ポルトガル発ハッカソン生まれ、シリコンバレーで急成長のTalkdesk創業ストーリーとは

「シリコンバレーは月みたいなもの。遠くで美しく輝いている。見上げるだけで自分で月面を歩く日が来るとみんな思わない。だけど、そう感じながら外国から文無し、ツテなしで来て、気付けばY Combinatorに入って成功するやつを、ここで何人も見てきたよ」

これは、半年ほど前にシリコンバレーのパロアルトにある「Startup Embassy」というハッカーハウスに滞在していたときにスペイン人のホスト、Carlos Noriegaがぼくに語った言葉だ。そのハッカーハウスというのはシリコンバレーに憧れてやってくる外国人のハッカーや起業家向けのシェアハウスで、常時10〜15人前後の起業家が数週間から数カ月と逗留してプロトタイプを作ったり、スタートアップのアイデアについて議論していたりするような場所なのだった。過去2年で200人ほどが滞在し、うち数人が起業家として成功しつつあるという。

最近だと中国やアジアが市場として台頭してきているし、スタートアップエコシステムということだとヨーロッパにもテックハブと呼ぶべき都市がいくつも生まれてきている。しかし、そうは言ってもテック系スタートアップの聖地としてシリコンバレーは図抜けた存在で、憧れるヒトも多いだろう。ルネサンス期のフィレンツェのように国際都市として多くのタレントを惹きつけている。ルネサンスという運動は100年とか200年かけてヨーロッパ各地に広がったが、フィレンツェこそが中心地だった。それと同じで、シリコンバレーの地位はソフトウェアによる産業の革新が続く当面は揺るがないだろうと思う。

そんなシリコンバレーに外国人として入っていって成功しつつあるストーリーを語ってくれるポルトガル人起業家、Tiago Paiva氏を来週に迫ったTechCrunch Tokyo 2015にお呼びしたのでご紹介したい。Tiagoはクラウドベースでコールセンターを構築できる「Talkdesk」の共同創業者でCEOだ。

すべてはハッカソンから始まった

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Talkdesk共同創業者でCEOのTiago Paiva氏

Tiagoはリスボン大学でコンピューターサイエンスの修士号を取得したエンジニア。冒頭に書いたように、世界を変えるようなプロダクトを作り、スタートアップエコシステムに入っていくことを夢見ていた外国人の1人だ。多くのビジネスや起業のアイデアを試したり議論したり、シリコンバレーから発信されるポッドキャストを聞き、最近のSaaS企業のIPO申請資料を壁に張って眺めるほどの憧れっぷりだったという。ただ当時のポルトガルには、まだスタートアップエコシステムは立ち上がってなかった。

そんなの時に見つけたのがTwilio主催のハッカソン。優勝賞品はMacBook Air。Tiagoはそのラップトップと、賞品としてのMacBook Airが象徴するものを手に入れたくなった。2011年のことだ。Tiagoは後の共同創業者となるクラスメイトと2人で飛行機に飛び乗り、TwilioConという48時間のハッカソンに参加。Talkdeskのプロトタイプを作り、そしてMacBook Airと成功へのチケットを手に入れた。

それから4年が経った今、Tiagoは2450万ドル(約30億円)もの資金調達をして急成長を続ける「Talkdesk」の共同創業者兼CEOを務めるにいたっている。Salesforce Ventures、500 Startups、DFJなど著名VCからの投資を受けて、54カ国2000以上の顧客と約120人の社員を抱えているそうだ。

Talkdeskは「クラウドベースのコールセンターがあればいいんじゃね?」というアイデアを、ハッカソンで実現したことから始まっている。これを書いているTechCrunch Japanの西村は、これまで何度もTwilio APIを使ったハッカソンを見てきたり主催もしてきたが、今までTalkdeskほど説得力のある実装アイデアは聞いたことがなかった。

かつて専用機材や特殊なソフトウェア開発の世界だったICTのうちの「C」の世界をクラウドを使ったITの世界に結びつけるのがTwilioだった。例えばコールセンターといえば「予約確認の方は#1を……、キャンセルの方は#2を……」というプッシュトーンによる音声ナビゲーションを提供する。この「IVR」と呼ばれるシステムは旧態依然とした高価で特殊なシステムの世界だ。Twilioは、これをクラウドとWeb開発者が慣れ親しんだプログラミング言語で実現できる、というのが売りだった。

Twilio APIを使えばIVRが手軽に作れるし、ほかのCRMやZendeskのようなカスタマーサポートサービスとのつなぎ込みもできる。しかし、そこにはまだ「開発」が残っていた。Talkdeskのコンセプトは、Twilio APIの上に1枚レイヤーをかぶせ、ユーザー企業が直接IVRや他サービス連携をブラウザ上でグラフィカルに定義、変更できるようにしてしまおうというものだ。Talkdedskのウリ文句は「5分でコールセンターを作ろう」だ。Talkdeskはコールセンター業務にかかわるシステム構築に、専用ハードウェアもコーディングも不要にしてしまった上に、SalesforceやZendesk、Shopifyを繋ぎこむウィジェットも用意している。アメリカの場合だとコールセンターで当然必要な電話番号も初期設定画面から購入できたりする。コールセンターへの問い合わせを、その内容と人材のスキルに応じて適切な人に「ルーティング」するような高度な処理など、Talkdeskはソフトウェアによる順当なイノベーションを起こしつつあって、レガシーな通信関連業界をディスラプトしている。典型的な企業向けSaaSのスタートアップ企業とも言える。

さて、そんなTiagoだが、TechCrunch Tokyoでは500 StartupsのベンチャーキャピタリストであるRyan Lawler氏とファイアサイドチャットという形で、創業ストーリーやシリコンバレーで外国人として起業することなどを語っていただく予定だ。Ryanは、去年TechCrunch Japan 2014に来たときにはTechCrunchのシニア・エディターだったのだけど、最近テック・ジャーナリストからVCに転向している。シリコンバレーで多くのスタートアップを見てきたメディアの視点と、投資家という視点の両方からインタビュワーとして話を聞いてもらう予定だ。

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投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。