レストランオーナーで談話家のEddie Huangは“Fresh off the Boat”(編集部注:台湾系アメリカ人一家を描いた米国ABCテレビのコメディードラマ、邦題は「ファン家のアメリカ開拓記」)に出てくる3兄弟の一人として知られる。ABCのシチュエーションコメディは彼の回想記がもとになっている。しかし、彼の兄弟EmeryとEvanは、ドラマをかなり熱心に視聴した人にとってすら、どちらかというとミステリアスな存在だ。この2人のキャラクターはドラマではかなりフィーチャーされていたが、実在の彼らはあまり表舞台には出て来ず、Eddieのソーシャルメディアにおける露出が目立っていた。
しかしながらEmeryとEvanは不動産投資に忙しく、最近はテックスタートアップ分野にも進出した。彼らの多家族経営の投資オフィスBatu Capitalは今年事業を始めたばかりだが、今週、彼らの初の投資先の一つ、大麻産業のためのソフトウェアデベロッパー企業MJ FreewayがMTechとの合併に合意し、今後Nasdaqに上場する親会社をつくるという、大きなマイルストーンを達成した。
TechCrunchとのインタビューで、この2人の兄弟は米国、中国、そして東南アジアで投資したいテック部門とスタートアップについて語った。Batu Capitalはビッグデータと同様、大麻やブロックチェーン、クリプト部門の企業探しにフォーカスしている。
大麻ビジネス向けの資源計画やコンプライアンス追跡ソフトウェアを企業に提供するMJ Freewayに加え、ポートフォリオにはイーサリアムでのビデオ広告を展開するという新たなアプローチを構築しているスタートアップVidyや、クリプトを使ったブロックチェーンとデジタル通貨ベンチャーファンドのSora Venturesも含まれる。Batu Capitalはシード期もしくはシリーズAステージの企業、またはシリーズCとIPO前に投資を行い、その平均的な規模は50万ドル〜200万ドルだ。
Batuは1家族によるオフィスではないものの、投資のためにパートナーのネットワークから資本を調達する代わりに、何世代にも及ぶ政治的そして社会的大変動を経て、家族の資産を守りたいというEmeryとEvanの願望が設立の動機となっている。
「長いストーリーを手短に言うと、僕らの家族は前の2世代で富を築き、失うということに5回以上も繰り返した。かなり率直に言うと、もし僕とEvanが生きている間にまたそんなことがあれば罵られるよ」とEmeryは語る。
第二次世界大戦前、Huang兄弟の父方の親戚は鉄道により富を築いたが、旧日本軍による南京占領中に富を失った。親戚は重慶市に逃れ、不動産で富を再び築き始めた。しかし今度は中国共産革命で台湾に逃げることを余儀なくされ、またもや全てを失った。一方、母方の祖父母も旧日本軍から逃れようと、中国から台湾へと避難した。彼らは以前、銀行業に携わっていたが、台北では繊維プラントに職を得るまでの数年間、路上で蒸しパンを売ってなんとか生き延びた。この繊維プラントでの労働はその後、自前の室内装飾材料ファッブリック工場へとつながる。
しかし、中国共産党を逃れた人たちの多くがそうだったが、兄弟の親戚も台湾で暮らしを再建したものの、また侵略があるのではないかと用心を怠らず、結局父方、母方どちらも米国に移った。そこで彼らの両親、LouisとJessicaは出会い、結婚し、3人の息子をもうけた。アジア系米国人が主役のプライムタイムのシットコム(編集部注:シチュエーションコメディの略)としては20年ぶりのものとなった “Fresh off the Boat”は、LouisとJessicaが兄弟が育ったフロリダでレストランビジネスを立ち上げるのに伴うHuang一家の浮き沈みをフィクション化したものだ。
新産業の主力に投資する
3人の兄弟は、Eddieが2009年にマンハッタンのロウワーイーストサイドで立ち上げた人気レストランチェーンBaoHausで働き、そこでビジネスの経験を積んだ。将来が期待されるライターに贈られる賞を受賞したEmeryはそのビジネスから早くに離れ、中国へと渡った。彼はそこで作家活動を行いたかった。しかしまた、新たな投資機会も探したかった。当時、Emery とEvanは彼らの両親がレストランビジネスをやめてリタイアする準備を手伝っていて、彼らは家族の資産を不動産、中国投資グループとニューヨークの土地オーナーを結ぶブローカーディールに投資し始めた。
Batu Capitalの名称は、彼らがモンゴルの歴史好きということで、モンゴルの支配者でジョチ・ウルス王朝を築いたBatu Khanにちなんでいる( 23andMeのテストのおかげで、両親の血統にモンゴルの血が混ざっていることが最近わかった)。
Batu Capitalは大麻にフォーカスしている。というのも、「疼痛管理と医学的な使用、そしてレクレーションとしての使用でかなりの需要が見込めるマーケットだからだ」とEmeryは言う。特に兄弟は大麻が170億ドルもある鎮痛剤マーケットに取って代わることを期待している。しかしそれは、麻薬乱用の広がりを引き起こすかもしれないという副作用を抜きにした話だ。クリプトに関しては、Emeryは「僕たちは、データストレージとデータフィデリティという意味での情報保管手段として、ブロックチェーンのテクノロジー、それは通貨だけでなくブロックチェーン全体、そしてスマート元帳全体に魅力を感じている」と語る。
それぞれのセクターでは、「“業界の全インフラ”のためのソリューション構築を考えている企業をBatuは探している」とEvanは話す。
たとえば、MJ Freewayは州や国の規則に則っていることを確認しながら栽培者や薬局がそれぞれビジネス展開するのをサポートする。一方、Vidyは出版社が広告を出す手法を新たなものにするのにブロックチェーンを使っている。自動のポップアップや埋め込みと違い、読者は指やカーソルをオンライン記事の文字の上に置くことでビデオを見るかどうか決められる(この動作はこちらのEsquire Singaporeの記事でピンク色にハイライトされたところに指やカーソルをもってくることで試せる)。ビデオのストリーミングを読者が簡単に選べるようにすることで、出版社がユーザーの動きの微妙な差異を理解できるようになれば、とVidyは願っている。MediacorpやMercedes-Benz、 DeliverooなどをパートナーとするVidyはまた、VidyCoinと呼ばれる独自のERC20ユーティリティトークンをつくった。このトークンでは、広告主は広告を出す費用を払え、読者はビデオを閲覧して稼ぐことができる。ブロックチェーンでの取引を記録することでVidyはクリックスパムのような異なるタイプのオンライン広告詐欺から守ることができる。
家族の過去の経緯から、Huang兄弟はポートフォリオに地理的多様性を持たせることにプライオリティを置いている。米国と中国に加え(Emeryは上海拠点、Evanは間もなく米国から北京に移ることを計画している)、Batu Capitalはまた東南アジアの成長マーケット、特にフィリピンとカンボジアに注目している。中国資金の恩恵があるだけでなく、投資家により透明性を提供できる、と彼らは言う。
「僕たちがスタートアップに最も求めるものは、エグゼクティブチームだ。その業界、または関連業界で会社を育ててきた経歴を持っていること、またはいかせる経験を持っていることを確かめたい。たとえば、ビッグデータ業界でどこに適所を持っているのか、戦略的なパートナーシップを抱えているか、といったことだ」とEmeryは語る。「クリプトや大麻でもそれは同じだ。僕らは何もないところには投資しない。投資するには投資先が際立っていることを確かめる必要がある」。
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(翻訳:Mizoguchi)