェアウォレット製品は、パソコンへの入力が盗聴されると盗難されるリスクがあったり、オープンソースでなかったり、充電が必要だったりする。安全性と利便性の両面でTREZORが最も優れている」。

TREZORの外形寸法は59×30×6mm3。128×64画素のディスプレイと操作用の2個のボタンを備え、USB2.0端子が付いている(もちろんUSB3.0端子に刺して使うこともできる)。Windows、macOS、Linuxに対応する。専用ハードウェアデバイスでビットコインの暗号鍵を管理することで、パソコン上でウォレットを使う場合に比べて仮想通貨の盗難のリスクをきわめて低く抑えている。

このTREZORは、今までビットコインで金券を買えるサイトコインギフトが販売していた経緯がある。今回は正規代理店であること、大手ECサイトのAmazonと楽天市場で販売することから、より普及が進むことになるだろう。

ハードウェアウォレットがなぜ必要なのか

ビットコイン向けのハードウェアウォレットとは一体何者なのか、そしてなぜ必要なのだろうか?

大筋はこういうことだ。ビットコインを取引所で買って「預けっぱなし」にしている人は大勢いる。だが、これは推奨できないやり方だ。日本のビットコイン取引所はMt. Gox破綻のネガティブイメージを払拭しようとがんばっていて、あの事件いらい盗難事件や不祥事は報告されていない。だが海外の取引所では盗難事件や破綻の知らせを時々目にする。取引所はあくまで取引所であって、銀行ではない。値上がりが続く仮想通貨はサイバー犯罪者にとってもいっそう魅力的なものとなっている。先日起きたThe DAOの巨額盗難事件(例えばこの記事を参照)は、仮想通貨分野にはかなり頭が良くて悪意を持った人間が存在することを改めて教えてくれた。シリアスな金額を長期間にわたり他人に預けるべきではない。

個人でビットコインを保管するやり方はいくつかある。主な選択肢はパソコン上のウォレット、スマートフォン上のウォレット(これはビットコインを日常的に使うのにはとても便利だ)、それにハードウェアウォレットだ。パソコンやスマートフォンのウォレットは汎用OS上のアプリケーションなので、巧妙に作られたマルウェア、ウイルス、キーロガーにより秘密鍵を盗まれ、ビットコインが盗難される可能性を頭の片隅に入れておく必要がある。それに対して、専用ハードウェアであるハードウェアウォレットは安全性と利便性の両面に優れ、今のところビットコインの保管方法の本命とされている。

BIP39は「秘密鍵を手元で管理」しやすくする工夫

こうしたハードウェアウォレットの前提となっている技術がBIP39だ。

「ビットコインを自分で保管する」ためには「秘密鍵を保管する」必要がある。バイナリの数字列である秘密鍵を個人が管理するのは難しいとの問題が指摘されていたが、この問題が2015年以降普及したBIP39で改善された。BIP39は、12または24の単語(それより長い単語数にもできる)をとして秘密鍵を管理する。この12単語を盗み出されることは秘密鍵が盗み出されることと等価だ。そこで保管するときには、デジタル情報としてバックアップするのではなく、ディスプレイに表示される単語を手でメモして写し取る。長大なバイナリ列をミスなく書き取ることは普通の人間には無理だが、12の単語の列ならなんとかなる。この12単語を、耐火性のデバイスで管理するCryptsteelという商品も出てきている。

ビットコインはギークの実験として出発した訳だが、今や「シリアスな金額のビットコインを安全に保管したい」というニーズが顕在化するに至っている。ビットコインなど仮想通貨へのマネー流入が長期的トレンドだとすれば、ビットコインを長期保有したいと考える人も増えていくだろう。ハードウェアウォレットの需要が出てきたことは、仮想通貨の重要性が高まっていることを反映した、地味ではあるが重要なシグナルといえる。

最後に大事な話を。ビットコインにマネーが流れ込んでいるのは事実だが、長期的に資産価値が保たれる保証はない。私は記事の書き手としてビットコインは重要なものだと考えているが、その内容、特質、現状をよく調べて納得した人だけが買うべきだとも考えている。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。