チームメンバーに意図がうまく伝わらない、という経験をしたことはないだろうか。「伝えることを、もっと簡単に」というミッションの下、ビジュアルマニュアル作成ツール「Teachme Biz」と、小売業者向け販売PDCAマネジメントツール「Hansoku Cloud」を提供するスタディストは、三井不動産とグローバル・ブレインが運営する31VENTURES、シンガポール政府が所有する投資会社テマセク・ホールディングス傘下のプライベートエクイティファンドであるPavilion Capital、博報堂DYベンチャーズを新たな引受先として、総額18億5000万円の資金調達を実施した。
同社は12期目となり、従業員数は現在116名、顧客アカウント数は32万。Forbes JAPANの「Japan’s Cloud Top10」や、週刊東洋経済の「すごいベンチャー100」などにも採り上げられている。
Teachme Bizは、PowerpointやWordなどを使わずに、マルチデバイスで簡単に手順書が作成できるツールだ。画像を追加してテキストを付与、項目を並び替えて手順書が完成すれば、あとは共有するだけだ。
従来の属人的なOJTでは、教える側の意図がうまく伝わらない、教えられる側が同じことをもう一度聞きにくい、管理者が各自の習得度を把握しにくいといった課題があった。同社はこの問題を改善しようとサービス開発を行なっていたが、新型コロナウイルスの影響で遠隔研修のニーズが拡大し、導入社数が増加。特に小売業、飲食、宿泊、医療、金融といった、同じことを多拠点で多くの人に習得してもらう必要がある労働集約型事業での需要が高いという。
またスタディストは、Teachme Bizなどが動画や画像メインのサービスであることから、言語の壁がある海外での展開を目指して、アジア諸国に進出している日系企業へもアプローチを開始。2018年にはタイに現地法人を設立、現地の従業員教育をすばやく簡単に行えることが評価された。飲食事業を営む顧客の中には、新メニューを思いついたらすぐにTeachme Bizでそのレシピや調理手順を他店舗へ共有し、12時間で全店舗での新メニュー提供まで行えているところもあるという。
タイでも2020年にロックダウンがあったが、現地法人の2020年度売上は、前年度比70%で成長。スタディストはタイを中心にマレーシア、ベトナム、シンガポール、ミャンマー、香港のASEAN6カ国で事業を拡大し、その実績が今回の調達にもつながった。現在、Teachme Bizは日本語、英語、タイ語に対応しており、今後も東南アジアを中心とした展開を検討している。
「Hansoku Cloud」は、Teachme Bizの導入率が高い小売業者向けに、クロスセルで売れる商品を作ろうと考案したサービスだ。小売業のラストワンマイルと呼ばれる「店頭実現率(店頭在庫率)」を商品別にわかりやすく表示し、販売機会の損失を防ぐ。店頭在庫の確認や補充は、通常、店頭スタッフが対応するが、本部から受け取った文字だらけの店舗指示書は、理解するまで時間がかかることが多い。Hansoku CloudはTeachme Bizの機能が含まれており、本部からの店舗指示がビジュアルで確認できる他、各店舗の実行率が本部ですぐ確認できるため、直接指導をすべき先に対して早期に対応できる。ドラッグストアにおける胃腸薬店頭実現率を改善できるかPoCを実施したところ、1.5〜2倍の売上向上効果が出た。
今回の調達では、投資元のクライアントや投資先との提携を前提とした事業シナジー期待を主眼に置いた。Pavilion Capitalとの連携を活用して海外事業の拡大を図り、2025年2月期の全社売上において3億円を目指す。
同社は、労働生産性の向上により新しいものが次々登場する社会の創造を目指しており、必要な効率化手段を増強していく方針だ。代表取締役CEOの鈴木悟史氏はコンサルティングファーム出身で、過去の経験を活かしてPoCスキームのコンサルティング事業も育成検討をしており、今回の調達はコンサルタントの採用にも活かす考えだという。鈴木氏は今回グローバル調達に成功したことも踏まえ「これからはグローバルの時代。日本の起業家は語学の壁に怯まず、ぜひ果敢に海外に飛び出して欲しい」と語った。