数値で見る、創業者に聞いたジャンル別「良いリテンション」とは何か?

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するPodcast「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

元Airbnbのグロース担当のレニー・ラチツキーさん「What is good retention」(良いリテンションとは何か?)の記事の翻訳許可を直接いただきました。彼の記事をもっと読みたい方はぜひ彼のメルマガにご登録ください。また、 「マーケットプレイスの作り方」「人気C向けアプリはいかにして初期ユーザー1000人を獲得したのか?」などほかの記事も翻訳していますので、気になった方はご一読ください!

プロダクトをスケールさせるには、良いリテンションが必要不可欠。最もProduct Market Fitを達成したかを表す指標でもあり、ユーザーのライフタイムバリュー(LTV)や獲得戦略の最も重要な要因でもある(Eventbrite CPO・ケーシー・ウィンターズ

起業家として事業を立ち上げるとき、投資家としてスタートアップに投資するときにリテンションが最も重要視されている指標と言われているが、同時に最も理解が少ない指標でもある。グロースエキスパートや経験のある投資家以外の多くの人は古いブログ、間違ったベンチマーク、自社と当てはまらない事例に頼ってしまう。

現EventbriteのChief Product Officer、過去にPinterestおよびGrubHubでグロースチームをリードしていたケーシー・ウィンターズとこの会話をした際に、一緒にリサーチをすることを決めた。二人でグロースエキスパート20人ほどに以下2つの質問をした。

  1. 6カ月時点で「良いリテンション」と「すごいリテンション」をどう定義付けする?
  2. 12カ月時点で「良い売上継続率」と「すごい売上継続率」をどう定義付けする?

その20人のエキスパートと公開されているデータを組み合わせて、様々な事業タイプの「良いリテンション」と「すごいリテンション」をまとめてみた。これらが結果のサマリーと各エキスパートからのTipsや上場企業の比較だ。

この記事と一緒に、ケーシーがリテンションの改善方法などを記載している記事を公開したのでぜひそちらも読んでほしい。

サマリー

良い・すごいリテンションのまとめ図

What is good retention

良い・すごい売上継続率のまとめ図

以下エキスパートから聞いたリテンション・売上継続率の図になる。PDFダウンロードしたい方はこちらへ。

ヒアリングしたエキスパートは以下のとおり。

■注意事項
1.リテンションは重要な指標だが、それだけを見るのも間違っている
リテンション以外にユーザー獲得コスト、ユニットエコノミクス、サブスク期間など、さまざまな指標を見なければいけない。そのため、本記事で記載されているリテンション数字はただの参考指標でしかない。特定のスタートアップによって「良い」「すごい」リテンションはこの記事で記載されている数字と異なる可能性がある。

2.データ収集方法の誤りがある可能性
何か誤りを見つけた場合、私までに連絡してほしい。

3.分析方法は山ほどある
本記事は私とケーシーのまとめ方で、リテンションはいろいな見方がある。それをご了承のうえでご覧いただきたい。

「良い(Good)」「すごい(Great)」ユーザーリテンションとは?

「ユーザーリテンション」とはサービスに登録してから6カ月後に何%がまだアクティブ(プロダクトを使用している、購入している、写真を投稿しているなど)なのかと定義している。

■C向けSNS:25%以上が「良い」、45%以上が「すごい」

これらはSnapchat、Twitter、Instagramなど広告ベースの会社が含まれる。これらは%を計算するための分母は「登録ユーザー数」だ。

以下はエキスパートからのアドバイスだ。

  • Jeff Chang:25%以上は「良い」、40%以上は「すごい」
  • Casey Winters:25%以上は「良い」、45%以上は「すごい」
  • Brian Rothenberg:25%以上は「良い」、50%以上は「すごい」
  • Jamie Quint:30%以上は「良い」、40%以上は「すごい」
  • ChenLi Wang:30%以上は「良い」、50%以上は「すごい」
  • Kevin Kwok:30%以上は「良い」、60%以上は「すごい」
  • Andrew Chen:50%以上は「良い」、75%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

■C向けトランザクション系:30%以上が「良い」、50%以上が「すごい」

こちらAirbnb、Lyft、TurboTaxみたいに、一回限りの取引をベースにするスタートアップの数字。こちら%を計算するための分母は「一回でも購入したユーザー数」だ。

以下はエキスパートからのアドバイス。

  • Casey Winter:15%以上は「良い」、35%以上は「すごい」
  • Kevin Kwok:30%以上は「良い」、50%以上は「すごい」
  • Dan Hockenmaier:30%以上は「良い」、50%以上は「すごい」
  • Li Jin:30%以上は「良い」、50%以上は「すごい」
  • Brian Rothenberg:30%以上は「良い」、60%以上は「すごい」
  • ChenLi Wang:30%以上は「良い」、70%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

■C向けSaaS:40%以上が「良い」、70%以上が「すごい」
これらはNetflix、Spotify、Huluなど一般消費者向けに月額・年間サブスク型のサービス。これらは%を計算するための分母は「課金ユーザー数」だ。

エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • Dan Hockenmaier:40%以上は「良い」、60%以上は「すごい」
  • Adam Fishman:40%以上は「良い」、70%以上は「すごい」
  • Jeff Chang:50%以上は「良い」、70%以上は「すごい」
  • Mike Duboe:50%以上は「良い」、70%以上は「すごい」
  • Elena Verna:70%以上は「良い」、80%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

  • Amazon Prime:12カ月時点のユーザーリテンションは93%
  • Dropbox:12カ月時点のユーザーリテンションは80%弱
  • Spotify:6カ月時点のユーザーリテンションは72%
  • Netflix:12カ月時点のユーザーリテンションは66%
  • Hulu:12カ月時点のユーザーリテンションは53%

