モンストの躍進でネイティブアプリ元年に――プランナーによる2014年ゲーム総括

編集部注:この原稿は丸山貴史氏(ペンネーム)による寄稿である。丸山氏はソーシャルゲーム開発会社での勤務を経て、現在はフリーランスでゲームプランナーとして活躍している。また、ブログ「SociApp -Social Appの分析ブログ-」を運営。ツイッターアカウントは@sociapp。今回は同氏の視点で2014年のソーシャルゲーム、ネイティブアプリゲームの市場について振り返ってもらった。

2014年はまさしく「ネイティブアプリ元年」と言われる1年になったのではないかと思う。

2013年にはガンホーの「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」が大躍進し、「パズドラ狂騒曲」と言っても過言ではない状況であったが、ゲームプロデューサーとしてはどこか他人事に思えるところがあった。その理由としてはパズドラがあまりにも強大で異質な存在だったので、「規模、売上ともにこんなレベルのアプリはそう簡単には出てこない」と半ばあきらめ、同時に畏怖の念を抱いていたせいもあるだろう。そんなパズドラ人気からスタートした2014年だったが、1年を象徴するタイトルの1つとなったのは、かつて一世を風靡したSNS「mixi」を運営する会社から出たネイティブアプリだった。

「モンスト」効果でミクシィの時価総額は約20倍に

2013年9月に公開となったミクシィの「モンスターストライク(モンスト)」。リリース当初は、正直あまり注目している人はいなかったと思う。とは言っても僕の周りの業界関係者はひと通りプレイをしており、実際にお酒を飲みながらマルチプレイをしたのを覚えている。そのときはリアルで会ってのマルチプレイという点にこそ多少の目新しさを覚えたものの、「今までにもこういうゲームあったよね」という程度の感想しかなかった。

そんなモンストだが、リリースから約1年経った2014年12月現在ではダウンロード数が世界で2000万件を超え、リリース時点では約200億円前後だったミクシィの時価総額を約4500億円と20倍以上に押し上げた。2013年にあれほどの強さを誇ったパズドラと売上でも1位を争っている状況だ。これらの数字以外にも街中やTVCMなどでモンストを見る機会が増えたことを考えると、どれだけ2014年という年に「モンスト」の勢いがすごかったのか、ふだんゲーム業界をウォッチしていない人でもお分かりいただけるかと思う。1年前に「パズドラほどのアプリはそう簡単に出てこない」と思っていた僕らの予想をあっさりと裏切ってくれた。

SNSゲームからネイティブへのシフト

モンストの急成長の背景にはネイティブゲームマーケットの成熟したことがある。パズドラのほかにも、マーケットが成熟するずっと前からネイティブゲームに投資を続けてきたコロプラが「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」などで2013年に大成功を収め、大躍進している。そういった背景から「ネイティブマーケットがきちんとペイする(ビジネスになる)」との認識が広まった。そこから仕込み始めたタイトルが約1年近くの開発期間を経て2014年に続々とリリースされ、ネイティブマーケットがさらに賑わった格好だ。

マーケットへのゲーム投下に合わせてTVCMや広告などへ大量にお金が流れ込み、これがマーケット自体に多くの人を呼び寄せた。これは数字では見えにくいかもしれないが、個人的にはかなり大きなインパクトになっていると思う。「パズドラ(の広告)をきっかけにしてスマホでゲームをするようになった」という人は思っている以上に多いはずだ。さらに外的な要因も加えておくと、NTTドコモのiPhone販売や廉価で高性能なAndroid端末の普及がネイティブマーケットの活況に寄与した形だろう。

一方で、今までソーシャルゲームの主流だったSNS上でのブラウザゲーム(SNSゲーム)にとっては厳しい1年になった。具体的にはGREEやMobageといった、これまで日本のソーシャルゲーム業界を引っ張ってきたSNSゲームの凋落が著しかった1年とも言えよう。

個人的にはSNSゲームがネイティブアプリに押しやられていくということは遅かれ早かれ来るだろうと思っていたし、2012年の後半頃からは予想されていたことだった。しかし、2社の決算を見てもらえばわかると思うが2014年になってその傾向は顕著であり、彼ら自身も危機感を持った上で「消滅都市」(グリー)や「ファイナルファンタジー レコードキーパー」(DeNA)といった大型タイトルをネイティブマーケットへ投入し、この局面を乗り切っていく覚悟だ。かつては「オワコン」とまで囁かれていたミクシィがモンスト1本でここまで大復活を遂げたことを考えると、2015年はもしかしたら彼らの年になっているかもしれない。

開発費の高騰に拍車を掛けたTVCM

昨今のネイティブアプリ界隈では開発費の高騰についてはよく言われることではあるが、それはプレイする端末のスペックも上がってきているので致し方のないことだと思っている。自身の経験としてもファミコンからプレイステーションなどと端末のスペックが上がるごとにユーザー体験も上がってきたし、それに伴ってユーザーが求める表現や体験の質が上がっていくので、それらを満たすためにはお金が掛かってしまうのだ。2Dでゲームを作るより3Dでゲームを作るほうが遥かにお金が掛かるということは自明だろう。

