他のほとんどの分野とは異なり、EdTech(エドテック)はここ数か月間、急速に成長している。フラッシュカードを専門とするQuizlet(クイズレット)が既にユニコーン企業になっており、デジタルテキスト企業のTop Hat(トップハット)のユーザー数がこれまでにない伸びを見せ、学生の成功を支援するEdsights(エドサイツ)は一流の投資家から200万ドルにおよぶ資金を集めている。これらすべては業界内で興味が高まった結果である。投資家は自宅学習が流行すると確信しているため、つい最近、「フルスタックのインフラ」を提供し、親たちが自宅教育を開始しやすくするPrimer(プライマー)へ370万ドルを投資した。
しかし、保護者が仕事、家庭、理性のすべてに対し毎日、またはほとんどの日で向き合う一方で、エドテックは現在の学習環境の課題をすべて解決するわけではない、と言われている。
収入の大小に関係なく、どの保護者も自宅学習に困難を感じている。
Fuze(フューズ)でブランドおよび企業マーケティングのバイスプレジデントを務めるLisa Walker(リサ・ウォーカー)はこう語る。「精神状態の上がり下がりはまるでモグラ叩きのようだ。」ウォーカーはボストン在住だが、パンデミックのためバーモント州へ引っ越している。彼女は10歳と13歳の子供を2人抱えている。「一人が機嫌よくしている日に、もう一人は機嫌悪く、いつも家族の誰かをケアしなければいけない。」
社会経済的に困難を抱えている家族は頼れるものがなく、両親は生活を維持するために複数の仕事を掛け持ちしなければならないため、さらに深刻な状況にある。
保護者にとって大きな問題のひとつに、「自分のペース」で学習する量の増えるにつれ、ライブ授業が減っているため、バランスをとりにくい点が挙げられる。
ウォーカーは、10歳の子供が毎日教師やクラスメートと直接やりとりする時間が少ないことに不満を感じている。1時間のライブ授業が終了すれば、子供は残りの1日中、コンピューターの前で座っているだけになる。録画済みのビデオとオンラインのクイズをこなしたら、Google ドキュメントで宿題を済ませて終了となる。
非同期型の学習はインタラクティブ性に欠けるが、どんな社会経済的な背景の生徒も対象にできるため、一概に良し悪し判定できない、とウォーカーは述べる。教材がすべて録画済みであれば、コンピューターよりも子供の数が多い家庭の場合、午前8時の科学の授業に間に合わせる手間が省け、交代で授業を受けられる。
ウォーカーはこう述べる。「多くの子供たちがビデオ接触に疲労を感じるのはわかっているが、それでもライブ授業をもっと多くしてほしいと感じている。テクノロジーは問題を解決してくれるが、問題を増やす原因でもある」。
PWC(プライス・ウォーターハウス・クーパース)のシニア税務マネージャーとしてフルタイム勤務し、アトランタに住むシングルマザーのTraLiza King(トラリザ・キング)は、小さな子供を相手にする場合、ライブのビデオ授業が欠点となることを指摘する。
難題の一つは、4歳の娘のZoom(ズーム)通話を見守ることである。ズームは小さな子供が直感的に扱えるプラットフォームではないため、キングはその場で娘を助けなければならない。彼女は娘のゾーイがログオン・ログオフに手伝い、皮肉なことに、授業を中断なく進められるよう必要な場合にミュートする。
大学1年生になる彼女のもう一人の子供は4歳児の面倒を見れるはずだが、キングは長女に教育の責任を負わせたくないと考えている。つまり、キングは母親とフルタイムの従業員に加え、ズームの技術サポートと教師の役割も演じなければならないことになる。
彼女はこう述べる。「現在の状況は良い面と悪い面が両方あります。娘たちが何を学んでいるかを見て、生活を共有できるのは素晴らしいと思っているが、私は幼稚園の先生ではないのだ」。
保護者の中には、これまでと同じように対処すると決めて、そしてうまくやり過ごしている人々もいる。ロサンゼルスに拠点を置くRythm Labs(リズム・ラブズ)の創立者、Roger Roman(ラジャー・ローマン)と彼の妻は、シャットダウンを目の当たりにした直後、子供たちのスケジュールを大急ぎで組み立てた。午前6時に朝食、その直後に体育、続いてワークブックと宿題の時間が並ぶ。彼らの5歳の子供がすべてをこなせば、電子機器で遊ぶ時間を30分間だけ「勝ち取る」。
