宇宙とトンネルと超音速旅客機と幻覚剤の将来性

11月13日にサンフランシスコで開催されたStrictlyVC(ストリクトリーVC)のイベントにおいて、私たちは、Future Ventures(フューチャー・ベンチャーズ)を設立した投資家であるMaryanna Saenko(マリアンナ・サエンコ)氏とSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベットソン)氏とともに登壇した。両名がそろって公の場に登場するのは、2億ドル(約217億円)の資金調達を公表して以来だ。まず手始めに、ジャーベットソン氏が古巣のDFJを去った話題の1件について聞いてみた。彼は「人生は、自分の仕事の転位を強要することがある。それによって私は、長い経歴の中で初めて投資家になった」と答えてくれた。

次に、2人がどのようにして出会い、他の企業よりも制約が少ない状況で、どこでショッピングをしているのかを聞いた。この話は、どちらもジャーベットソン氏が取締役会に加わっているSpaceXから、規模は小さいもののTeslaまで広範に及んだ。また私たちは、Future Venturesと利害関係のあるThe Boring Company(ボーリング・カンパニー)について、企業間(および国家間)のAI競争の深刻な危険性、さらに幻覚剤のアヤワスカ(またはそれに準ずるもの)に投資価値があるかについて語り合った。これらの中には、「見たこともない」とジャーベットソン氏が言う「最大の金儲けの機会」が潜んでいるという。

ここに、詳しい話の内容を紹介しよう。長さの都合で一部編集を加えさせていただいた。

TechCrunch(TC):お二人は投資期間が15年という新しいファンドを設立されましたが、二人の興味が大きく重なっていますね。マリアンナ、あなたはカーネギーメロン大学で学位を取得したロボット工学の専門家で、DFJに入る前はAirbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)に在籍して、後にKhosla Ventures(コースラ・ベンチャーズ)に移りましたね。お二人の得意分野は何ですか?

スティーブ・ジャーベットソン(SJ):「彼女はあらゆるものに長けている」というのが答えですが、私たちがペアを組むことで、より有能になれると思っています。小さなチームの利点は、一人でやるより大きな力を発揮できることです。最初からそれがわかっていたので、ひとりではやりたくないと思っていました。この20年以上の間、一緒に仕事をしてきた人たちは、私に大きな力を与えてくれました。DFJで私が実施した中で最高の投資は、その当時一緒に働いていたジュニア・パートナーに帰するところが大きいのです。一人だったら、あのような素晴らしい仕事はできなかったと思います。

貴重な意見を出してくれる尊敬できる人との弁証法的な対話であったり、意見交換話であったり、討論であったり、「あなたはこれ、私はこれ」と役割分担をするのではなく、「やりとり」が大切なのです。なので私たちは、定期会議だけでなく、常にパートナー会議を開いています。

たしかに、マリアンナはロボット工学と並んで、あらゆる航空宇宙関連分野での豊富な経歴の持ち主です。ちなみに、私が最初に彼女に面接したとき(そもそもジャーベットソン氏が彼女をDFJに雇い入れている)、彼女がすでに、量子コンピューターから人工衛星のためのフェイザーアンテナから(聞き取れなかったが宇宙関連のもの)といった特殊な分野に投資していることに仰天しました。

TC:もちろん、聞いたこともないようなものに投資するのですよね。

マリアンナ・サエンコ(MS):それはかならず意味を持ってきます。

TC:航空宇宙と言えば、お二人ともすでにSpaceXに投資されていますね。DFJもこの会社を支援していました。SpaceXは果たして公開企業になりますか?

SJ:最新の公式Twiterでは、火星への飛行が定期的に行われるようになったら株式公開すると言っていたと思います。

TC:それはいつ?

SJ:そう遠くないかも知れません。おそらく、私たちが行っている15年の投資サイクルの間でしょう。このビジネスは、今と比べてもっとずっと劇的になっているはずです。それは地平線の先の、大勢の興味を引く巨大な嵐のようなものですが、短期的にも、数十億ドル規模の収益が見込めます。利益を生むビジネスなのです。実は彼らは、私が生涯見たこともないような最大の儲けを生むビジネスを立ち上げようとしています。それは、ブローバンド衛星データ・ビジネスです(SpaceXが推進中の衛星インターネット通信を実現させる衛星コンステレーション「スターリンク計画」)。

なので、火星に着陸するまでの間にも、いいことがたくさん起きるのです。それは、あらゆる投資銀行を遠ざける手段でもあります。彼らは「いつ公開する?いつ公開する?」としつこく聞くばかりですから。

TC:SpaceXは17年目になりますが、投資家としてこれまでに利益は得られましたか?

