再び上昇するSaaSの評価額に何が起きているのか?

SaaSの株価は再び上昇しているが、私はその理由を理解できたと思う。

もっと正確にいえば、他の人たちが何を考えているのかがわかったのだと思う。ツイートを読んだり、VCから電話で話を聞いたり、あるいは今朝270億ドル(約2兆9000億円)規模のクラウド企業のCEOとチャットしたりして、厳格な事実確認を行なうことで、すべての辻褄が合った。

まずは、ある程度の背景説明から始めよう。

米国時間5月21日の金曜日、すなわち米国経済がさらに240万人分の雇用を失い、新型コロナウイルス(COVID-19)の失職者数が4000万人に迫った日の翌日に、SaaSとクラウド企業の株価は再び過去最高値を付けた(Bessemerクラウドインデックスによる)。

この特定株の一群のインデックスは、一般の投資家がSaaS企業をどのように評価しているかを、私たちが理解するために知っておくべき、どんな時にも使える最高の指標だ。そして、これまで私が、読者がうんざりするほど記事にしてきたように、パブリックSaaSの評価額はプライベートSaaSの評価額に影響を与える。BessemerのMary D’Onofrio(マリー・ドノフリオ)氏が ここで説明したように、連動はややゆっくりだが、SaaSの株価が急上昇または急下降すると、SaaSスタートアップの評価額も変動する。

世界の現状を考えると、何度かの高値を経た後で達成された今週の高値は奇妙なものに思える。確かに株式市場は新型コロナウイルスが押し下げた3月の水準からはおおむね回復しているが、連続した高値更新は、他の公開企業たちがなんとか成し遂げてきたような(もちろん全部ではない)以前の水準に戻ることに比べれば容易なことではない。

これは、私やBessemerの予想を超えた高値更新なのだ。Meritech Capitalは今週の初めに「世界的なパンデミックの真っ只中で、公開SaaS企業の評価額はかつてないほどのピークに届いている」と述べている。しかしこうした評価額が、単に高い成長を見込まれている企業に対して予測されていると考えてはならない。同時にMeritechの報告は次のように書いている「一般的にこれらのビジネスの見通しは、2月以降それほど変化していない。ただし第1四半期の収益に関しては、ほとんどすべての場合経営陣は投資家に対して黄色の警告フラッグを振って、予測値を引き下げた」。

厳しいだろう?

RedpointのJamin Ball(ジャミン・ボール)氏がTwitterで指摘したように、成長が鈍化するという警告サインはいくつか見られている。

3月で終了した四半期では38社のうち35社が、予想収益を上回った(そして達成できななかった残りの3社のうちの1社はEventbrigetだ)。そして5月22日には2つのクラウドビジネスが4月の四半期終了を報告しているが、どちらも予測値を上回っていない。Splunkは次の四半期で5%の減収を予想している。新型コロナウイルス感染症の影響が出始めているのだ。

だがそんなことは関係ない!市場には関わりのないことだ。なにしろ、信じられない高値記録がやってきているのだ。

どうしてこれが起きているのかを話そう。

新型コロナ時代のSaaS評価額ハイブリッド理論

思うにこれは、私がこうした話題に触れた3つ目の記事だ(他の2つはこちらこちら)、そこでこれまで述べた基礎の上に、多少の追加を行っていくことにしよう。

これまでの議論を箇条書きで示す。

  • ・投資家たちは成長への投資を望んでおり、多くの企業が成長するのに大変な苦労を強いられる中で、デジタル関連はいまだにまずまずの業績を挙げている。そこで資本が他の株式からデジタル企業へと流れているのだが、その多くがSaaS企業なのだ。この傾向は以下によって加速されている。
  • ・ZIRP(ゼロ金利政策)、すなわち資金が溢れている時代。2度目の金利引き上げ(米国大統領によってすぐに批判され、自由落下経済によって打ちのめされた)の後、資金調達には再びコストがかからなくなり、金利はゴミのようなものになった。これにより投資家は、自分の資金を詰め込むことのできる何らかのリターンを生み出す場所を探し求めるようになった。ということで、資本はこれまでの安全な場所から離れて、代わりに何らかのリターンが期待できる場所へと流れているのだ。例えばSaaSのようなところへ。
  • ・上記の2つの(互いに関連した)ポイントは、CEOやCTOたちおよび読者がこれまで参加してきたすべてのウェビナーが今やデジタルトランスフォーメーションを恐ろしいスピードで進めているという事実によって、さらに裏打ちされることになるだろう。いや冗談ではなく、これは真実なのだ。単にBoxのCEOのLevie(レヴィ)氏が、フォロワーが減ってきたときに一発かますツイートのようなものだけではない。その加速によって、投資家はこの先何が起こるかについて非常に期待している。したがって、SaaSの株価は上昇するというわけだ。

5月22日朝、私はSplunkのCEOであるDoug Merritt(ダグ・メリット)氏と、30分間ほど雑談をした。それは実りの多いものだった。 彼の会社の収益レポートについて掘り下げた後(SaaSの変革の継続、収益予想への逆風、大量の現金、年間定額収益の増加、そして会社がすべての従業員に対して株式を手厚く渡していることなどがその内容だ)、私はSplunkの業績報告書の中で彼が言及したデジタルトランスフォーメーションは、実際に物事をクラウドにすばやく移行させているのか、すなわちSaaSの株価を押し上げているのかと尋ねた。

彼はそれを認めた。

ということでSaaSラリーの原動力となっているもの、評価額を冗談レベルまで引き上げているのは、貪欲な2つの要素(他の株式からSaaSへの資金転用と、ZIRPによる金利の制限による数少ないカゴへの誘導)と、常識(もしSaaS企業がデジタルトランスフォーメーションのトレンドに乗っているなら、その加速が長期的な成長見込みを押し上げる可能性がある)なのだ(なお私たちがSaaSならびにクラウド企業を評価する際には、利益ではなく売上を見ていることを思い出して欲しい)。

納得していただけただろうか?

ともあれ、これがインターネットに掲載される5月25日からの週に、私は1週間の休暇をとる。みなさん、どうぞお楽しみを。そしてSaaS株がどうなるか私に教えて欲しい。昼寝をすることになっているときに、私がもしすばやく株式市場の動きをチェックしようとしたら、パートナーから別れを切り出されることは確実だ。それでは。

画像クレジット:Annie Spratt (opens in a new window)Unsplash  under a license. (Image has been modified)

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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