テクノロジーは間違いなく役に立つ。ローマンは、Khan Academy Kids(カーン・アカデミー・キッズ)やLeapfrog(リープフロッグ)など数種類のアプリを活用して、仕事の電話やミーティングの時間を確保している。しかし、こうした対策は解決策というよりは一時しのぎのようなものだ、と彼は言う。彼によると、本当に役に立ったのは、あまりハイテクとは言えないものだった。
「プリンターで本当に救われました」と彼は言う。
子供たちが自宅にいることで、ローマン一家はアメリカを覆う人種差別に起因する暴力や警察による強権の行使について話し合う機会が得られている。歴史に関する既存の教材は、黒人のリーダーや奴隷制度をあまり正確に、詳細に扱っていなかったため、現在審査が入っている。両親が家にいる現在、こうした現実との乖離はますます明白になっている。各家庭に応じて、奴隷制度に関する教育が欠如していることは、アメリカでの差別制度に関する難しい話し合いを始めさせたり、学校が再開された際の議題として置かれたりしている。
ローマンによると、彼は人種差別や不正に気付かされなかったことは人生で一度もなく、彼の子供たちも同様のはずだと考えている。
「Ahmaud(アマド)、Breonna(ブレオナ)、George(ジョージ)の殺害事件を通じて、私と妻はアメリカに横たわる白人優位主義と人種差別の長い暗黒の歴史を真剣に捉えなければならなかった。子供とそうした会話をこれほど早く行うことになるとは思ってなかったが、彼は目にする映像についてたくさんの疑問を抱えており、私たちはそうした質問を正面から受け止めている」。
ローマンは本を通じて息子たちへ人種差別を説明している。エドテックプラットフォームのほどんどは人種差別撤廃をどう扱うかについて沈黙を保ってきたが、クイズレットでは「真のインパクトを与えるためにプログラミングを結集している」と語る。
遠隔学習の将来
現行のオンライン学習ツールは若い学習者に刺激を与えられないため、保護者や教育者は苦慮している。それに対応するため、新たなエドテックのスタートアップは遠隔学習の将来を描き出そうとしている。
Zigazoo(ジガズー)の共同創立者、Zak Ringelstein(ザック・リングルスタイン)は、彼が「子供向けのTikTok(ティックトック)」と呼ぶプラットフォームを立ち上げている。このアプリは幼稚園から中学校までの子供を対象にしており、ユーザーはプロジェクトごとのプロンプトに応じて短い動画を投稿できる。課題は、ナトリウム化合物を用いた火山を噴火させたり、日用品を使用して太陽系を構築するなど、科学実験のようなもので、また保護者はアプリを管理できるようになっている。
最初のユーザーは、リングルスタインの子供たちである。子供たちは画面を眺めるだけでは学習に集中しなかったため、双方向のやりとりが鍵を握るとの結論に至ったと彼は語る。将来的に、キャラクターが「ブランドアンバサダー」として振る舞い、短いビデオコンテンツに登場できるよう、ジガズーはエンターテイメント企業との提携を予定している。例えば、光合成について子供たちが学べるように、「セサミストリート」のキャラクターがティックトックのトレンドに現れるのを想像してみてください。
「子供向けのティックトック」を目標としたジガズーのプレビューとビデオベースのプロンプトを通じ、彼は「教育者として、エンターテイメント性を持つだけでなく、学習効果も高いコンテンツがあまりにも保護者へ提供されていないことに驚きました」と言う。
Lingumi(リングミ)は、例えば英語学習などの重要なスキルを幼児が学習できるプラットフォームである。同社が設立された理由は、幼稚園のクラスで生徒が多すぎで、子供が「スポンジのように知識を吸収する時期」に教師が十分な1対1の時間を提供できなかったことにある。リングミは別のスタートアップ企業であるSoapBox(ソープボックス)と同社の音声技術を使用して、子供たちの声を聴き取って理解し、彼らが言葉を発音する様子を評価して、流ちょう度を判定している。