SJ:もちろん。私たちの前の会社では、セカンダリーセールによって10億ドル(約1080億円)を超える利益に与っています。

TC:コンステレーション衛星が非常に明るいために、天文観測に支障が出るという科学者たちの心配をどう考えますか?SpaceXは色を塗ろうとしましたね。またSpaceXだけでなく、例えばAmazon(アマゾン)もコンステレーション衛星を打ち上げようとしています。しかし、あなたたちの会社はミッションドリブンですよね。これらの衛星が空を汚してしまうことは、心配しなくてもよいのでしょうか?

MS:テクノロジーに投資する際に、まず考慮すべきことの中に、今わかっている副作用と今の私たちの頭では想像ができない副作用には何があるかという問題があります。それらを全体像として考えなければなりません。

何よりも重要なのは、おっしゃるとおりSpaceXだけではないことです。今では多くの企業が、地球の低軌道や中軌道に、さらには増加傾向にある静止軌道にも、コンステレーション衛星を打ち上げようとしています。私たちはよくよく考え、科学コミュニティーとともに、こう言わなければなりません。「必要としているものは何なのか?」と。なぜなら、通信量は増加を続けていて、もし米国が打ち上げなければ、ヨーロッパやアジアの国々がやるという現実があります。なので科学コミュニティーは、「テクノロジーを宇宙に持ち込むな」と機械化反対運動的な言論に対して目を覚ます必要があると考えます。彼らは「私たちが共に前進を続ける上で、選択できる指標がこれだけあります」と提言すべきなのです。

私たち自身で、そのスペックを設定できるのが理想です。それを経ることで、明るく光り輝く道を発見し、先へ進むことができるのだと私は基本的に信じています。正直言って、楽しい未来は、低軌道を超えて月面基地の建設が始まるころにいろいろ見えてくるのだろうと私は考えています。そのとき、今日の数多くの問題が解決されるでしょう。

TC:前回のStrictlyVCのイベントでは、私たちは超音速ジェット旅客機の企業Boom(ブーム)を招いて話を聞きました。その分野で競合している企業もいくつかありますね。

MS:ええ、両手に余るほどあります。電動旅客機の企業だけでも、私は、おそらく200社から300社ある中の55社に会いました。その中で、超音速機を扱う企業は少数ですが、それでも数十社あります。

TC:そんなに?超音速旅客機の需要は再び高まっているのですか?

MS:復活組のエンジニアで科学者である私は、80年代に挑戦して断念したときよりも、今の方が理にかなったビジネスモデルに即しているかどうかを見ています。もし、「今回は頭のいいソフトウェアの申し子たちが航空宇宙関連デバイスを作るから、心配はいらない。飛行機の作り方ぐらいすぐにわかる」と言う人がいれば、そう思うようにはいかない理由を、私はいくらでも話せます。

電動飛行機の場合、バッテリーのエネルギー密度と、フライトの使命プロファイルとの比率が採算レベルになるのがいつかといった、答を出さなければならない疑問がたくさんあります。長距離の場合、私たちはSpaceXが2点間カプセルでやろうとしていることに注目できます。そこまでの段階に超音速旅客機がありますが、この領域に近いと思われるビジネスモデルに合致するエンジニアリング上の進路が、まったく見えてきません。なので、銀行がどう出るかは不明です。

SJ:それに、米連邦航空局の規制のサイクルは非常に長いのです。しかし、そうした理由の他に、このセクターに55社からおそらく200社の企業があると知った瞬間から、私たちの方針は大変に単純になりました。小型衛星の打ち上げや電動垂直離着陸航空機も同じですが、それはとても広大な領域です。このスペースに3つ以上の企業があるときは、何が起きているのかを理解できるようになるまでは、どの企業とも会いません。130位の小さな衛星打ち上げ企業に、誰が投資をするでしょうか。私たちなら、その時点で過去にない独創的な企業を探します。

TC:そう言えば、私が知る限り、地下方式の交通システム用トンネルを掘っている新興企業は、The Boring Companyひとつしかありません。そこにもフューチャー・ベンチャーズは投資してますね。それは役員の椅子とセットだったのですか?

