従来型の仲介モデルを再構築する不動産テックAvenue 8が約4億円を調達

数多くの不動産テック系スタートアップが設立され、住宅の売買は大きく様変わりした。不動産テック企業の中には、何らかの理由で価格が下がった不動産を探して売買しているところもあれば、1つのスタートアップが住宅を買い上げてリフォームし、それを、リフォームに投資したくない買い手に再販する「iBuyer(アイプレイヤー)」モデルを活用しているところもある。しかし、住宅物件の大部分は依然として、不動産ブローカーを通じて働く不動産エージェントが担当するという従来の方法で売買されている。

米国時間2020年12月18日、あるスタートアップがシードラウンドの資金調達を行ったことを発表した。その目的は、ディスラプトするためでなく、よりフレキシブルなアプローチによって従来のプロセスを改善してエージェントの働き方を近代化し、最終的には不動産市場で働くエージェント数を増やすことだという。

400万ドル(約4億1500万円)を調達したそのスタートアップの名はAvenue 8(アベニュー・エイト)という。自らを「モバイルに特化した住宅用不動産ブローカー」と称する同社は、住宅の調達、販売、売却と、これらに関係する他の業務を遂行するための新しいツールを提供している。アベニュー・エイトは今回のシードラウンドで調達した資金を、既に事業を展開している都市(これまでサンフランシスコ地域とロサンゼルス地域で試験的に活動してきた)での事業をさらに拡大し、いくつかの都市へ新たに進出することに使う計画だという。

今回の資金調達は注目すべきものだ。アベニュー・エイトがシードラウンドという早期の段階から味方につけた投資家の顔ぶれが興味深い。同ラウンドをリードしているのは、David Sacks(デービッド・サックス)氏とBill Lee(ビル・リー)氏が共同で設立し、ポートフォリオに数多くの有名企業が連なるCraft Ventures(クラフト・ベンチャーズ)だ。Zigg Capital(ジッグ・キャピタル)と、Good Friends(グッド・フレンズ、Warby Parker(ワービー・パーカー)、Harry’s(ハリーズ)、Allbirds(オールバーズ)の創業者らによって設立されたアーリーステージ向けファンド)も参加している。

ここ10年間に不動産テック企業が調達した資金の総額は少なくとも180億ドル(約1兆8700億円)にのぼる。そして、クラウドコンピューティングやモバイルテクノロジーから、人工知能、データサイエンス、eコマースのイノベーションまで、テック業界から学び、それを不動産市場に応用するために、多大な努力が払われてきた。

アベニュー・エイトをJustin Fichelson(ジャスティン・フィシェルソン)氏と共に創業したMichael Martin(マイケル・マーティン)氏は、これだけのペースで変化が進んでいるということはつまり、常に新しいアプローチを考える必要があるということだ、と強く感じている。

不動産テック業界の最大手企業の1つで、独自の課題に直面しているCompass(コンパス)について、マーティン氏は次のように語っている。「コンパスが、同社のテクノロジーを従来型の不動産ブローカーに普及させることを成長戦略としていたことに留意することは重要だ。しかし、今それを作るなら、根本的にまったく違うものになるだろう」。

「違うもの」というのはつまり、アベニュー・エイトのようなものを指すとマーティン氏は考えている。

まず、アベニュー・エイトは、販売手数料をブローカーとエージェントとの間で(大抵の場合)標準的な30対70の割合で分配するモデルではなく、サブスクリプション型のモデルを採用している。

アベニュー・エイトは、その基本モデルに沿って、マーケティング用や分析用の新しいツールを直感的に使用するための各種ツールを開発した。これらのツールを使えば、物件の販売情報を複数のチャンネルに掲載したり、エージェントのパフォーマンスを測定・分析して今後の販売物件の内容を改善したり、十分な情報を得たうえで査定・販売に関する意思決定ができるように豊富な市場データを閲覧したりすることが可能になる。また、案内係を担当する人材のマーケットプレイスも提供している。この案内係は、販売情報を準備するために物件を整えて写真を撮影してくれる。そして、案内係に関する支払いは、物件が売れた場合にのみアベニュー・エイトから請求される。

アベニュー・エイトのサービスはすべて、モバイル用プラットフォームで提供される。常に動き回る仕事をする人にとっては、欠かせない特徴だ。

アベニュー・エイトは、これまでブローカーが提供するツール(多くの場合はブローカーのウェブサイトといくつかの付加的なポータルサイトのみ)を主に使って仕事をしてきたエージェントをターゲットにしている。これは、単により多くのリターンを生み出すだけでなく、賢いアプローチでもある。

ジッグ・キャピタルのパートナー、Ryan Orley(ライアン・オーレイ)氏は次のように語る。「各方面とのやり取りや物件を首尾よく管理するためにどのテクノロジーやツールをどのように使えばよいか分からずに苦労している、というエージェントの声を何度も聞いたことがある。買い主、売り主双方の要望が変化しているため、大半のエージェントのワークフローにおいてデジタル化が加速した。アベニュー・エイトは、エージェントがこの新しい現実に対応するのに役立つソフトウェアとリソースを開発し統合させている」。

もう1つ興味深いのは、アベニュー・エイトがどのように長期的にエージェントの数を増やすことにつながるのか、という点だ。

パンデミックが続く中でも不動産市場は特筆すべき回復力を見せている。金利の低下、全体的に低水準な住宅在庫、自宅で過ごす時間が増えたことによる快適な住宅へのニーズ増加が、大きな需要を作り出しているためだ。数々の業界が窮地にある中、アベニュー・エイトのようなフレキシブルなプラットフォームは、不動産エージェントになるための試験に合格して資格を取得した人たちが、自分をエージェントとして登録して、長時間でも短時間でも柔軟に仕事量を調節しながら働き、いわば「Uber(ウーバー)の不動産エージェント版」になる機会を開くものとなる。

今後の成長が非常に有望であることも、投資家の関心を引きつけた理由の1つだろう。

クラフト・ベンチャーズのゼネラルパートナーであるJeff Fluhr(ジェフ・フルール)氏は次のように述べる。「アベニュー・エイトの有機的成長は、モバイルに特化したデジタルプラットフォームを市場が求めていることを示す明確な証拠だ。マイケルとジャスティンは、エージェントを中心に据えて不動産業務を近代化するというはっきりしたビジョンを持っている。同社のモデルにより、エージェントは、手数料が圧縮される現在の環境の中でも、より多くの利益を確保できる」。

面白いことに、ちょうどUberがオンデマンド交通サービスの手配・提供方法を変えたように、アベニュー・エイトも、不動産市場における立ち位置に関連して、興味深いトラクションを獲得し始めている。当初はエージェントをターゲットとし、彼らにとって「より優れたブローカー」のような存在になること、つまり、ブローカーしか提供できないサービスを、より近代的な方法でエージェントに提供することを謳い文句にしていた同社だが、最近ではブローカー自体が同社に興味を示すことがあるという。マーティン氏によると、同社は既に中小規模のブローカー数社と取引があり、最終的には同社のツールを、業務改善に取り組む大手ブローカーにも提供する方法を検討していきたいとのことだ。

関連記事:米不動産販売が急増しIPOが迫る中、住宅ローンのBetter.comのCTOにダイアン・ユー氏が就任

カテゴリー:ネットサービス
タグ:資金調達 不動産テック

[原文へ]

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。