国際的な技術標準での優位性を狙う中国の次の計画

SpaceXは、リモートワークでのZoomの使用を禁止している。Google、Apple、NASA、ニューヨーク市の学校も同様だ。今週の初めに、FBIはZoomのテレビ会議やライブ教室が、「荒らし」にハッキングされることについての警告を行った。セキュリティの専門家は、Zoomに存在する技術的欠陥がユーザーデータを悪用されやすくするしていることを警告している。  ZoomのCEOであるEric Yuan(エリック・ユアン)氏は今週、プライバシーとセキュリティについて「混乱」していることを公に認めた

しかし、Zoomのセキュリティ上の欠陥に気を奪われている私たちは、より大きな問題を見逃している。プラットフォームを管理しているのは誰なのか?誰がそこで得をするのか?Zoomは、ロスアルトスに本拠を置くベンチャーキャピタル企業であるTSVCからシード資金を受け取っているが、そのTSVCは中国の国有企業である清華ホールディングス(中国清華大学の子会社)の資金を使って投資を行っている。中国人起業家によって創業され運営されているZoomの中心的アプリは、中国を拠点とする子会社たちによって開発されている。中国内のZoomサーバーもAES-128暗号化鍵を生成しているようだが、これらには、Citizen Labsのレポートが報告しているように、北米の参加者間の会議に使用されたものも含まれている。北京政府のプライバシー法により、中国で製造された鍵は中国当局と共有することが義務付けられている可能性 がある。

Zoomは、まさに北京政府が重視する種類のツールだ。中国共産党(CCP)は、グローバルなネットワークとプラットフォームを開発および獲得するために、何十年にもわたって、グローバルな標準を自ら定義するという、壮大な戦略を追求している。標準を握ることで、国際的な資源、交換、および情報に対する永続的な支配力が手に入る。強制力を伴うグローバルな地政学的オペレーティングシステムである。北京政府は、世界貿易機関 (WTO)がNational Standardization Strategy(国家標準化戦略)を発足させた2001年に同機関に加盟し、そのときから自身の野心を公式に表明し続けている。 

そして現在、CCPはその意図を行動に移しているところだ。北京政府は、国際規格を作成するための産業計画であるChina Standards 2035(中国標準2035)を立ち上げようとしているところだ。China Standards 2035は、Made in China 2025(中国製造2025)後継計画だ。このあと続く10年間のさらに大胆な計画は、グローバルな商品の製造場所を管理することではなく、それらを生産、交換、消費を定義する標準を策定することを狙っている。 

北京政府は、China Standards 2035に向けての2年間に及ぶ計画作業を、3月の初めに完了した。最終的な戦略文書は今年公表される予定だ。China Standards 2035の詳細はまだ発表されていないが、その意図、そして重点分野はすでに明らかだ。中国の国家標準化委員会は、今後1年間の作業を示す予備報告である「2020年の国家標準化作業の要点」を発表した。

私たちの会社であるHorizon Advisoryは、その レポートと過去2年にわたる計画関連情報を翻訳および分析した。私たちはその中に、COVID-19が中国の権威主義的情報体制を強化させることによって生み出す「機会をつかむ 」ための指示が含まれていることに気付いた。例えば産業用IoTを支配することによって、世界の産業を取り込むこと。次世代の情報技術およびバイオ技術基盤を定義すること。社会的信用システムを輸出すること ―― そして北京政府のインセンティブ形成プラットフォームのこれでもかというほどの強化などだ。私たちはそこに、商業、資本、協業を武器にしていこうとする明白でグローバルな野心を見た。 

北京政府が認識しているように、世界は変革の瀬戸際に位置している。「産業、技術、イノベーションが急速に発展しています」と、中国国家標準化管理委員会の第二工業標準部の責任者であるDai Hong(ダイ・ホン)氏は2018年に説明した。「グローバルな技術標準はまだ形成の途中です。このことは、中国の産業と標準に、世界を追い越す機会を与えてくれます」。 

ダイ氏はChina Standards 2035の計画フェーズがスタートした段階でそのように発言していた。同氏によれば、この計画は「集積回路、バーチャルリアリティ、スマートヘルスとリタイアメント、5Gの主要コンポーネント、IoT、情報技術機器の相互接続、そして太陽光発電」に焦点を当てるということだった。全体を通してみれば、重点は中国標準の「国際化」に置かれていた。