SJ:いいえ、私たちは最初のラウンドの投資に加わっています。

TC:それって現実の企業なのですか?トンネルを1マイル掘るのに10億ドルかけていると何かで読みましたが。

SJ:どこを掘るかによります。それは最悪のケースでしょうが、それくらいの費用になることはあり得ます。The Boring Companyはラスベガスの短距離交通機関の工事を受注しましたが、競争入札では、たった1マイルで4億ドルなんてことにもなっていました。「ウソでしょ」って感じ。

SpaceXの航空宇宙全般にわたるパターン、テスラのモーターの問題、そして可能性として現在の建築、フィンテック、農業のことを思うと、長い間大きなイノベーションがなかった業界がいくつもあります。米国でトンネルを掘っている上位4社は、みな1800年代から続く企業です。The Boring Companyが違うのは、連続して掘れるようにディーゼルから電気に切り替え、ソフトウェアとシミュレーションの考え方ですべてを再構築したことで、スピードと経費削減において劇的な変化をもたらした点です。少なくとも2桁は安くなっています。

TC:スティーブ、以前あなたは、投資家人生全体を通じて行った投資のほとんどすべては、競合他社がないことが唯一のチェックポイントだったと話していました。しかし、未来にフォーカスすることを投資テーマとする企業が増えた今、他とは違う企業を探すのが難しくなっていませんか?

SJ:少し難しくなっています。複数のチェック対象があるときはいつも、新規市場の兆候を示すサインとして、それを利用しています。それがひとつのカテゴリーになっているとき、それに関するカンファレンスがあるとき、他のベンチャー企業がそのことを話しているときは、とっくに別の場所に移っているべきだったことを示す十分なサインです。

MS:また単純な事実として、業務用ソフトウェア、消費者向けインターネットなど、その業界がわずかなセクターにフォーカスしているときは、ひとつかふたつのエッジケースの投資を行っている素晴らしいファンドが存在していることがよくあります。それは良いことです。そうしたファンドは私たちも大好きで、一緒に仕事をしたいと思います。しかし、その軌跡が直線的で、基本的な主張が狭小なところでは、ファンドの数はとても少ないのです。

TC:ハイテク企業のCEOたち、ヘッジファンド、ベンチャー投資会社から2億ドルの資金を調達しましたが、他の企業と同じような制約はありますか?

MS:何に関しても特別に細かい制約があるとは思っていませんが、私たちの信念、言葉、品位については、私たち自身が制約を課しています。今回の資金調達に際して私たちが定めた制約のひとつに「人の弱みにつけ込まない」というものがあります。なので、中毒性の物質、ソーシャルメディアのインフルエンサーは扱いません。冷血なハンターにはなれないという理由だけではないのです。それは私たちの意図するところではありませんし、この世界に築きたいものでもないからです。

TC:AIにも興味をお持ちですね。それは何を意味していますか?創薬への投資をお考えで?

SJ:どこから聞いたんですか? ご明察です。

TC:何百という企業がAIを使って薬品の候補を見つけ出そうとしていますが、私が期待しているほど早くは進歩していないし、十分なレベルにも到達していないように思えます。

SJ:現在、それに関連する契約を進めているところです。面白いことに、私たちは10件の投資契約を交わしました。その他に3件が進行中で、2件が条件概要書にサインをした段階にあります。4件は、エッジインテリジェンスの分野です。

MS:私はよく、大変に重要な仕事をさせるために、このロボットをどうしたらこの世界に作り出せるかという観点から考えるのに対して、スティーブは、チップやパワーや処理に注目して、アルゴリズムをどのようにシリコンに埋め込むかという視点から考えます。その中間で、スタックを上下しながら、私たちはとても面白いテーマに辿り着くのです。そうして私たちは、エッジインテリジェンスチップの企業、Mythic(ミシック)の投資を決めたのですが、同時に、こうしたAIを世界に送り出すために、基本的にそれをエッジデバイスに焼き付けるというアイデアは最悪だと感じました。うまく機能しないからです。

