テックビューロがICOソリューション「COMSA」(コムサ)を発表したことはTechCrunch Japanで8月3日にお伝えしたとおりだが、このCOMSAが作り出そうとしている「ネットワーク」にリアルマネー(法定通貨)を投資する事業会社とVCがでてきた。
COMSA発表から1週間が経過した今日8月10日、金融情報提供サービスを運営するフィスコのほか、テックビューロの既存投資家であるVCの日本テクノロジーベンチャーパートナーズ、IoT関連スタートアップに投資しているアクセラレーターのABBALabの3社が、COMSA上で流通するICOトークン(CMS:単位はCOMSA)をはじめ、ビットコイン(BTC)やNEMプロジェクトの通貨である「XEM」への直接投資を開始したことを発表した。
ビットコイン、NEM、COMSA、ICOトークンへ投資
「直接投資」を噛み砕いていえば、ビットコインやNEMの仮想通貨を日本円で買っていくということだ。買うのは既存の仮想通貨だけでない。10月2日に予定されているCOMSAのトークンセールで出てくる「COMSA」という新しいトークンについても投資予定だし、COMSAというICOプラットフォームで今後でてくるICO案件で発行されるトークンについても投資を予定している。ただ、ICOによるトークンは有価証券ではないので、投資家ではなくトークン購入者というほうが現実に近いのかもしれない。
既存仮想通貨やCOMSA、COMSAを使って今後でてくるICO案件それぞれの投資金額や比率は明らかにされていない。ただ、フィスコは全体で10億円規模となる仮想通貨専門の投資ファンド「FISCO Crypto Currency Fund(仮称)」を組成するとしている。
フィスコは株式、為替、金利などの金融情報を投資家向けに提供していて、すでに仮想通貨に関する情報提供も開始しているが、仮想通貨やICO市場を既存金融市場と比べたとき「合理的な市場は形成されていない」(フィスコ代表取締役狩野仁志氏、発表文からの引用)という。
確かに現在、仮想通貨に関する情報といえば、単に誤った情報というだけでなく、根拠のない断言やあからさまな嘘、煽りも横行している状況だ。世界のICOについて言えば、トークンセールの実施主体が発行するホワイトペーパーと、そのICOによって利益を得る関係者たちの証言だけが頼りということもある。今後、もしICOが資金調達手段として既存の資本市場を補完する存在になっていくのだとしたら、信頼できる情報に対するニーズが高まることは十分に予想されるところだ。
しかし、フィスコのような情報提供者が直接投資をするプレイヤーとなることに矛盾はないのだろうか? この点について前出のフィスコ狩野氏は、情報の透明性を高めることで「合理的な金融市場形成に寄与する」という同社の使命に言及しつつ、次のようにコメントしている。
「私たちがXEMをはじめとする将来有望な仮想通貨やICOトークンへ積極的に投資することで、他の投資家に対する超過利潤を得ることに何のためらいもありません。自らがプレイヤーとなり、そのパフォーマンスを実現し、市場に示していくことは、私たちがその使命を遂行する上でもっとも効率的かつ効果的な方法論であろうと考えています。今後の私たちの投資パフォーマンスに是非ご期待頂ければと思っています」
音楽にたとえると、IPOはクラシック、ICOはロック
ICOという新しい仕組みについて日本テクノロジーベンチャーパートナーズの村口和孝氏のコメントが興味深い。かなり長いコメントだが、あまりに面白いので以下に全文を引用しよう(改段落はTechCrunch Japan編集部による)。村口氏は日本の独立系VCの草分け的存在として、日本のVCの間では最も尊敬されている人物の1人だ。
「NTVPではこれまでDeNAなど日本のスタートアップ企業に対して株式を使って、投資を長期で実現して、発展を支援してきました。音楽でいえばクラシック音楽です。20世紀の株式による資本を増加する方法であるVC投資とIPOに対し、ICOは、ロックの登場です」
「ICOは21世紀のフィンテック時代における、事業実現に向けての新しい実に有効な資本調達手段だと考えています。NTVPはこれまでの株式のガバナンスを有効な支援方法とする方法に対し、ICOではトークン市場での会社発展エコシステムにトークンホルダーとしてVCとして事業発展に関与します。そこでは、NTVPは、トークンをいかに保有し、いかにトークン発行会社のICOで実現しようとしている事業ビジョンの実現を支援するかが、ICOに関与するVCとしての役割になるでしょう。もちろん、NTVPでは、従来のIPOを狙うスタートアップ企業に対するクラシック株式投資も継続しますし、それがすべてICOのエレキギターによるロックに置き換わる訳ではありません」
「21世紀はIPOクラシックとICOロックと2つのエコシステムが互いに協調しながら経済社会のフロンティア領域において、新しい経済のスターを生み出す2つのエンジンになる日が近いと考えています。ロックが最初不良の音楽とみなされたように、社会が受け入れるには十年くらいかかるかもしれませんが、ICOからエルビスプレスリーやビートルズ、さらにはマイケルジャクソンが誕生する日も近いとNTVPでは考えています」
ICOとは何なのかということについては、『FinTechの法律』(日経BP、2016)などの共著書がある増島雅和弁護士(森・濱田松本法律事務所)が7月に発表したスライドが現状のサマリーとして参考になるので、以下、一読をオススメしたい。増島氏はテックビューロのリーガルアドバイザーも務めている。
テックビューロが開発を進めるCOMSAは、複数のブロックチェーン間のゲートウェイとなるプラットフォームだ。テックビューロ創業者で代表取締役の朝山貴生氏はTechCrunch Japanの取材のなかで、その狙いを「プライベートチェーンとパブリックチェーンの境目をなくすのが目標」と語る。
ここでパブリックチェーンと言っているのは、NEM、Ethereum、Bitcoinのブロックチェーンのこと。プライベートチェーンといってるのは個々の企業が使用するmijinのブロックチェーンのことだ。境目をなくすと言うときカギとなるのは異なるチェーン上の価値を交換可能とする「ペッグ」という手法だ。
「COMSA CORE」と呼ぶクラウド上の9台のサーバーで稼働するmijinノードで稼働するブロックチェーンがパブリックブロックチェーン同士をペッグし、「COMSA HUB」というmijinのプラグインがそれらパブリックブロックチェーンと内部勘定のプライベートなブロックチェーンをペッグする。
COMSAでペッグさせるのは、既存仮想通貨や、新規発行するICOトークンと仮想通貨などの組み合わせがある。さらに法定通貨(円や米ドル)とペッグさせることも視野に入っている、という。法定通貨とのペッグは、直接的なやり方ではなく、法定通貨とペッグした仮想通貨(TetherやZEN)を使うことで行う。法定通貨の裏付けを持ったサービス提供主体がプライベートチェーンを運用し、これをパブリックチェーンにペッグすることで、円やドルと等価のトークンを仮想的にパブリックなNEMやEthereumのブロックチェーンで扱えるようになる。このことは、パブリックチェーン上で商取引が可能になることを意味している。テックビューロの朝山氏は「実経済の資金がさらにブロックチェーン上に乗って、潤滑油になってエコシステムが回りだす」と話している。
COMSAで扱うICO案件については、COMSA自体のICOのほか、2号案件として11月中旬に東証二部上場企業のプレミアムウォーターホールディングス、3号案件として11月下旬にCAMPFIREを予定している。取り扱うICO案件について朝山氏は「10社に9社はお断りしている状況」と話していて、引き合いが多いものの採用基準自体は厳し目にしているそうだ。