プライバシーに税金を

モバイルデバイスを追跡することによるデータ収集は大きなビジネスであり、政府がこうしたデータを収益化するのを手助けする企業の可能性には莫大なものがある。消費者にとっては、誰が、何のために、どこでデータを流通させているのか、ということに対して自衛するのは、ほんの初歩的なものに過ぎない。現在の問題は、あなたのデータが、新しい税金、料金、債務として、あなたにお金の負担を強いていないことを、どうやって確かめるのか、ということにある。特に、このデータから恩恵を受けるのが政府だった場合は問題だ。それを保護する役割を担っているのも政府なのだから。

個人データ収集の発達は、プライバシーを擁護しようとする人にとって、大きな悩みのタネになってきている。そのほとんどの懸念は、どんなタイプのデータが収集されているのか、それを誰が見ているのか、そしてそのデータが誰に売られているのか、という点に集約されている。しかし、より深刻な問題は、その同じデータが、監査やコンプライアンスの料金という名目で金儲けに使われる可能性があるということなのだ。

実のところ、もはや企業や消費者を追跡して課税するために、大規模なインフラは必要ない。州政府と自治体にも、それが分かっている。

その結果、モバイル追跡技術を利用した年間数十億ドル規模のビジネスが、毎年指数関数的に成長することになった。

スマートシティ(あるいは州)の課税や料金徴収を手助けしている企業にとって、収益の上昇傾向は重要だが、それは矛盾をはらみ、複雑さに満ちたものとなっている。最終的には、そうした会社が採用しているビジネスモデルや、そうした会社に多額の投資を行っている投資家にとって深刻な問題を引き起こす可能性がある。

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プライバシーの擁護者が、モバイルデータの収集に関して懸念を表明する際の、最も一般的な論点は、消費者がほとんどすべての場合にオプトアウトする権限を持っているか、ということ。しかしながら、政府がこのデータを利用するとき、必ずしも常にそのオプションが用意されているとは限らない。そしてその結果は、消費者のプライバシーを税金や、何らかの料金として収益化することにつながる。今は、カリフォルニアや、その他の州が、市民のプライバシーと承諾の積極的な擁護者であると自認しているような時代だ。そのため、こうした状況は、控えめに言っても、関係する人すべてをやっかいな立場に置くことになる。

スマートシティと次世代の位置情報追跡アプリの結び付きは、より一般的なものになりつつある。AI、常に稼働しているデータフロー、センサーネットワーク、および接続されたデバイスは、持続可能で公正な都市の名のもとに、新しい収益を生むものとして、すべて政府によって利用されている。

ニューヨークロスアンジェルス、およびシアトルは、最終的には何らかの形で個人データから収益を得ることになるような、一種の通行料制度を実施している。あるいは、実施しようとしている。1919年に最初のガソリン税を導入したオレゴン州では、2年前からOreGoと呼ばれるプログラムを始めた。それは、走行した距離のデータを利用して、運転者に料金を請求するというもの。一般道や高速道路のインフラ整備の問題に対処するためだ。

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さらに多くの州政府や地方自治体が、同じような政策の採用を検討しているので、こうしたデータから収穫を得ようとしている企業や投資家にとっての収益機会は確かなものとなっている。Populus(ポートフォリオ会社)は、都市がモビリティを管理するのを補佐するデータプラットフォームだ。UberやLyftのような会社の車両からデータを取得し、都市が政策を制定して料金を徴収するのを支援する。

同様に、ClearRoadは「ロード・プライシング・トランザクション・プロセッサ」であり、自動車からのデータを活用して、政府が道路の利用状況を把握し、新しい収入源とすることを補佐する。一方、Safegraphは、アプリ、API、あるいはその他の配信情報を利用して、スマートフォンから毎日何百万もの追跡情報を収集している会社だ。多くの場合、それを開示する仕事はサードパーティに任せている。このようなデータは、スマートシティのアプリケーションへの道を切り開くものだ。その影響は、不動産市場からギグ経済まで、さまざまな業界に及ぶだろう。