ソープボックスのCEO、Patricia Scanlon(パトリシア・スカンロン)博士はこう述べる。「エドテック製品は教室で機能するよう設計されており、どこかで教師が介在しなければならない。現在、教師は子供たちと個別に交流できないため、この技術を使用すれば子供の進捗度を把握できる」。
もう一つのアプリ、Marcus Blackwell(マルクス・ブラックウェル)が作成したMake Music Count(メイク・ミュージック・カウント)は、生徒がデジタルのキーボードを使用して数式を解けるようにしている。200を超える学校で5万人の生徒が使用しており、最近ではCartoon Network(カートゥーン ネットワーク)とMotown Records(モータウン)と提携し、両社のコンテンツをレッスンとしてフォロワーが利用できるようにしている。アプリへログインすれば数学の問題が提示され、解決すればどのキーを弾くかが示される。セット内の数式をすべて解けば、弾いたキーが並んで、Ariana Grande(アリアナ・グランデ)やRihanna(リアーナ)などのアーティストの人気曲が流れる。
このアプリはゲーミフィケーションと呼ばれる有名な戦略を使用して、若年層のユーザーを引き付けている。学習のゲーミフィケーションは、特に若年層に対し、生徒の興味を持続させ、学習を体系化させるための効果が長い間実証されてきた。歌や最終製品などで達成感が得られれば、ポジティブなフィードバックを求めている子供たちが満足する。この戦略は、クイズレットやDuolingo(デュオリンゴ)など、今日最も成功した教育企業の一部が基本原則として採用している。
しかしメイク・ミュージック・カウントの場合、ゲーミフィケーションで通常用いられるポイントやバッジ、その他のアプリ内の報酬を採用せず、仮想的なアイテムよりもずっと楽しいものーー子供たちが楽しみ、自分で探すことも多い音楽を提供している。
テクノロジーと同様に、ゲーミフィケーションは学校で得られる個人的で実践的な体験をすべて賄えるわけではない。しかし、それこそが保護者が現在求めているものなのである。私たちは、遠隔学習しか選択肢がない場合だからこそ、テクノロジーがこんなに役に立てることと、教育は単なる知識の理解やテストにとどまらない豊かさを常に提供してきた事実を痛感した。
エドテックに欠けている要素:学校は学ぶだけの場所ではなく、子供をケアする場所である
結局、仕事が将来的にリモート化するのであれば、保護者たちが子供のケアをするためにより多くのサポートを必要としている。それを目指すスタートアップの1社にCleo(クレオ)が挙げられる。同社は子育てをサポートするスタートアップであり、最近、オンデマンドの保育サービスを提供するUrbanSitter(アーバンシッター)と提携した。
CleoのCEO、Sarahjane Sacchetti(サラジェーン・サッケッティ)は5月にTechCrunchに対してこう答えている。「保護者が危機に直面している今、仕事を持つ母親はソリューションを熱望している。当社は単に会員や企業の顧客が利用できるだけでなく、私たち自身でも使用しようと思うソリューションの開発を目指した。仮想ケアからスケジュール調整や新たな保育士探しまで、私たち自身ですべてを試して実験した結果、家庭の手助けになる唯一のソリューションには、新型コロナウイルスがもたらした独自の問題を解決するために構築された新たな保育モデルが必要であると判明した。」
保育のマーケットプレイスであるWinnie(ウィニー)の共同創立者、Sara Mauskopf(サラ・マウスコプフ)は、遠隔学習の支援を試みるテック企業は、「解決するのは教育面の問題だけではない」ことを念頭に置かなければならない、と言う。
彼女はこう述べている。「学校は保育の一形態だ。一番私の気に障るのは、『これまで以上に多くの人が自宅学習に切り替える』というツイートが氾濫しているのを見ることだ。だからといって誰も、私の赤ん坊へマカロニチーズを食べさせたり、おむつを替えてくれないじゃない」。
関連記事:好調の外国語eラーニングサービス「Duolingo」が10億円超を調達した理由
Category:EdTech
[原文へ]
(翻訳:Dragonfly)