問題の本質は、どこか知らない場所のクラウドの中で訓練されたAIをエッジデバイスに詰め込んで、後は知りませんというやり方にあります。しかし、次第に私たちは、リアルタイムで使用することで、それらのAIは継続的に改善されると考えるようになりました。そして、母艦のデータセンターにデータを送り返す方法に気を配るようになりました。私たちは継続的な改善と学習の加速化が可能になることを期待しています。そのスタックの上から下までの数多くの企業が、私たちのポートフォリオに入っています。私はそれに、ものすごく胸を踊らせています。

TC:大局と比較すると、それらすべてが心地よいほど平凡に聞こえます。そこでは企業の小さなグループが、AIを訓練するための豊富なデータを蓄積し、日ごとにパワーを増していく。スティーブが前に話してくれましたが、いつか企業の数が非常に少なくなって、収入の不均衡が増長されると心配していましたね。それが気候変動よりも深刻な社会問題になると。Facebook、Amazon、Googleなどの企業は解体すべきだと思いますか?

SJ:いえ、解体すべきだとは思いません。しかしそれは、企業内に、また企業間に「べき乗則」が作用するテクノロジー業界の避けられない流れです。資本主義と民主主義を保とうとすれば、自己矯正が効かず、事態は悪化の一途を辿ります。最後にこれを話した2015年当時と比較して、状況はずっと悪くなっています。データの一極集中も、その使い方も。

中国のセンスタイムを考えてみてください。現在のところ、地球上のどのアルゴリズムよりも正確に顔認証ができます。そこに、米国のべき乗則と、国家間のべき乗則が働きます。それは、AIと量子コンピューティングがエスカレートする中で生まれた新たなる価値の下落に他なりません。

そのため、テクノロジー業界のすべての人間と、そこへ投資する人間は、それが何を意味するのか、そして私たちが望む未来の起業家の道について、よくよく考える必要があります。ここからそこへ通じる道は、明確ではありません。市場は、ある程度は影響力を持つものの、そのすべてを操れるわけではありません。とても心配なことです。気候変動よりも深刻だと私が言ったのは、今後20年間に人類が存続できるか否かに、それが大きく影響するからです。気候変動は、今から200年後ぐらいには私たちの存続に影響してくるでしょうが、これは今後20年間という喫緊の問題なのです。

TC:巨大企業の分割は解決策にならないということですね。

それは、人間の知性を超えたAIを制御するという考えに近いものがあります。そんなものを、どう制御できると思いますか? 内部で何が行われているのかを想像できますか? つまり、自然独占は業界を支えるあらゆるものが作り上げたものなのに、その自然独占を規制で解体するという考えは、モグラ叩きと同じことなのです。

TC:答えはなんでしょう?身の回りにあるものでは、何に投資して人々に衝撃を与えようとしているのですか?幻覚剤のアヤワスカですか?その市場はありますか?すでにいたるところに存在しますが。

SJ:(驚いて見せて)2つの企業があります。ひとつには今朝、投資金を送金しました。もうひとつは条件概要書にサインしたところです。それらは、あなたの質問に関連しています。

MS:オフィスが盗聴されてないか、調べないとね(笑)。

SJ:たくさんのことが進められています。精神疾患の理療。代替療法など。

MS:最も大規模な世界的流行は、うつ病です。この10年間の米国での思春期の自殺者の増加率は300%です。私たちには、情報も、技能も、テクノロジーも、有資格療法士もいませんが、よく植物の蔓などから採れる医薬品化合物に、うつ病の治療抵抗性に驚くほどの価値を示しながら、中毒性も乱用の危険性もない物質があることを、私たちは知っています。その恩恵が受けられるれらのは、もっぱら社会の中の特別なグループの人たちだけであるため、いかにして心の健康のためにその利用を民主化するかです。

TC:待って、私の推測が当たってたなんて。あなたたちは、アヤワスカのスタートアップに投資するつもりですか?

SJ:惜しいけど、ちょっと違います(笑)。

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(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。