ShiftallのCEOの岩佐琢磨氏は、多い日は6時間以上メタバースに滞在し、VRゴーグルを装着したまま眠ってしまうことがあるほどのヘビーユーザーだ。
そんな岩佐氏は、メタバース内で時間をより快適なものにするプロダクトを同社で開発している。
先に開催されたCESではVR、メタバースの展示は日本での盛り上がりを考えると少なめだったというが、現状、それでも仮想現実に入っていくにはVRゴーグルをはじめとしたガジェットが必要だ。
「ヘッドマウントディスプレイが重いから装着が面倒くさい、家族がいる環境でしゃべりづらいから無言にならざるを得ないといったような課題をなくしたい、もっと快適にメタバース内で生活したい」と岩佐氏はいう。そんなユーザー視点をもとに、Shiftallはメタバースでの生活を快適にする製品を生み出している。
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メガネなしでもOKで軽量なMeganeX
VRを一気に身近なものにした「Oculus」ブランドのVRゴーグル製品群。最新モデルはOculus Quest 2(現在はOculusではなくMeta。以下、Meta Quest 2)となる。
Meta Quest 2は前モデルと比べて解像度がアップ、30gほど軽くなっているが503gと500mlのペットボトル1本分の重量だ。下を向く、うなずくといった動作で、ズルリとヘッドバンドが外れてしまうこともある。また、決して「軽い」とはいえない重量であるため、長時間使っていると疲れてしまう。
そんな悩みを解決するのが、販売予定価格10万円未満(税込)の『MeganeX』(メガーヌエックス)だ。
MeganeXは「年間2000時間(約5時間半 / 日)以上をメタバース内で過ごすといわれるヘビーユーザー」が快適な体験を得られるようにした、超高解像度、超軽量のメガネ型(ゴーグル型ではない)のVRヘッドセット。折りたたんで持ち運ぶのもラクラクだ。
両目5.2K(5120×2560)/10bit HDRと高解像度なので、ドット感のないリアルな体験をユーザーに与える。実際にかぶってみたが、(メタバース内の)部屋から見える景色が、本物のそれを見ているような錯覚が生じるほど。約250gと軽いので装着感がない……というのは言いすぎだが、Meta Quest 2に比べると、やはり軽く「ゴーグルをかぶってこの景色が見えている」という感じはしない。
個人的にありがたかったのは、視力0.XXの私がメガネなしで装着できること。Meta Quest 2では、公式で度付きレンズが販売されているが、コンタクトレンズを使うこともある筆者は、ゴーグルのレンズを取り替える手間を考え、購入していない。しかし、メガネをかけたままゴーグルを装着すると、かぶり方によってはお互いに干渉したり、メガネがずれたりして、プチストレスになっていたのだ。
MeganeXでは、レンズの瞳孔間距離を変えられるだけでなく、レンズの下に度数調整を行うノブがあり、かなりの近視でも、メガネなしでくっきり見えるよう調節できる。これなら、年齢とともに視力が変化しても対応可能。メガネを買い換える必要のある現実世界より、メタバースの世界に、どっぷりハマってしまいそうだ。
メタバース内の温度を感じることができるPebble Feel
Pebble Feel(ペブルフィール)は、小石(Pebble)のようなサイズ感のウェアラブルデバイスで、販売予定価格は2万円(税込)前後。肌側(専用ベルトで装着するため、実際に肌に直接触れるような使い方はしない)にあるプレートが、ペルチェ素子により暖かくなったり、冷たくなったりすることで、メタバース内の環境をリアルに持ち込むことができる。
ペルチェ素子とは、通電することで一端の熱を他端に移動させる特性があるため、その方向を入れ替えることで、プレートを熱したり冷却したりすることが可能。ネッククーラーなどにも採用されているが、Pebble Feelでは、その中でも高性能タイプのものを搭載しているため、わずかな時間で温冷が入れ替わり、移動先のワールドが熱帯でも雪国でも瞬時にその場に合った体験が得られるようになっている。
