6年前、英国情報機関の職員がロンドンの新聞社ガーディアンに押し込み、米国安全保障局(NSA)の内部告発者エドワード・スノーデンが持ち出した高度な機密情報を保存していると彼らが目星を付けたコンピューターを破壊するよう、同紙のスタッフに命じた。
ガーディアンは、漏洩した極秘文書を返すよう米当局から圧力をかけられていた英国政府と「数週間にわたる緊迫した交渉」を重ねた末、編集部員たちが、ガーディアン社の地下でグラインダーやドリルを使ってコンピューターを破壊し、二度とデータが読み出せないようにした。米国と英国は、機密情報を共有し合う密接なパートナー関係にある。米国内を含め、NSAの文書のコピーが複数存在していた事実があるにも関わらず、同紙は拒否すれば懲罰的な法的措置を受けるか起訴される状況に追い込まれた。
「ガーディアンにとって、スタッフを守れる唯一の方法は、自社のコンピューターを破壊することでした」とガーディアンの記者Luke Harding氏は話す。
この数年間、なぜ報道の自由が重要なのかを語るときにこの事件を引き合いに出してきたが、米国人の反応は決まって「まさか、そんなことがあったのか?」というものだ。
ガーディアンのような事態は米国では起こりえない。国の安全保障問題を追う記者が、機密情報を持っていたり、政府関係者から機密情報が提供されるのは珍しいことではない。それは、権力や法の乱用を暴くためのものだからだ。米国の憲法で唯一名指しされている職業である米国の報道記者は、たとえ何が起ころうとも、責任を追及する力を保持する希望の星なのだ。
しかし、一番新しいジュリアン・アサンジの告訴は、そうした報道の自由を脅かすものとなっている。
ジュリアン・アサンジは、嘘つきで、誤報を振りまく人間として知れ渡り、多くの人たちからはとんでもない野郎だと嫌われているが、最新の告訴が公表されてからは、彼の最大の批判者から擁護されるようになった。
アサンジは、スパイ活動法のもとで機密扱いとなっていた情報を公表した容疑で起訴された、初めての人間となった。スパイ活動法は、世界大恐慌の10年も前に成立した法律で、外国のスパイや政府内の内部告発者の起訴を目的としている。
「これはまさに、国の安全保障を監視する記者とそのニュース媒体が政府関係者やその関連企業に頻繁に求めてきたことだ」と、ハーバード・ロー・スクールの教授であり元政府弁護人、Jack Goldsmith氏はLawfareに書いている。
実際、私も同じことをした。2017年、NSAから5年間にわたり5回の情報漏洩があった際に、私は政府のRagtimeプログラムとRed Disk情報プラットフォームに関連する機密情報を入手して公表した。記者が、記者としての仕事をしたことで捜査を受けたという話はちらほら聞いてはいたが、100年前にスパイ活動法が成立してから今まで、機密情報を持っていたり公表したことで記者が起訴されたという話は一度も聞いたことがない。
秘密の拷問施設や、匿名の情報源や内部告発者から提供された政府による世界規模の監視活動のような機密情報を公表した報道機関や記者が、自分たちも同様に起訴されるのではないかという不安から、起訴状に慌てふためいたことは驚きに値しない。
ワシントンポスト紙の編集者Marty Baron市は、声明の中でこう話している。「古くはペンタゴン・ペーパーズの事件からさらに遡って、ジャーナリストは、政府が機密と考える情報を受け取り公表してきた。不正行為や権力の乱用が暴露してきた。ジュリアン・アサンジの新たな起訴で、政府は法的根拠を笠に着て、この重要な仕事を危険にさらし、米国憲法修正第1条(言論の自由)の本来の目的を蔑もうとしている」
アサンジは、元陸軍情報分析官Chelsea Manning(チェルシー・マニング)から提供されたロイターのカメラクルーを含む民間人の殺害に関する外交公電や軍の動画といった高度な機密情報をウィキリークスを通して公表した。マニングは、スパイ活動法により起訴され、後に減刑されるまで投獄されていた。アサンジに対する政府の最新の告訴の内容は、「情報提供者の氏名を編集しなかった」ために「米国の安全保証に深刻な危機をもたらした」というものだ。
アサンジを口うるさく批判する人たちは、米政府は「彼が行った最後の善行」で彼を起訴したと言っている。彼が公開した記事で、アサンジは自らの名前と評判に泥を塗った。とりわけひどかったのは、盗み出した恥ずかしい電子メールを公表し、ロシアと手を組んでヒラリー・クリントン氏の大統領選挙戦を台無しにしたことだ。
だがこれは、機密情報の公開という容疑にはまったく関係がない。
米国司法省は、アサンジは「ジャーナリストではない」と言っている。しかし、言論の自由と報道の自由を保障した米国憲法修正第1条は、その人がジャーナリストか否かの区別はしていない。
「憲法修正第1条は、ジャーナリストに特権を与えるものではない」と、国家安全保障弁護人Elizabeth Goitein氏は言う。「言論または報道の自由の剥奪を禁じることで、言論する人、書く人、報道する人、出版する人を公平に保護している」と、彼女はワシントンポスト紙のコラムに書いている。
言い換えれば、アサンジがジャーナリストかどうかは関係ないのだ。
米国の法律の下では、その人が記者であろうとなかろうと、同じ自由が守られてる。ジャーナリストもそうでない人も関係なく、機密情報を受け取り公表すれば、いかなる米国人も起訴しようと走る米政府を、もう誰も止められない。
「これは、ジュリアン・アサンジの問題ではありません」と、著名な政治家であり、いくつもの上院情報委員会のメンバーでもあるロン・ワイデン上院議員は言う。「これは、機密情報を受け取った人とそれを公表した人を起訴するための、スパイ活動法の使い方の問題です」
「アサンジの訴訟は、憲法修正第1条が守ってくれない活動に対して危険な前例、つまり、最も慎重で高い手腕を持つプロのジャーナリストでも、国家安全保障に関連する機密事項の取材を躊躇させてしまう前例になりかねない」と、テキサス大学スクール・オブ・ローのSteve Vladeck教授はコラムに書いている。
ワシントンポスト紙が5月24日に伝えたところによると、オバマ政権も、数年前にアサンジを起訴に持ち込もうと考えていたが、起訴すれば、実績ある報道機関の記者たちも、まったく同じように起訴しなければならなくなることを心配していたという。
しかし、トランプ政権がアサンジを起訴した今、かつてトランプ大統領によって「人民の敵」との烙印を押されたジャーナリストたちは、すぐにでも国家の敵にされてしまう恐れがある。
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(翻訳:金井哲夫)