少量のデータでも異常をほぼ100%検出、検査・検品AIのアダコテックが4億円を調達

産業技術総合研究所の特許技術を用いた検査・検品AIソリューションを展開するアダコテックは7月1日、東京大学エッジキャピタル(UTEC)とDNX Venturesを引受先とした第三者割当増資により総額4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

アダコテックでは産総研が開発した技術(高次局所自己相関特徴抽出法:HLACを用いた適応学習型認識方式)を軸に、従来よりも効率よく異常検知ができる仕組みをソフトウェアとして提供している。

現在の顧客は自動車部品など製造業が中心。強みは検査の質とスピード感だ。

これまでも外観検査などを効率化するAIソリューション自体は複数存在したが、正常パターンと異常パターンを合わせて膨大な教師データを準備する必要があり、これが業界によっては1つの課題になっていた(既存のディープラーニング系AI製品の場合1000〜1万枚程度必要)。

アダコテックのプロダクトを使う場合、必要なのは正常品のデータのみ。状況次第では10〜100枚程度学習するだけで異常(学習した正常のデータから逸脱したもの)を網羅的に検出することができ、データが大量に集まるまで待たずしてすぐにフィジビリティスタディを始められる。

異常として学習したものを検出するのではなく「正常を逸脱したものを検出する」モデルのため、前例のないようなものも含めて異常をほぼ100%検出可能。常時並列演算を必要としないことから計算処理の負担が小さく、ノートパソコンのような汎用PCでもミリ秒オーダーの処理を実現・運用できるのもウリだ。

そのような特徴から自動車部品をはじめとした製造業における検査・検品や、トンネルなどインフラ非破壊検査を中心に、特に全数検査の要求が高い領域や単価が高い製造品現場からの反応が良いとのこと。不良品の見逃しがないだけでなく「不良と判断した理由を明示しながら」「タイトなタクトタイム(工程作業時間)内で」検品をクリアできる点が評価にも繋がっているという。

現時点では「動画」「静止画」「複数センサ」「音・振動センサ」の各インプットデータに合わせた4つの異常検知システムを用意していて、これらを用途や対象に合わせて適切に組み合わせて提供する。すでに10以上のクライアントでPoCを実施済みで、順次パイロット検証や実運用のフェーズに移行している状況だ。

少量のデータでも精度の高い検査・検品を実現

アダコテックは2012年3月の創業。学生時代から産総研に関わってきたエンジニアメンバーと、現在同社で代表取締役を務めるビジネス経験豊富な池田満広氏がチームを組みプロダクトを磨いてきた。

「純日本生まれの技術を、ものづくりを中心とした日本の産業や社会のために役立てたい。産総研で特許技術を発明した先生方にも技術顧問になってもらい、学生時代から関わっているメンバーが生業としてやっている」(池田氏)

正社員は池田氏とエンジニア2名の合計3名。これまではフィンテック グローバルの子会社として運営してきたが、今回は事業のさらなる加速を見据えて初めての外部調達を実施した(アダコテックはフィンテック グローバルの連結の範囲から除外され持分法適用関連会社になる)。

同社のプロダクトの活用が進む製造業の現場は、これまで目視検査やルールベースの検査システムが一般的だった領域だ。工業製品の場合は製造途中の各工程や完成時にパッケージやラベル、梱包外装など細かなポイントごとに外観検査・非破壊検査が行われている。

特に自動車の部品のように異常が人の安全に直結する可能性のある分野では、1つ1つのチェックを目視で行うとなると現場への負担が大きい。ルールベースのシステムも最初に大量のデータを集める必要があることに加え、モデルチェンジや環境の変化などで検査対象の仕様が変わるたびに最初から設定をし直さなければならなかった。

「少量の正常品のサンプルで始められ、確実に見逃しがないことを定量的に、エビデンスを添えてアウトプットできるのは重要。『どのような理由で異常とみなしたのか』が明確にわかれば、導入先の担当者だけでなく経営層としても納得しやすい」(池田氏)

アダコテックでは異常をほぼ100%検出できる(不良品を正常品として判定しまう割合がほぼ0%)ことを謳っているが、「検出できた or できないは線引きの問題で、見落としが100%ないというのは(自分たちでなくても)言える」そう。その際に重要なのが、正常品に含まれるものを不良品として検出してしまう“誤報”の数をどこまで減らせるかだという。

「全件目検でやっていた、もしくはルールベースのシステムでやっていた場合と比べて工数が7〜8割減るレベルだと、多くのお客さんに次のステップに進みたいと思ってもらえる。つまり全体の7〜8割は確実に正常品・不良品の判断ができていて、残りの2割を人がチェックするような状態。この2割についても『どういった基準でおかしいと思ったか』を示すことができる」(池田氏)

検査の工程は必要不可欠ながら、オフェンスというよりはディフェンスの側面が強く、いきなり大規模な予算をつけて全てのラインで展開するというのはあまり現実的ではないそう。「アダコテックの製品なら数個から数十個のサンプルでやれて、クイックスタートできるのが良い」というのはどの顧客にも評価されているポイントだ。

「必要なデータが十分に蓄積されるまで待ちましょうだと数ヶ月、数年かかり待ってられない。そんなシーンでまずは限られたデータでフィジビリティスタディをやり、ある程度の成果が見込めれば回数をこなしながらプロトタイプを作ったり、生産ラインに少しずつ入れてみたり。母数が増えれば精度が上がるだけでなく、どの異常に対してどのような反応を示すのか事例がたまりチューニングもしやすくなる」(池田氏)

今は製造業が中心ではあるものの、少しずつ別業界での事例も増えているそう。たとえば三井E&Sマシナリーと取り組むトンネル異常自動判定技術の実用化プロジェクトでは、数ヶ月かけて行なっていた作業を数時間に短縮することに成功した。

動画や静止画など特定の方法に限定することなく、4つの異常検知システムを備え「カードが数枚ある状態から」最適な手段を選べるため、用途も幅広い。監視カメラの動画解析用途や装置の経時劣化のモニタリングなどでの事例も生まれてきているようだ。

今後は調達した資金を活用して経営メンバーやエンジニアの採用を強化し、プロダクトのアップデートを進める計画。より多くの企業が活用できるようにSaaSモデルでの展開に向けた準備にも取り組んでいくという。

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TechCrunch Japan

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