ユーグレナ出雲氏が語った「合コンメソッド」の意味と、起業家に必要な「アンカー」

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ネット企業の経営者や起業家が集う国内イベント、インフィニティ・ベンチャーズ・サミット 2015 Spring Miyazaki」(IVS)が宮崎で2日間の予定で開催中だ。初日6月11日の対談セッションのトップバッターで、イベントパンフレットの表紙ともなったのは、バイオベンチャーのユーグレナの共同創業者で代表取締役社長の出雲充氏だ。テック系企業からの参加者が多いイベントの中でのバイオ関連ということで、少し異色の登壇だったが、起業家が持つべきマインドセットやモチベーション維持の方法など、TechCrunch Japanをご覧の多くの起業家やその予備軍に参考になる話と思うのでお伝えしたい。

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ユーグレナという企業については4月に発表した研究開発型ベンチャー支援のファンド設立のニュースでお伝えしているが、社名ともなっている微生物の「ミドリムシ」(学名:ユーグレナ)の大量培養に成功して業績を伸ばしているバイオ系ベンチャー企業だ。2012年に東証マザーズに上場し、2014年12月には東証一部に市場変更となっている。

ミドリムシというのは光合成を行う藻類。出雲氏の言葉でいえば「ワカメなんです」ということで、いわゆる「虫」ではない。動物と植物の両方の性質を兼ね備え、59種の必須アミノ酸を作り出すことができる稀有な生物だ。このミドリムシには食糧問題(栄養失調)や環境・エネルギー問題を解決するポテンシャルがある。バイオ燃料として、とうもろこしを使うようなものもあるが、これは世代的にはもう古くて、今後の新世代のバイオ燃料としての必須要件は、農作物と競合せず、地球上で最も重要な資源である農地を使わないことという。ミドリムシはそういう次世代バイオ燃料で、すでに一部は、いすゞ自動車と共同で都内でバスを走らせているそうだ。

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2年間、営業で500社に断られ続けて学んだこと

ユーグレナは研究開発型ベンチャーとしてスタートして、まだ屋外培養が可能かどうか分からない中、2005年に創業している。長年に渡る研究開発をもってしても誰も果たせなかったミドリムシの大量培養という科学上のブレークスルーを創業後に達成し、いよいよ営業だというときに、2年間で500社に断られるという経験を出雲氏はしている。

IVSの対談セッションでホスト役を務めたInfinity Venture Partnersの小林雅氏が立ち上げ初期の苦労と、モチベーション維持の方法を聞くと、出雲氏は500社を回った体験から学んだことを次のように話した。

「営業を始めて丸2年、2007年12月の段階で営業が取れた件数はゼロでした。100社に説明すれば、そのうち1社は買ってくれるだろうというのが計画だったので、5社くらいは買ってもらえると思っていたんですね。でもゼロだった」

500社に営業してダメだったときに取れる手段としては、501社目に営業に行くこと。ユーグレナの場合は、「501社目が拾ってくれた。その会社が伊藤忠商事だった。伊藤忠商事が売ると、これがめちゃくちゃ売れるんですよ。ユーグレナのほかに培養できる会社はありませんよ、と伊藤忠が言うと売れる。これまで話を聞いてくれなかった大企業が話を聞いてくれたんですね」(出雲氏)。

2015-06-11 13.09.11ここから出雲氏が引き出す教訓はいくつかある。

1つは、知人に「学生時代に合コンを企画したことがないからダメなんだ」と指摘されて気付いたこと。良い合コンをするには良い人に来てもらわないといけない。参加する女性は、イケてる男が来るかどうかを心配するもの。それは男性側も同じで、いい女性が来るかどうかを気にかける。だから、もうあの人もこの人も来ると言ってくれてますよ、ということを、まだ全員が迷っている段階で女性にも男性にも同時に言うことが大事だという話だ。

ユーグレナには、まだ採用実績がないんですよね、と言って断られるケースが圧倒的に多かったのに、いざ伊藤忠が担ぎ始めると売れた。それは伊藤忠ブランドもあったのだろうとはいえ、最初の1社の「イエス」さえあれば売れるだけの商品力があったということで、足りなかったのは合コンメソッドだったのかもしれないということだ。

出雲氏は続けて「ベンチャーの投資も同じでしょ?」と会場に語りかけた。つまり、投資家が投資するかどうか逡巡しているときに、もうすでに別のVCにリードインベスターとして投資する約束をしてもらってるのだと別の投資家に言う、ということだ。構図としては全く合コンと同じだ。

さすがに投資家サイドのIVPの小林氏は、合コンメソッドについて「ときどきやります」と苦笑いしつつも、免責事項として小さな字で「未確定事項であり将来変わる可能性がある」と書きますけどねと、すかさずフォロー。すると出雲氏は、そんな自明な但し書きが駆け出しのスタートアップに必要なのだろうか、と、ちょっと挑戦的な問いかけをした。そんなことことよりも、起業家が気にするべきことは勇気と覚悟ではないか、という。

出雲氏は18歳で見たバングラデシュの食糧危機(栄養失調)の問題を解決するという志をもって起業していて、そこがぶれたことはない。逆に、動機がよこしまで、自己満足や自己実現のためだけに他人を利用しようというやり方だと上手く行くわけがないとも釘を指す。