■中小企業向けSaaS:60%以上が「良い」、80%以上が「すごい」

こちらAsana、Slack、Atlassianなど従業員が100~1,000人規模の会社がコアターゲットのSaaSプロダクトのリテンション指標。こちら%を計算するための分母は「課金企業数」になる。

エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • Yuriy Timen:60%以上は「良い」、80%以上は「すごい」
  • Mike Duboe:60%以上は「良い」、80%以上は「すごい」
  • Sarah Guo:70%以上は「良い」、80%以上は「すごい」
  • Fareed Mosavat:70%以上は「良い」、85%以上は「すごい」
  • ChenLi Wang:70%以上は「良い」、85%以上は「すごい」
  • Andy Johns:70%以上は「良い」、90%以上は「すごい」
  • Dan Hockenmaier:70%以上は「良い」、90%以上は「すごい」
  • Merci Grace:80%以上は「良い」、90%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

  • Atalassian:12カ月時点のユーザーリテンションは98%
  • Slack:12カ月時点のユーザーリテンションは90~95%
  • Quickbooks:12カ月時点のユーザーリテンションは79%

■エンタープライズ向けSaaS:75%以上が「良い」、90%以上が「すごい」
こちらは、Salesforce、Workday、ADPなお従業員が1000人以上のエンタープライズ用のSaaSプロダクトのリテンション指標。こちら%を計算するための分母は「課金企業数」。

エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • Andy Johns:70%以上は「良い」、90%以上は「すごい」
  • Brian Rothenberg:75%以上は「良い」、90%以上は「すごい」
  • Jeff Chang:80%以上は「良い」、90%以上は「すごい」
  • Sarah Guo:85%以上は「良い」、95%以上は「すごい」
  • Nick Soman:85%以上は「良い」、95%以上は「すごい」
  • Shaun Clowes:85%以上は「良い」、95%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

「良い」(Good)・「すごい」(Great)売上継続率とは?

売上継続率(Net Revenue Retention Rate)とは会社の1年前のMRR(月次経常収益)を同じクライアントだけに絞った今のMRRから割り算をして計算する。

こちら前田ヒロさんのブログを見ると計算式が記載されている。

事業の売り方によって売上継続率が大幅に変わるため、こちらはユーザーリテンションと違うカテゴリー分けをしています。例えば、ボトムアップSaaSだとネットワーク効果により売上継続率が大幅にかわり、VSB(小規模事業)を対象にしているSaaSだと小規模事業の多くは急に事業悪化する可能性がより高いため、売上継続率が安定しない可能性もある。さらに、Land and Expand(導入&拡大)モデルの事業はユーザーの離脱率が高い分、一人当たりの売上増加によってカバーできる。

■C向けSaaS:55%以上が「良い」、80%以上が「すごい」
Netflix、Spotify、Huluなど一般消費者向けに月額・年間サブスク型のサービスが以下だ。これら%を計算するための分母は「課金ユーザー数」となる。

エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • Casey Winters:50%以上は「良い」、70%以上は「すごい」
  • Brian Rothenberg:55%以上は「良い」、75%以上は「すごい」
  • Yuriy Timen:60%以上は「良い」、80%以上は「すごい」
  • Dan Hockenmaier:65%以上は「良い」、75%以上は「すごい」
  • Sarah Guo:70%以上は「良い」、80%以上は「すごい」
  • Andy Johns:70%以上は「良い」、90%以上は「すごい」
  • Mike Duboe:70%以上は「良い」、90%以上は「すごい」

■ボトムアップSaaS:100%以上が「良い」、120%以上が「すごい」
こちらSlack、Figma、Zoomなど会社内で個人が使うセルフサーブでプロシューマー的サブスクサービスの指標だ。
エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • Jeff Chang:100%以上は「良い」、110%以上は「すごい」
  • Brian Balfour:100%以上は「良い」、120%以上は「すごい」
  • Brian Rothenberg:100%以上は「良い」、120%以上は「すごい」
  • Fareed Mosavat:110%以上は「良い」、130%以上は「すごい」
  • Naomi Ionita:110%以上は「良い」、130%以上は「すごい」
  • Sarah Guo:110%以上は「良い」、130%以上は「すごい」
  • Jamie Quint:120%以上は「良い」、140%以上は「すごい」
  • Merci Grace:120%以上は「良い」、140%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

■小規模ビジネス向けSaaS:80%以上が「良い」、100%以上が「すごい」
こちらGustoなどアーリーステージ企業向け(100人以下)にサブスクサービスを売り込む会社。
エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • TBrian Balfour:80%以上は「良い」、90%以上は「すごい」
  • Sarah Guo:85%以上は「良い」、105%以上は「すごい」
  • Fareed Mosavat:90%以上は「良い」、110%以上は「すごい」

■中小企業向けSaaS:90%以上が「良い」、110%以上が「すごい」
こちらAtlassian、Box、ZenDeskなど従業員100~1000人規模の会社に売り込むサブスクサービス。
エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • Mike Duboe:85%以上は「良い」、110%以上は「すごい」
  • Sarah Guo:90%以上は「良い」、110%以上は「すごい」
  • Brian Balfour:100%以上は「良い」、120%以上は「すごい」
  • Brian Rothenberg:100%以上は「良い」、120%以上は「すごい」
  • Adam Fishman:100%以上は「良い」、125%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

■エンタープライズSaaS:110%以上が「良い」、130%以上が「すごい」
こちらSalesforce、Workday、ADPなお従業員が1,000人以上の会社に売り込むサブスクサービス。
エキスパートからのアドバイスは以下のとおり。

  • Jeff Chang:110%以上は「良い」、120%以上は「すごい」
  • Naomi Ionita:120%以上は「良い」、130%以上は「すごい」

上場企業との比較は以下のとおり。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。