AR〔拡張現実〕空間になんらかのオブジェクト(たとえばピカチュウ)を描写することを考えてみよう。このとき現実の空間で人間や自動車が手前を通り過ぎたとする。するとAR空間のオブジェクトは現実のオブジェクトの後ろ側になる。ここで非常に厄介な問題が生じる。
仮想オブジェクトを現実のオブジェクトによって「隠す」作業は極めて複雑だ。システムは描写中のピクセルが別のピクセルの「手前」にあるのか、「向こう側」にあるのか、中間にあるのかを判断できなければならない。自動運転車のように複数のカメラやレーザーレンジファインダーを使うのは非常に役立つがスマートフォンが通常備えるようなRGB感光素子の単一カメラで、しかもリアルタイムでこうした識別を行うのは至難の技だ。ほとんどのARアプリでオブジェクトがごく近くの空中に浮かんでいるような描写になるのはこうした理由からだ。
ピカチュウが活躍するポケモンGOのテクノロジーを支えるNianticは、まさにこの問題に取り組んできたスタートアップ、Matrix Millを買収した。
2017年にロンドンのユニバーシティー・カレッジのプロジェクトからスピンアウトして企業となったMatrix MillはMonodepthと呼ばれるテクノロジーを提供する。このツールは単一のRGBカメラから得たデータをニューラルネットで処理し、リアルタイムのゲームに利用可能な速度で距離情報を出力する。
同社は昨日(米国時間6/27)、少数のジャーナリストを招いてMonodepthのデモを行った。下にエンベッドしたサンプルではNianticの現行のARエンジンで描写したピカチュウとMatrix MillのMonodepthテクノロジーで処理したピカチュウを比較している。
2番目のバージョン(0:33から始まる)では通行人がピカチュウを隠している。またピカチュウはプランターを通り抜けるのではなくて、きちんと後ろに回り込む。レンダリングはまだ完全ではなく、ときおり不整合やノイズが出ている。しかし開発段階のこのデモでもリアルさが大きく向上していることが見てとれる。残念ながら、ポケモンGOにこのテクノロジーが導入される時期についてはまだ情報がない。買収の金額など詳細についても不明だ。
Nianticはこれ以外にもきわめて短いレイテンシーでAR体験を共有できるテクノロジーを利用したゲームのデモをいくつか行った。いずれもまだ実際のゲームには導入されていない。
たとえばNeonというコードネームで呼ばれる実験的ゲームではプレイヤーは広い場所を走り回って「弾薬」を拾い、他のプレイヤーに向けて射つ(下のビデオ)。:
このゲームではシステムが他のプレイヤーを認識して、それぞれにマーカーを付与してトラッキングしていることが注目される。ゲーム内を飛び交うARの「ロケット」はプレイヤーだけでなく、アプリを通すかぎり室内の観戦者もリアルタイムで見ることができる。プレイヤーが持つ複数のデバイスからの情報を共有することでシステムはリアルタイムでゲームマップを更新し、各プレイヤーの相互の位置関係を把握する。Niantic/Portkeyが準備中のハリー・ポッター・ゲームにおける魔法使いのバトルにこのテクノロジーが応用されることは十分予想できる。
共有ARというコンセプトは実験的な3次元ARパズルゲームのTonehengeにも使われている。Nianticはこのゲームを数日で開発したという。
これもハリー・ポッターに出てくる「魔法のチェス」を思わせる雰囲気があった。
最後にNianticはReal World Platformを紹介した。これはiOSとAndroidにまたがるクロスプラットフォームのツールとAPIのセットで、サードパーティーのデベロッパーがARゲームを開発するためのベースとなる。ポケモンGOと同様のメカニズムを備えた独自のゲームが開発できる。ユニークなコンセプトを用意すれば、マップ、スプーフィング対策ツール、世界のゲーム可能地点の巨大なデータベースなどをNianticが提供する。
Nianticでは今年中に「少数の選ばれたサードパーティー」に対してこのツールの提供を開始するという。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)