「お金持ちになりたいとか有名になりたいって気持ちは、絶対に回りから見れば分かります。絶対に分かるんです。すると、なんでオレがお前が金持ちになるのを手伝わなきゃいけないのって思わて、誰も応援してくれない」

何がしたいかという思いと、口で説明することが一致していることが何よりも大切で、そこに勇気と覚悟があれば土壇場で投資家の気持ちが変わることがあるのではないか、と出雲氏はいう。

500回の営業をメンタルで支えたのは1枚のTシャツ

自ら500社に営業して回った経験から分かったことは、実際に500社に回る人はほとんどいないということだという。

創業期を経て注目ベンチャーとなった出雲氏の元に、ある若い起業家が相談しに来たときにも同じことを感じたという。その起業家はどこのVCからも出資を断られた、と肩を落としていたという。どこもかしこも、というので具体的に名前で挙げてみろというと、断られたのは全部で11社。「バイネームで言ってもらったら11でした。でも、日本のVCって11社だけじゃないですよね?」。どうして12社目や13社目にも行かずに「どこもかしこも」と言えるのか、と。「皆さんビックリするぐらい営業に行かないですよね。1000回実験して1000回失敗する人もいない。1000回やるだけですよ。ホントにできますよというんですが、やる人はいない。そういうマインドセットを持っている人がいないというのは最大の学びでした」

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「こういう話をすると、皆さん意志の強さ、弱さって言います。でも、意志ってスカラーじゃなくて、ベクトルみたいに向きなんですよ。向きを自動的に思い出す仕組みがあれば、誰だってできることなんです。意志ってベクトルみたいなもの」

断られ続けていると、「人間なので、ミドリムシって芋虫じゃないんですかとか毛虫ですかって言って今日も断られるのかな、嫌だなって思う日もあります」。そういうとき、今日もう1社だけ行ってみようと意志のベクトルを立て直すのに「アンカー」が役立ったという。アンカーとは、なぜ起業して、何をやろうと思ったのかという初心を思い出せるシンボルのような存在で、出雲氏にとっては1枚のTシャツだという。

出雲氏にとって、グラミン銀行を作ってノーベル平和賞をとったムハマド・ユヌス氏はメンターの1人で、Tシャツはユヌス氏との約束を象徴している。ユヌス氏の業績は途上国の貧困層を対象にした低金利で無担保の融資だが、75歳になった今も貧困撲滅のために1年のうち250日は講演をして飛び回っているという。そのユヌス氏が「かつて栄養失調というものが地球上にはありました」ということを展示する「貧困博物館」をいつか作るのだ、そのときが貧困問題が本当に過去になるときなのだという話をしたとき、面会した出雲氏はその博物館のフロアの1つを、栄養失調を解決したミドリムシの展示にしたい、自分たちがやりたいと、その場で申し出たという。

その時に買ったTシャツを衣装棚に置いておくことで、朝起きても、夜寝るときにも、ユヌス氏との会話と初心を思い出すのだという。「あのとき調子よく貧困博物館をやるって言ったのに……。それで明日もう1日やってみようという気持ちになる」。起業家にとってアンカーは賞状でもハンカチでもなんでもいい、という。ただし、それをメンターと呼べる人から受け取ることが不可欠だという。それはメンターとの約束のように機能するのだ、と。

「意志のベクトル」は起業家個人のメンタルの話だが、対談セッションの質疑では、会社のベクトルについての話も出た。ある教育関連スタートアップを創業した起業家から出た質問は、ビジョンが変わっていなくても「プチピボット」と呼ぶ事業領域の取捨選択をしたときに社員がついて来れなくなることがある、ビジョンや会社の方向性をまとめるということをユーグレナではどうしているのか、という問いかけだった。

営利組織である以上、売上を立てる必要がある。スタートアップであれば、10%成長ではなく、求められるのは10倍、100倍の成長だ。ビジョンに沿った事業を行っていても10%成長の小さな黒字であると捨てる判断をすることもあるし、逆に違う成長カーブへの移行を目指して、全く違う事業領域にチャレンジするような試行錯誤も出てくる。このとき、「うちの会社はこんなことをやる会社なのか? これがわれわれがやるべきことなのか?」と疑問に思う幹部や社員が出てくるという問題だ。社長は外部に出てさまざまな人に会って刺激を受ける結果、社長と社員とで市場や競争環境についての認識に乖離が出る。

ユーグレナの出雲氏は「私も答えを探している」と前置きして、2つの選択肢があるとした。

1つは、会社のステージが変わったと考えてチームメンバーを効率的にシャッフルする方法。これはユーグレナではやっていないという。

もう1つは、経営幹部の間で適切なロールを設定して互いの判断を尊重する方法。ユーグレナだと共同創業者で研究者の鈴木健吾氏が、何らかの研究上の判断をしたときには、出雲氏は自分がどれほどいいアイデアだと思っても鈴木氏に従うという。「鈴木が、これは100年研究してもできるかどうか分からないと言ったら諦める。営業の福本が、これは売れないといったら諦める。どんなにアイデアに未練があっても、鈴木や福本といちど徹底的に議論をやりあったことであれば、それは蒸し返さない。そこを守っていれば方向性についてはうまく行くんじゃないかと思う」。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。