信頼性なき医療メディア「WELQ」に揺れるDeNA、MERYを除く全キュレーションメディアを非公開に

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ここ最近、その情報の不正確さや制作体制について各所で問題視されていたディー・エヌ・エー(DeNA)のヘルスケア情報キュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」。DeNAは11月29日夜に発表したプレスリリースで、同日午後9時をもってすべての記事を非公開とした。同時に、現在WELQで取り扱いのある全ての広告商品の販売を停止したと発表。ユーザーや広告主への謝罪を行っている。加えて、DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏を長とした管理委員会を設置。チェック体制の強化や信頼性の担保できる仕組みを整備していくとした。

さらに12月1日、今度は「DeNA Palette(ディー・エヌ・エー パレット)」の名称で展開するキュレーションメディアプラットフォームで運営する特化型のキュレーションメディアのうち、「MERY」(女性ファッション)を除く「CAFY」(飲食)「iemo」(インテリア)「Find Travel」(旅行)「JOOY」(男性向け情報)「cuta」(妊娠、育児)「PUUL」(アニメ、漫画)「UpIn」(お金)「GOIN」(自動車)の8つについて(WELQもこのDeNA Palette内のメディアの1つだ)、記事をいったん非公開にすると発表。また同時に、守安氏の役員報酬の減額(月額報酬の30%を6ヶ月間減額)を発表した。先行するWELQ同様に、広告販売も終了し、チェック体制などを強化して再掲載の体制を作るという。

「WELQ」のトップページ

「WELQ」のトップページ

TechCrunch Japanでは11月30日夜の時点でDeNA広報部からWELQについて「(薬機法上の問題だけでなく、他媒体の記事のリライトではないかとう)指摘も含めて、社内のチェック足りなかった。そこは変えなければいけない。そういった点も合わせて、どうやったらこのようなことが起きないか、指摘を受けないコンテンツ作りのためのフローの見直しをやる。そのためにリリースの最後にあるように管理委員会を立ち上げている」という回答を得ていたが、結果的にDeNA Paletteの中でも比較的独立性高く運営していたMERYを除き、全てのコンテンツを見直すことになった。

WELQの何が問題だったのか

DeNAがDeNA Paletteを発表したのは2015年4月のこと。WELQは一歩遅れて同年10月にスタートした。ニールセンの発表によると、2016年7月の利用者数は631万人。直近3カ月で2倍のユーザーを集めるまでに成長した。そんなWELQについて、この数カ月(特にここ数日)に渡ってオンラインメディアやブログが問題提起をしていた。その概要と当該の記事は次の通りだ。

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

(1)医学の知識に乏しい、もしくは誤った内容の記事が掲載されている。また薬機法に抵触する、もしくはその可能性が高い内容が含まれていること。

(2)DeNA Paletteはユーザーが自由に記事を投稿できるキュレーションプラットフォームであり、DeNAは記事の責任を負わないとしながら、実際にはDeNAがクラウドソーシングなどを用いて記事を発注していること。またその発注に際して、「コピペ(コピー&ペースト)」で他サイトのコンテンツをそのまま無断転載するのではなく、他サイトのコンテンツの語句を一部変えるような「リライト」や、責任追及回避のために「○○と言われています」といった伝聞形式の文章にするなど、ライターにマニュアルを用意して指示をしていたこと

(3)毎日大量の記事を投稿し(1日100本程度)、SEOの知識を駆使することで、(2)のような問題のあるコンテンツでGoogleの検索結果上位を取り、集客を行っていること(またはこういったコンテンツに対してGoogleが正しい評価をできていないこと)

医療情報に関わるメディアは「覚悟」を – 問われる検索結果の信頼性(医学部出身のライター、朽木誠一郎氏のYahoo! ニュース 個人)

DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言(BuzzFeed Japan)

DeNAがやってるウェルク(Welq)っていうのが企業としてやってはいけない一線を完全に越えてる件(第1回)(永江一石氏のブログ「More Access! More Fun!」)※第4回まで続く

決算が読めるようになるノート:Welq問題は(DeNAだけじゃなくて)Googleも批判されるべきだと思う(Searchman Co-Founder柴田尚樹氏のnote)

また、WELQの執筆や運営に関わったと見られる人物のブログや、SEO手法について解説するブログなどもいくつか確認できた。信ぴょう性の高い内容に見えるのだが、実際に当事者だったのかは確認できていないことは注意して欲しい。

元welqライターからの告発

WELQの面接で落とされ、その後WELQが炎上して、思うところ

命に関わるヘルスケア、医療の情報である以上、その信頼性が担保できていないだけでなく、媒体側が「コンテンツの内容に責任を負わない」と明示しているのは大問題だ。現役の医師からも、ライターの知識不足により、リライトによって本来とはまったく異なる意味になってしまっているコンテンツもあるという話も聞いた。そんな問題のあるコンテンツが検索結果としては上位に来るものだから、患者が自身の治療法を勘違いしてしまって認識しているといった、医療の現場でのトラブルも現実に起きたという。

コンテンツ制作の実態についてはリンクしたBuzzFeed Japanの記事が詳しいが、キュレーションプラットフォームとうたいながらも、その実態は信頼性の担保できないコンテンツによる、SEO超重視のメディア運営であったことが露呈したと言っていい。「SEO=悪」ではないが、Googleの裏をかくことで検索結果の上位を目指したのは事実。それこそ以前にGENKINGが「Googleで検索しない」と言っていた言葉を思い出してしまう。確かにキュレーションメディアの登場以降、商品名やブランド名でググると、キュレーションメディアが上位に来ることが多い。

