Jessica Ko(ジェシカ・コ)氏がGoogleの、次いでOpendoorデザイン責任者であった時、彼女は部下たちがDropboxからアセットを探すのに彼らの時間の90%を費やしているのに気がついた。
多くの場合、彼らは古いバージョンのものしか見つけられないか、または探しているものを見つけられないでいた。また、さらに悪い場合には、別のアセットを間違って手に入れていた。
「それは非常に混沌としたプロセスでした」と、コ氏は回想する。「だれもがシステム内へアクセスし、何かに手を加えたりフォルダのストラクチャーを変えてしまうことができたために、大変なことになっていたのです。しかし他の選択肢がないために、そうした状態が続いていました」。
コ氏によると、Opendoorの規模が拡大するに連れ、問題はまずます大きくなっていったという。
「デザイナーはストレスを抱えて辞めていきました。Dropboxは今もこの問題を解決できていません。Googleドライブも優れた代替手段とはいえません。デザイナーは最も多くファイルを扱い、常にファイルを交換しています」。
ファイルストレージやファイル共有の問題に起因する不満やストレスに加え、適切なアセットが見つけられないこともエラーに繋がり、それは金銭的な損失にもつながっていた、とコ氏はいう。
「私たちは、新しいバージョンのものを見つけられないために、写真を撮ったり、デザインを再度作成しなければならず、そのために多くのお金を使いました」。
また、アセットにアクセスする必要があるのは、なにもデザイナーだけではない、という問題もある。財務チームもセールス用のプレゼン資料を作成したりするために常にアセットにアクセスする必要がある。
そこで2018年、コ氏は彼女を悩ませていたこの問題を、現在のデザインワークフローとプロセスに適したファイルストレージを作ることで解決すべく、Opendoorを離れた。より簡単な言葉で言えば、彼女はDropboxやGoogleドライブに替わる「デザイナーにより構築されたデザイナーのための」新しいクラウドストレージを構築したいと考えたのだ。
2020年初め、コ氏(CEO)はAlex Zirbel(CTO、アレックス・ザーベル)氏 と組んでサンフランシスコに拠点を置くPlaybookを立ち上げた。これを彼女は問題を解決するための「デザイナー向けDropbox」と説明している。そして米国時間8月26日、同社は突然姿を表し、Founders Fundが主導するシードラウンドで400万ドル(約3000万円)を調達したことを発表した。資金調達後の評価額は2000万ドル(約22億円)である。
この資金調達には、Abstract、Inovia、Maple、Basis Set、Backend、Wilson Sonsiniや、Opendoorの共同創設者兼CEOのEric Wu(エリック・ウ)氏、Gustoの共同創設者Eddie Kim(エディ・キム)氏、SV AngelのBeth Turner(ベス・ターナー)氏といった、多くのエンジェル投資家が参画している。
手短に言えば、Playbookは、組織のメディアライブラリ全体を数分で自動的にインポート、タグ付け、分類できるということを売りにしている。
立ち上げ後、Playbookがまず着手したのが、アセットのフォルダの管理方法を再考し、フォルダの下にサブフォルダを配置することだった。そして、同社はファイルの共有方法を変えようることに取り組んだ。
「現在、本当に多くのことがメールやSlackを通して行われているため、バージョンコントロールが一層難しくなっています」とコ氏はTechCrunchに語った。そこでPlaybookはファイルをさまざまなチャンネルを通して送るのではなく、当事者全員がアクセスできるストレージシステムを構築してきた。
「何年もの間、これらのアセットはファイルキャビネットのようなものに放り込まれてきました。しかし、今日、アセットの共有は、フリーランサーや下請け業者といったさまざまな関係者が関わるものになりました。そのため誰がこれらのファイルやバージョンの管理をするかはとても複雑な問題になりつつあります」。
Playbookは4TBの無料ストレージを提供している。これはコ氏によると、無料バージョンのGoogleストレージの266倍、Dropboxの2000倍に当たる。これでユーザーをひきつけ、ストレージ容量がなくなることを心配せずにオールラウンドのクリエイティブハブとしてこのプラットフォームを使ってもらいたいという狙いがある。また、ファイルを自動的にスキャン、整理、タグ付けし、ファイルやフォルダを視覚的に簡単に参照できるようにした。
Playbookが3月にデザインコミュニティに対しベータ版を公開したところ、2カ月で1000人のユーザーを獲得した。登録者数はその後も伸び続けたため、新たなユーザーに対処するために同社はベータ版を閉じなければならないほどだった。
現在、約1万人のユーザーがデータ版に登録している。初期のユーザーには個人で活動するフリーランサーからFast、Folx、Literatiといった企業のデザインチームが含まれる。
コ氏によると、9人の社員を擁する同社は、収益化をはかり、エンタープライズ版を出す前に(2020年になる可能性が高い)、製品を「適切なもの」にすることに力を注ぎたいと考えている。
当座Playbookは、フリーランサーのニーズに的を絞っている。同社はパンデミック後にはフリーランサーが爆発的に増えると考えており、そのためには「クラウドストレージはよりスマートになる必要がある」と確信している。
「私たちはまずフリーランサーが感じている問題を取り上げ、ボトムアップ式にこれを解決したいと考えています」とコ氏はTechCrunchに語った。
また、現在Playbookがフリーランサーに焦点を当てている背景には、 彼らが仕事の請負先にPlaybookを紹介してくれるだろう、というマーケティング上の戦略もある。
「彼らがPlaybookを通しクライアントにアセットやファイルを渡すと、クライアントはこれを採用する傾向があります」とコ氏は語る。
Playbook は現在、320万件のアセット管理に使用されており、毎月「登録を待っている人が何百人もいる」とのことである。
ザーベル氏は今後、画像スキャン、シミラリティ、コンテンツ検出、プレビュー、長期的なクラウドストレージ、そして数々のインテグレーションに進出することを考えている、と述べた。
「クラウドストレージのクリエイティブな側面に注目すると、興味深い技術上の課題がたくさんあります」。
Founders FundのJohn Luttig(ジョン・ルティグ)氏は、2020年に初めてコ氏やザーベル氏に会った際、Founders Fundが今まで見たことのないレベルで「彼らがファイル管理に関し深い理解と考えを持っていることが明確でした」と語った。また彼の見解では、Dropboxが2007年に立ち上げられて以降、クラウドストレージにおけるイノベーションはほとんど起こっていない。
「Playbookのプラットフォームは最新のデザイン、コラボレーションの原則、人工知能を取り込んだもので、これを用いることでファイル管理をはるかに早くしかも簡単に行うことができます。Playbookにはデザインの世界に深く関わってきたという強みがあり、ユーザーの視点でファイルシステムを再考する、という意味で同社は非常によいポジションにいると考えます」とルティグ氏はメールで伝えてくれた。
同氏は、Playbookはコンピュータービジョンやデザインの最新の進歩を活用し「今までのものよりもずっと優れた、ファイルを管理し共有するための製品を構築する」能力がある、と語った。
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画像クレジット:Playbook
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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)