そして計画開始から2年が経って、China Standards 2035の初期の検討結果は、こうしたバズワードたちの具体的な意味を明らかにしている。China Standards 2035は、ハイエンド機器製造、無人車両、付加製造技術(additive manufacturing)、新素材、産業用インターネット、サイバーセキュリティ、新エネルギー、エコロジー産業などの、新興産業向けの標準策定に焦点を当てている。これらは、Made in China 2025にもあった、戦略的新興産業活動の重点分野とも一致している。まずターゲットを絞った実領域での足場を確保した北京政府には、独自ルールを定義する準備が整っている。 

たとえばDJIは商用ドローンシステムをほぼ独占している。国家標準化局は現在「『民間無人航空機システムの分類(Classification of Civil Unmanned Aircraft Systems)』の国際標準を策定することで、国内のドローン産業が技術的な優位性を占めるのを助けること」を目指している 

そして第二に、China Standards 2035は、社会信用システム、国が管理する(LOGINKとして知られる)国家輸送物流プラットフォーム 、医療および消費者向け商品などの各産業を接続する、北京政府の実質的基盤の強化を加速するだろう。

そして計画の三番目の側面は国際化である。「2020年の国家標準化作業の要点」の中では、「国際標準化機構(ISO)および国際電気標準会議(IEC)の中で、中国国家委員会の組織的かつ調整的な役割を十分に発揮する」という意図が示されている。なお、国家標準化委員会のレポートによれば、「十分に発揮する」という言葉は「戦略、ポリシー、ルール」を形作ることを意味すると説明されている。北京政府は、中国とネパールの標準化協力協定、ASEAN の標準化協力、そしてドイツ英国カナダなどとの新しい取り組みなどの、二国間および地域の標準化ベースのパートナーシップを通じた国際化を強化しようとしている。 

中国の標準策定計画は、明確で意図的な戦略の進行に基いている。北京政府は過去20年間にわたって、多国間組織ならびに対象となる産業分野に、影響力のある足場を確立してきた。そして現在、そうした足場を利用して、未来の世界のインフラストラクチャを定義する、自分たちのルールを設定しているのだ。中国の戦略計画によれば、これはグローバル化時代における「パワー」が意味するものに他ならない。「大国間の戦略的ゲームは、もはや市場規模の競争や技術的優位性だけに限定されるものではない。システムデザインとルール策定に対する競争がさらに重要度を増しているのだ」。

しかし、中国の戦略的ポジショニングに気付いている者が多くいるようには思えない。例えばChina Standards 2035とGoogle検索してみても、結果はそれほど多くはない。これは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な災厄が起きる前までは飛び抜けて深刻な問題だったのだ。そして、その賭金はさらに釣り上がっている。グローバルなシャットダウンは、CCPが「その戦略的攻勢を加速するチャンス」と呼ぶものを生み出した。  私たちのロックダウンは、仮想接続への依存を誘発し、北京政府に前例のない角度からのアプローチを可能にしている。 

COVID-19の災厄に取り組む一方で、私たちは北京政府によるその災厄の悪用にも注意を払う必要がある。私たちは、標準の役割と、CCPがそれを武器化しようとする動きに注意する必要があるのだ。私たちは、安全で、規範に基づいた代替品で競争し、北京政府の影響からそれらを守る必要がある。そうでなければ、Zoomの荒らし以上にはるかに深刻な、セキュリティ、プライバシー、所有、自由に関する懸念に向き合うことになるだろう。

【編集部注】著者のEmily de LaBruyère(エミリー・ド・ラブルイエール)氏は、Horizon Advisoryの共同創業者であり、中国のグローバル競争への取り組みの、軍事的、経済的、技術的影響を文書化することの分析と報告に重点を置いた戦略コンサルタントである。もうひとりの著者であるNathan Picarsic(ネーサン・パカージック)氏もHorizon Advisoryの共同創業者であり、同様にグローバル競争に対する中国のアプローチの、軍事的、経済的、技術的影響を分析・報告することに重点を置いた戦略コンサルタントである。

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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