TechCrunchでは、DeNAが住まい領域の「iemo」とファッション領域の「MERY」を買収した際や、旅行領域の「Find Travel」の買収、DeNA Paletteを立ち上げた際にニュースとして紹介してきた。スタートアップの動向を伝える僕たちとして言えば、いわゆるイグジット事例としては喜ぶべき話だと思っている。

ただし買収後の各キュレーションメディアも、初期のYouTubeのように…と言えばきれいごとかも知れないが、記事や写真の転載にまつわるトラブルなどを聞かないわけではない状況だった。しかし——YouTubeがGoogleに買収され、著作権管理の仕組みが整い始めたように——DeNAという上場企業の傘下に加わることで健全な運営がなされていくと思っていた。例えば2014年11月にハフィントンポスト・ジャパンがDeNA創業者で取締役会長の南場智子氏へのインタビューをしているのだが、その最後にも、キュレーションメディアのライツ健全化に向けての取り組みに言及している。だが実態として、そういった状況にはなっていなかったというわけだ。

薬機法無視、低品質コンテンツ大量生産は誰が指示したのか

WELQの騒動を受けて、MERYを除くDeNA Paletteのキュレーションメディアがいったんクローズすることになった。ここで関係者から聞いたMERYの状況をお伝えすると、自社内に出版社出身を含めたライター・編集者を採用し、写真も自社スタジオで撮影するなどして、オリジナルコンテンツに注力し始めているのだそうだ。もちろんいまだ品質に疑問を持つような内容もあるようだが、カスタマーサポートも独自で持っていると聞いた。少なくともDeNA Paletteの全てのメディアの運用がまったく同じ状況という訳ではないようだ。

ではこのWELQが薬機法を無視し、盗用と言っても過言ではないコンテンツをクラウドソーシングで大量に生産するように指示した人物は誰なのだろうか? WELQは「編集部」を名乗っているが、実態として編集長を置いていない。DeNA社員を含む関係者からは、事業を手がけるのはパレットの事業を統括するDeNA執行役員、キュレーション企画統括部長でiemo代表取締役CEOである村田マリ氏に加えて、同氏が管掌するキュレーション企画統括部のグロースハック部の部長であるY氏、メディア部部長であるH氏が実質的に指示を出していたという声が上がった。特にY氏は前職でのSEOの知識を買われてDeNAに入社しており、DeNA内製のキュレーションメディアのグロースハックを担当していたという。だが結果として薬機法への抵触などをいとわない手法を取っていたため、DeNA Palette関係者内では違和感を持つ声もあったという。

炎上バイラルメディアの元社員らも関与

関係者から話を聞いてさらに驚いたのが、このDeNA内製キュレーションメディアの立ち上げに関わっていた「ある会社」の元社員たちの存在だ。

読者の皆さんは「BUZZNEWS」という名前を覚えているだろうか。2014年にライターのヨッピー氏がコンテンツの盗用問題を指摘。謝罪と和解金の支払いを行ったのちに閉鎖したバイラルメディアだ(経緯はTHE PAGEのこの記事に詳しい)。

このBUZZNEWSの運営元であったシンガポール・WebTechAsia社の複数人の元社員がDeNAに入社し、DeNA Paletteのキュレーションメディア群の立ち上げに従事していたのだ。元社員らは2016年に入ってDeNAを退社しているということだが、公器であるべき東証1部上場企業・DeNAのメディア立ち上げは、盗用問題でサイト閉鎖に追い込まれた人物らに教えを受けた、「クラウドソーシングでの終わりなきコピペとSEOノウハウの融合」(関係者)からスタートするという残念なものだったのだ。

ただ一方で、これはDeNAに限定した問題でもないと僕は思っている。前述のヨッピー氏は「ウェブメディアの信頼に対する瀬戸際ではないか」と語っていたのだけれどもまさにそのとおりで、気軽にメディアを作れるようになった今だからこそ、その情報の正確さやモラルなどを考えていかないといけない段階に来ているのではないだろうか。

DeNAでは今後、守安氏直轄の管理委員会を通じてコンテンツの健全化を図った上でDeNA Paletteを再開する見込みだ。

“正しい”医療情報はまだまだネット上に少ない。だからこそそういった情報を発信してもらえるのであればそれは本当に価値のあるメディアになるだろう。だが、信頼性の低いコンテンツを安価かつ大量に生産してきた体制を変えるのは決して簡単な話ではない。11月4日に開催された2016年度 第2四半期決算説明会では、キュレーションプラットフォーム事業が9月時点で事業の単月黒字化、第3四半期の黒字化予定を発表していたが、今回の動きは業績への影響も小さくない話だ。今後は健全化に向けた同社の動向が問われることになる。

なおTechCrunchでは今回の発表に関して、DeNA代表取締役の守安功氏に独占個別取材を実施している。その内容は以下のリンクから確認して欲しい。

DeNA守安氏「認識が甘かった」——WELQに端を発したキュレーションメディアの大騒動

キュレーションプラットフォーム事業の業績について

キュレーションプラットフォーム事業の業績について

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。