出産やメンタルヘルスなどデリケートな問題のケアを女性が受けやすくするバングラディシュのMayaが約2.3億円調達

Mayaは、妊娠と出産やメンタルヘルスのような特にデリケートな問題に関するヘルスケアを女性が利用しやすくなるよう尽力している。現在、バングラデシュを拠点とし、シンガポールで法人化したこのスタートアップは、新たな国々へと事業を拡大している。現地時間2月9日、Mayaは220万ドル(約2億3220万円)のシード資金調達をしたことを発表した。これはバングラデシュのヘルステック企業がこれまでに調達した最高額だといわれている。このラウンドは、アーリーステージファンドのAnchorless Bangladeshとアジア市場へのインパクト投資に特化する未公開株式投資会社のThe Osiris Groupが主導した。

この資金はMayaの遠隔医療プラットフォームへの新製品の導入および国際的な事業拡大に使用される。最近、Mayaはスリランカに参入し、インド、パキスタン、中近東の国々でのテストを開始した。また、東南アジアへの参入も計画している。

Mayaはデジタルアシスタントに自然言語処理と機械学習テクノロジーを使用しており、基礎的な健康に関する質問に答え、ユーザーが専門家に相談する必要があるかどうかを決める。約1000万人のユニークユーザーがおり、現在、プラットフォーム上には300人以上の有資格のヘルスケア提供者がいる。

設立者であり最高経営責任者のIvy Huq Russell(アイビー・ハク・ラッセル)氏は、大学進学のために英国に渡る前は、チッタゴンおよびダッカで育った。Mayaは2011年にヘルスケア情報のブログとして始まった。当時、ラッセル氏は金融業界で働いていた。彼女はちょうど第一子を出産したばかりだったが、彼女の母親が乳がんと診断されることが重なった。ラッセル氏は、バングラデシュで病院にかかるには経済的障壁、医療提供者不足、クリニックまでの長い移動時間など、多くの課題があることに気づいた、とTechCrunchに語った。

Mayaは信頼の置ける健康情報の提供を目指して始められたが、サイト訪問者がさらなる支援を必要としていることがすぐに判明した。性的虐待、レイプ、家庭内暴力の被害者など、多くの人々がWhatsApp、メール、あるいはサイトのチャットボックスを通じてメッセージを送ってきた。バングラデシュの非政府組織であるBRACから助成金を受けた後、Mayaのチームはユーザーを医療情報や専門家とつなぐアプリの開発を始めた。

Mayaのホームスクリーン

「2つの事柄に特に注力しました」とラッセル氏は述べた。「1つは、ユーザーの言語で、コミュニティ内で信頼をいかに築くかということです。快適に使用できる言語でコミュニケーションを取ることが非常に重要だからです。同時に、ものすごい数の質問を受け取り始めてすぐに、コンピューターで対応する専門家が50人だけでは対応しきれないことに気付きました」。

ベンガル語と地域の方言をサポートするために、Mayaは2年以上もの間、自然言語処理のテクノロジー開発に注力した。データサイエンティストや言語学者の協力のもと、Google Launchpadのアクセラレータプログラムに参加し、トークナイゼーションや機械学習アルゴリズムのトレーニングに取り組んだ。現在、Mayaは約95%の精度でベンガル語での50の基礎的な質問への自動応答が可能となっている、とラッセル氏は述べた。これまでにプラットフォームが処理した400万件の質問のうち、約半分は人工知能技術により回答されている。またウルドゥー語、ヒンディー語、アラビア語をサポートするための自然言語処理技術にも取り組んでいる。

質問の多くは性または妊娠と出産に関してであり、プラットフォームではメンタルヘルスに関する質問も増加している。これらはユーザーが直接相談するのをためらいがちなトピックだ。

「バングラデシュで育つと、最低限の性教育があるだけです。学校での授業はありません。また、ここ1,2年で、多くのメンタルヘルスに関する質問が見られるようになりました。これはメンタルヘルスについて話すよう働きかけたことの成果だと思います」とラッセル氏は述べた。「従来の医療制度では率直に質問できなかったことについて、私たちに聞いてくるのはごく自然なことです」と付け加えた。

現在、Mayaの約30%を占める男性ユーザーからの質問も増えてきている。その多くは避妊や家族計画、あるいはパートナーの医学的な問題への支援方法に関するの質問だ。ユーザーのプライバシーを守るため、相談はエンド・ツー・エンドで暗号化され、専門家には個人情報ではなく、ランダムに生成されたIDのみが表示される。

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専門家の対応が必要かどうかを見極めるために、Mayaのアルゴリズムは質問の長さ、複雑さ、および口調に基づいた緊急性を考慮する。例えば「お願いです、どうか、どうか助けてください」と書かれていたら自動的に専門家へと案内される。メンタルヘルスに関する質問の大半も専門家へと送られる。

Mayaは身体の健康と精神の健康に対して、別々の問題として取り扱うのではなく、全体的アプローチを取っている、とラッセル氏は述べた。

「質問は身体の健康問題についてだけではありません。『ヒジャブを着て走りに行きたいのですが、とても気まずく感じます』といった質問もあります」とラッセル氏は述べた。「ごく普通の質問に聞こえますが、含みのある質問です。こうしたことは日常的にメンタルヘルスに影響を与えているからです」。

目標の1つは、このアプリを使いやすくして、さらに気軽に支援を求められるようにすることだ。「ユーザーが赤ちゃんを産んだ際には、本当に、オフィスにお菓子が送られてきました」とラッセル氏は述べた。「Mayaは心身両方の健康状態を合わせて対応しているため、人間味を感じてもらえているのだと思います」。

現在、同社はさまざまな収益化モデルに取り組んでいる。1つは、Mayaをサービスとしてのソフトウェアとして位置づけ、雇用主が従業員に福利厚生として提供する企業間取引販売だ。縫製業はバングラデシュ最大の輸出産業の1つであり、従業員の多くはMayaの典型的なユーザープロファイルと一致する若い女性たちだ。同社はマークス&スペンサー、プライマーク、バングラデシュ縫製業・輸出業者協会(BGMEA)と連携してきた。

もう1つの企業間取引は、保険会社と提携してMayaを特典として提供することだ。消費者直接取引の面では、最近、Mayaはアプリ内でのオンライン診察や処方箋の送付などのプレミアムサービスを開始した。新型コロナウイルスの世界的流行で需要は急激に増加し、現在では10秒ごとに約1回の診察を行っている。ラッセル氏は世界的流行の収束後も多くのユーザーが遠隔医療を継続して使用することを期待している。

「ユーザーは目の前に医師がいることの利点を実感しています」とラッセル氏は述べた。「慢性疾患がある人にとっては、毎週どこかに通院しなくても良いので、便利になります。経過観察をして履歴が残されるので、定期的な利用者にも有益です」。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:Mayaバングラデシュ資金調達メンタルヘルス

画像クレジット:Maya

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(文:Catherine Shu、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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