国連IPCCの報告書を受け、我々には増加する災害に対応する技術が必要だ

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今週、気候変動の自然科学に関する第6次評価報告書の主要部分を発表した。その内容は、より良いデータ、より包括的なデータが入手できるようになり、より正確になったとはいえ、厳しいものだ。TechCrunchでMike Butcher(マイク・ブッチャー)氏が先に要約したように、この報告書は「容赦なく、率直な結論」を提示した。

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報告書の主題の多くは、(ますます暑くなる)岩の下に住んでいない人(編集部注:「岩の下に住む」は「世の中の動きに疎い」の意味)にはおなじみのものだが、文書を熟読していた筆者の目に、ある部分が飛び込んできた。IPCCの作業部会は、地球に起きている負の変化の多くが、緩和策や適応策を講じたとしても将来のあらゆるシナリオにおいて衰えることなく続くと評価した。以下、要約報告書から引用する。

過去および将来の温室効果ガスの排出による多くの変化は、数世紀から数千年にわたって不可逆的であり、特に海洋、氷床、地球の海面レベルの変化が顕著である。【略】山岳氷河や極地の氷河は、数十年から数百年にわたって溶け続けることが確実視されている(信頼度は非常に高い)。永久凍土の融解にともなう永久凍土の炭素の損失は、100年単位の時間スケールで不可逆的である(信頼度は高い)。

要するに、より暖かく、より混沌とした世界へと向かう勢いがすでにあり、こうした傾向の多くを食い止める手段は限られているのだ。

農業や食料生産における収穫量の向上や排出量の削減、電力網の改善、ビルの空調からの排出量の削減など、あらゆるプロジェクトに注目し、クライメイトテックをテーマにした取り組みや投資、スタートアップが急増している。だが、これらの取り組みは、今世紀の私たちが直面している最も困難な課題の1つを解決するものではない。災害はすでに発生しており、また到来しつつあり、今世紀が進むとさらに激しさを増すということだ。

カリフォルニア州ではこの1週間、州史上2番目に大きな火災「Dixie Fire(ディキシー・ファイア)」が発生し、州北部が数十万エーカーの範囲で炎上している。一方、ギリシャでは何百もの山火事が発生し、未曾有の危機にある。干ばつ、洪水、ハリケーン、台風などの自然災害が深刻化し、全大陸の何十億もの人々が被害を受けている。

この問題を解決する方法の1つは復元力の向上だ。自然災害に備えて都市や構造物だけでなく、食料や水のシステムを構築する。しかし、こうしたプロジェクトの多くは、コストも時間もかかり、月単位ではなく、数十年単位で考えなければならない。

それよりも、より優れた災害対応技術の開発を今すぐにでも進める必要がある。筆者はここ数カ月、そうした企業を幅広く取材してきた。RapidSOS(ラピッドSOS)は、緊急通報にデータを加えることで、迅速かつ効率的な対応を実現している。また、550万ドル(約6億500万円)を調達したQwake(クウェイク)は、消防士が煙の中で周辺を可視化するためのハードウェアとクラウドサービスを開発している。一方、YCが支援するGridware(グリッドウェア)は、電力網の障害を迅速に検知するセンサー開発に向け500万ドル(約5億5000万円)以上を調達した

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このように、災害対策技術を提供するスタートアップ企業は増えているが、今後数年間に発生するさまざまな災害に対処するためには、さらに多くの企業が必要となる。

被災者や初期対応者のためのメンタルヘルスリソースの充実、生活再建のための復興資金への容易なアクセス、災害の早期発見のための高品質なセンサーやデータ分析、人々を危険な場所から避難させるための迅速な物流など、やるべきことはたくさんある。実際には、文字通り何十もの分野で、より多くの投資や創業者の注目を必要としている。

販売サイクルの分析でも指摘したように、この市場は容易ではない。予算は厳しく、災害は不定期で、技術は後回しにされがちだ。次世代のサービスをいかに開発し、どう売っていくかは、ハイリターンの可能性を秘めたリスクでもある。

今週、IPCCの報告書で明らかになったように、ここ数十年で目にしてきた混沌とした天候や激しい災害がすぐに和らぐことはないだろう。だが工夫次第で、すでに発生している災害にうまく対応し、命と財産を守ることができる。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:気候変動地球温暖化自然災害国連

画像クレジット:Konstantinos Tsakalidis/Bloomberg / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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