そんな中で昨今の開発費高騰にある隠れた要因として「広告の重要さが増してきている」ということがあると思っている。

2013年はネイティブアプリでTVCMを打つタイトルは少なかったが、2014年は顕著に増えた。パズドラやモンストといったマスに訴求できる可能性が高いタイトルのみではなく、少し言い方は悪いが「スクールガールストライカーズ(スクスト)」や「ドラゴンポーカー」といった、ゲームモチーフやゲーム性からかなりユーザーを選びそうなタイトルまでが大量のTVCMを投下していたのが印象的である。

もちろん彼らもむやみやたらにTVCMを打っているのではない。安価で大量にユーザーを獲得できる最も効率の良い手段がTVCMであり、それらを選ばざるを得ないのだ。さらに踏み込んでおくとTVCMを実施した暁にはユーザーの流入が見込めるが、ユーザーが見つけやすいようにApple StoreやGoogle Playの目のつきやすい位置にいる必要がある。そのためにどうするかと言えばユーザーをリワードで獲得してきて順位を上げるブーストしかないのだ。アプリストアでユーザーが検索してくれると思ったら大間違い。ひょっとしたら検索した際に表示される他のゲームに流れてしまうかもしれない。

そんなこともあってか2014年はさらに一段必要となる開発費が上がってように思える。この傾向は来年以降も続くだろうし、特に来年以降は各社の勝負タイトルにおいてはリリースした直後からTVCMを行ってくるタイトルも増えてくると予想している。

2015年はIP元年と本格的な海外展開の年に

2014年にも大型IP(版権モノ)のリリースはあったが、2015年はそれ以上の大型IPラッシュになっているだろう。

その理由は簡単で、2013年にガンホーやコロプラの躍進を見て多くの会社がネイティブに舵を切って1年後の2014年マーケットが賑わったように、2014年の大型IPのリリースを見て多くのIPホルダーがこちらに舵を切っているからだ。すでに前述のファイナルファンタジーのほか、ドラゴンクエスト、ワンピースなどのIPを使ったゲームが登場している。また、すでにSNSゲームとしてリリースされているIPなどもネイティブ化したものがリリースされる予定もあると聞いている。

おおよそ参入を決めてから開発、リリースまでの工程を考えると1年後の2015年にはより多くのIPを使ったゲームが登場するはずだ。

この大型IPが参入してくる流れはSNSゲーム時代にもあったことなので、業界の人からすると当たり前のことのようにも感じるだろう。ただ僕としては、SNSゲームの時代より大きな流れが起きると思っている。なぜなら、ネイティブマーケットになったおかげでデベロッパーの狙える売上の規模が1桁大きくなっており、より魅力的になっているからだ。大型IPにとって数十億円の売上ではインパクトが少なかったが、数百億円の売上になれば話は変わってくる。さらにはネイティブアプリになったことで技術も変わり、できることが格段と広がったことも大きい。今までのSNSゲームではどうしても「ガチャ」という仕組みに頼りがちだったが、ネイティブアプリになってその状況も変わってきているようだ。

また、注目したいのは海外展開だ。MobageやGREEといったSNSゲーム時代から言われ続けているが、多くのデベロッパー、プラットフォーマーが未だにきちんと成し遂げられていないことの1つである。業界では毎年のように「今年こそは海外展開」と言われるので少し食傷気味になっている方も多いかもしれないが、現場の最前線で働く身としてはいよいよその土壌が整ったと思っている。前述の通り日本のネイティブマーケットはようやく成熟し、安定的な収益を生み出すことができるようになったと言える。一方で競争が激しくなり、勝つことの難易度が徐々に上がってきているのも紛れもない事実だ。

さらにそんな状況に追い打ちを掛けるかのように、日本のネイティブマーケットはすでに頭打ちの様相を呈しており、遅かれ早かれ次の成長を求めるには海外展開は避けて通れない道だと思っている。特に上場企業にとって成長は至上命題であり、その流れには逆らうことは出来ないのではないだろうか。

こうやって「内需が滞ったので外需に」と聞くと安直に思えてしまうかもしれないが、今のApp StoreやGoogle Playの仕組みではボタン1つで海外でも簡単にゲームを配信することができるというメリットがある。(もちろん言語などの問題はあるが) これがウェブサービスの最大のメリットであり、AppleやGoogleが築いてきた巨大プラットフォームの恩恵を最も享受出来る場所でもあると思っている。個人的にはそんな魔法のような道具を使わない手はないと思っている。また、僕自身も勉強中なのでここで明言は出来ないが世界最大の人口を誇る中国マーケットも急速に立ち上がってきており、次の大きな金脈になるのではないかとまことしやかに囁かれている。

2014年はモンストの大ヒットで話題は持ち切りだったが、2015年は一体どんな年になるのだろうか。僕としては「メディア展開」と「海外展開」がキーワードになると考えている。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。