「位置情報、3Dスキャン、センサートラッキング、その他の技術を利用している企業はたくさんあります。つまり、サービスの有効性を向上し、政府が新たな収入源を見つけるための機会もそれだけ多いのです」とClearRoadのCOO、Paul Salamaは述べている。「制定された法律ではなく、コンピュータによる規制を信頼できれば、もっとダイナミックな統制を認めることができます。それは自動車だけでなく、騒音公害、微粒子の排出、臨時の標識など、多くの領域に及ぶでしょう」。

こうしたプラットフォームやテクノロジーのほとんどは、善良な政策と持続可能な都市の基盤を生み出すことで、公共の利益に貢献しようとしているものの、個人のプライバシーと、差別の可能性についても懸念を投げかけている。それは本質的に矛盾をはらんでいる。というのも、州政府は、表面的には過剰なデータ収集を抑制するような任を負いながら、時には消費者による同意も選択肢もなしに、その同じデータを利用して州の財政を潤すという側面も持っているからだ。

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「人々は自分のプライバシーを気にかけているので、徹底的な議論を要する側面もあります」と、Salamaは言う。「しかし、われわれは、そのデータの統括管理に関する多くの未知の部分について話をしているのです。ある時点で、ある種の展望がきっと得られるはずですが、それにはまだ時間がかかるでしょう」。

政策立案者や一般の人が、携帯電話の追跡と、それにともなう、ほぼまったく規制されていないデータ収集について意識するようになるにつれて、この分野の企業が直面する課題が明らかになってきた。それは、かなり深刻なプライバシーに関する懸念とのバランスを取りながら、どうやって社会的に有益なデータを抽出し尽くすか、ということだ。

「選択肢を用意すべきでしょう」と、Salamaは続ける。「その例が、ユタ州の方法です。来年から電気自動車は(ガソリン税に代えて)定額を支払うか、距離に応じて支払うかを選べるようになります。距離に応じた支払いはGPSによるものですが、その他の手法も用意されています。いずれにしても、実際の使用状況に応じた支払いとなるのです」。

結局のところ、政府にとって、規制と透明性を両立できるものが、今後最も有望な方法となるだろう。

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ほとんどの場合、消費者または納税者にアクセスする方法は、彼らが共有するエコノミービークル(自動車、スクーター、自転車など)か、彼らが使っているモバイルデバイスのいずれかを通したものとなる。車両に対する課税は間接的なものであり、政府がそうしたデータから収益を得ることに対する言い訳を与える余地も含んでいる。それに対し、モバイルアプリを通じて収集されたデータを利用して市民に直接課税することを言い訳することはできない。

政府にとって、そうした本質的な矛盾を回避するための最善のシナリオは、何らかのメリットと引き換えに自発的な利用を促すか、ユタ州のガソリン税に代わる道路使用料の支払い方法の選択肢のように、課金方法のオプションを用意することだろう。特に個人のデータを精査しようとしているのが政府であれば、それによってプライバシーに関する懸念がすべて払拭されるわけではないとしても、少なくとも選択という方策と、分かりやすいメリットを提示できる。

もし、データの収集と共有が、依然として主にB2Bビジネスやグローバル企業だけの特権だとしたら、おそらくデータ収集の方法や利用に対する抗議の高まりは、もっと目立たないままだっただろう。しかし、データの利用が日常生活のさまざまな部分に浸透し、スマートシティや政府によって全国規模で採用されるにつれて、プライバシーに関する疑問が厳しいものになることは避けられない。特に、市民たる消費者が、財布の中身の危険を察した場合にはなおさらだ。

人々の意識が高まり、本質的な矛盾があらわになるにつれて、規制が確実に追加されるはずだ。それに対応できないビジネスは、その収益を脅かすようなビジネスモデルの根本的な危機に直面することになるだろう。

画像クレジット:nolifebeforecoffeeFlickrCC BY 2.0ライセンスによる)

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

投稿者:

TechCrunch Japan

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