画像や映像を解析するAI技術を複数の領域で展開するニューラルポケット(旧ファッションポケット)は3月5日、未来創生ファンド、シニフィアン、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、Deep30、および複数の既存株主を引受先とする第三者割当増資により、6億円を調達したことを明らかにした。
もともと同社は2018年1月にファッションポケットとしてスタート。AIを活用したトレンド解析サービス「AI MD」の提供やファッションECモールの開発などを進めてきた。今後は総合AI企業としてファッション以外の領域でも事業を展開していく計画で、それに向けて本日付で社名をニューラルポケットへと変更している。
併せて調達先の1社であるシニフィアンとは業務提携も締結し、シニフィアンがニューラルポケットの顧問に就任したことも発表した。
今回の資金調達はニューラルポケットにとってシリーズBラウンドにあたるもの。同社では設立から2ヶ月後にシードラウンドで最初の資金調達を実施し、7ヶ月後となる2018年8月には東京大学エッジキャピタルや千葉功太郎氏らから2.6億円を調達。3度目となる今回の調達額を合わせると、創業1年2ヶ月で累計11億円を集めたことになるという。
AI MDを用いた企画商品が全国2000店舗以上に展開
現在ニューラルポケットでは独自開発したAIアルゴリズムによる画像・動画解析技術を軸に、ファッション、スマートシティ、デジタルサイネージの3領域で事業を開発している。
すでに複数の大手アパレル企業が導入するAI MDは、SNSを含む世界中のファッションメディアから500万枚以上のコーデの画像を解析し、カラーや着こなしといったトレンドを把握するサービス。
収集した画像に対してアイテム名や色、柄、丈、シルエットなど細かい情報をタグ付けし、AIに学習させる。これらを時系列に解析し「これからどんなアイテムが流行るのか」を予測するというわけだ。
「データ自体は他社でも集められるものだが、そこに『どういうタグをつけるのか』というノウハウと、実際にタグをつける際のオペレーションが強みだ。(特にファッション領域は変数が多いため)学習データが1万枚とかでは精度が出ないが、一方でいくら枚数を集めた所でゴミデータが入ってはだめ。自社では独自開発したソフトウェアとネットワークを用いて、効率的かつ大量のデータを収集できる仕組みを作った」(ニューラルポケット代表取締役CEOの重松路威氏)
導入企業ではAI MDを用いて基本的に6ヶ月先のファッショントレンドを予測し、商品作りに活かしているそう。以前重松氏は「業界ではヒット的中率が約50%などとも言われ、仮に100点出せば定価で売れるのは40〜50点ほど。残りは値引きで販売するか廃棄している」ような現状を課題にあげ、AI MDによって少しでもこの精度を上げていきたいと話していた。
今のところAIによる画像の検知精度は97%で、検知したファッション画像データを用いてトレンド予測を行うと「人間では50%だったものが、80%程度の的中率まで上がってきている」とのこと。もちろんAIだからといって100%正確に予測できるというわけにはいかないけれど、従来よりも予測精度を上げることで余剰在庫や廃棄問題を減らすことはできる。
重松氏の話では2019年シーズンにおいてAI MDを用いた企画商品が全国2000店舗以上に展開されているそう。直近では三陽商会と新たに業務提携を締結。2019年秋冬より婦人服の全ブランドでAI MDを活用した商品を展開する予定だ。
画像・映像解析技術をスマートシティやサイネージへ拡張
プロダクトの進捗ではファッション領域がもっとも進んでいるが、それに加えてスマートシティやデジタルサイネージ領域の事業も水面下で動き出しているそう。
スマートシティについては設置されたカメラの映像を解析することで、顧客の消費者属性やファッションセグメントを分析できるサービスをショッピングモールや鉄道事業者などに展開する方針。デジタルサイネージ領域では今までにない“コネクテッド”なプラットフォームを開発しているという。これらについてはその全貌が明らかになった際に改めて紹介したい。
それにしても、昨年8月に取材した際には「ファッション領域において独自の技術を活かしたプロダクトを複数展開していく」という話だったので、今回の社名変更や方針の変更には僕も驚いた。
背景にはグローバルでAIへの技術的な期待が高まっていく状況に加え、特に日本ではAIがなかなか実証実験の枠を出ていない状況を打破し、AIの社会実装を実現したいという思いがあるようだ。
「未だに自動運転を含む少数のアプリケーションを除き、事業に直結するようなAIが生まれていないと感じている。自分たちはディープラーニングのコアエンジニアリング企業として、ファッションだけでなく広告や街づくりなど、より大きなテーマでビジネスに直結したAIサービスを作ることが目標だ」(重松氏)
ベンチマークは中国企業、AIの社会実装目指す
この領域では国内よりも海外企業の方がかなり先を行っている印象だ。重松氏もベンチマークとして中国のsensetime(センスタイム/商湯科技)の名を挙げる。同社はディープラーニングを活用した画像認識技術が強みで、自撮りアプリ「SNOW」の顔認証技術を手がけていることでも知られるユニコーン企業だ。
センスタイムの特徴のひとつと言えば、大学で博士号を取得した技術者を筆頭に多くのエンジニアを抱えていること。ニューラルポケットでもスイスの研究所でデータ分析を学び、製造業等におけるAI開発などに携わったCTOの佐々木雄一氏を中心に開発チームを拡大。イギリスや中国出身のエンジニアなど、半数以上を海外出身のメンバーが占めるという。
開発陣だけでなく、ビジネスサイドのメンバーにも経験豊富な面々が集っているのはニューラルポケットのウリだ。CEOの重松氏やCSOの周涵氏を始め、シニフィアンの朝倉氏など社外取締役や顧問も加えるとマッキンゼー出身のメンバーが5人。そこにスタートアップのCFOや上場ベンチャーの社外役員、ベンチャーキャピタルでのパートナーなどを歴任した取締役CFOの染原友博氏らも名を連ねる。
「実社会で役に立ってこそのAI。ビジネスサイドの知見とエンジニアリングを融合することで、AIを社会課題の解決や事業インパクトの創出に繋げていきたい」(重松氏)