デモでは、橋を隔てて雪だるまのある雪の降るワールドとストーブのあるワールドを往復させてもらうことができた。セーターなどを着込んでおり、専用ベルトを装着できなかったため、首筋に直接当てて試したのだが、橋の中央では熱くも冷たくもなかったPebble Feelが、ストーブのそばでは熱を帯び、雪だるまの前ではキンキンに冷える、という体験をすることができた。見えているものとのミスマッチがないので、高い没入感を得られるだろう。
家族が寝静まったあとでもメタバースに浸れるmutalk
せっかくメタバースの世界にいるのに、まったくしゃべらない人がいる。「無言勢」と呼ばれる人たちだ。なぜしゃべらないのか。一緒にいる家族に気を使うため、というのが理由の1つにあるという。
それを解決するのが「mutalk」だ。これは、一種のBluetoothマイクで、楕円柱状をしており、口元を覆うことで音漏れを防ぐことができる。
マイクは顔から最も離れた位置に設置されているため、息継ぎの音や、不快な破裂音などが相手に伝わることはない。
実際に、Shiftall 広報 深谷友彦氏を話者として試してもらったところ、通常のボリュームだけでなく、ささやくような声でもクリアに伝わってきた。これなら家族が寝静まったあとでもメタバースの世界に浸れるし、音声チャットを楽しむこともできる。
Windows、macOS、iOS、iPadOS、Androidなどさまざまなデバイスに対応しているので、メタバース内のチャットだけでなく、オフィスの自席、カフェなど、周りに人がいる状況でも会話内容の秘匿性を保ったまま、オンラインミーティングや通話を行える。もちろん、周りに迷惑をかけることもないだろう。
専用バンドで顔に固定できるので、両手にコントローラーを持っていても心配なし。もちろん、外出先では、手に持った状態で、必要なときだけ口元に当てる使い方のほうがスマートだろう。mutalkの販売予定価格は2万円(税込)前後となっている。
売り切れ状態が続くほど大人気なフルトラッカー『HaritoraX』も
2020年5月に発売し、予約開始とともに予定数を販売しきってしまうほど人気を博しているアイテムが『HaritoraX』だ。
Meta Quest 2では、ヘッドセットを装着している頭と、コントローラーを持つ両手の計3点をトラッキングするが、HaritoraXを追加で装着することでは腰や足の動きまでトラッキングできる。
地磁気センサー、加速度センサーを搭載したバンドを腰、太もも、ふくらはぎ(または足首)に装着するからだ。まさに「メタバース内にいるのに、布団で寝てしまうこともある」岩佐氏ならではの発想だろう。
「メタバース内でラジオ体操のために集まることがあるけれど、手や頭だけでなく、腰の動きや足の動きもトラッキングできるから、屈伸や、上体そらしなども“やってる感”がある。正座、お辞儀、ヤンキー座りなど、日本人ではおなじみの姿勢をメタバース内で再現できるので、『欲しい!』という人が増えたのだろう」と深谷氏はいう。
Windows PCが必要だが、SteamVRに対応したヘッドセットであれば利用可能。内蔵バッテリーで駆動し、4時間半の充電で約10時間動作する。
半導体不足などにより、製品出荷をした2021年7月からながらく売り切れ状態が続いているが、岩佐氏によれば「数万台単位で作れるだけの部品を発注した」とのこと。販売再開が待ち遠しい製品だ。
#HaritoraX を2022年のデファクトスタンダード・フルトラ機器とすることを目標に、数万台単位での販売ができるだけの機関部品を発注しました。潤沢な供給体制となるまでまだ数ヶ月かかるかと思いますが、ご期待ください。作りまっせーー!
— 株式会社Shiftall (@shiftall_jp) February 1, 2022
今回紹介した製品は以下のものだ(カッコ内は販売予定価格または販売価格。いずれも税込
- MeganeX (10万円未満)
- Pebble Feel (2万円前後)
- mutalk (2万円前後)
- HaritoraX (2万7900円)
最終回は、岩佐氏が考える、メタバースで生まれると予測されるビジネスや今後求められるガジェット、加熱するNFTとの関連についてお届けする。