パンデミックの中で拡散する偽情報に対し、各プラットフォームが強硬な姿勢を見せているにもかかわらず、有名なワクチン陰謀論者を特集した新型コロナウイルス(COVID-19)に関する動画が5月4日の週、ソーシャルメディアで山火事のように広がった。
プロが制作した動画の中で、Mikki Willis(ミッキ・ウィリス)氏というインタビュアーが反ワクチン活動で近年最もよく知られている人物であるJudy Mikovits(ジュディ・ミコビッツ)氏にインタビューしている。この動画は、オンラインの陰謀論者が好む多くのトピックに触れている。ほぼ全編にわたり、ワクチンが医療被害を引き起こす金儲けの道具だという見方に基づいている。
この動画は5月4日にVimeoとYouTubeに最初に投稿され、週半ばに広がり始めた。Facebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、Twitter(ツイッター)にも飛び火し、より広範囲に配信され、何百万もの再生回数を記録した。現在、この動画はどのソーシャルプラットフォームでも非常に簡単に検索できる。広範に再投稿されており、AIモデレーションによる検出を避けるためタイトルが削除・変更されていることもある。
Twitterによると、ミコビッツ氏によるツイートはTwitterが定める新型コロナ偽情報に関するルールに違反していないようだが、Twitterはその動画のURLを「安全でない」とし、関連するハッシュタグ「#PlagueOfCorruption and #Plandemicmovie」をブロックした。Twitterは、同氏のアカウントが仕組まれたキャンペーンの一部として拡散されているという証拠は発見していない。
アップデート:TwitterはTechCrunchに対し5月8日、その動画から個人が作成したクリップがTwitterのルールに違反しているか調査中だと明らかにした。同社はまた、動画のフルバージョンへのリンクに警告ラベルをつける予定だ。ただしTwitterはリンクの削除は行わない方向だ。ユーザーが動画に異議を唱える際もツイートにリンクを入れるからだ。
この動画は新型コロナや健康に関する偽情報を取り締まるFacebookのルールにも反しているが、Facebook上ではいまだに動画を非常に簡単に見つけることができる。筆者はフルバージョンの動画のコピーを数秒で見つけた。執筆時点では、Instagramの#plandemicハッシュタグや#coronahoaxのようなハッシュタグに動画からの長いクリップが多数関連付けられていた。 Facebookはすでに動画の拡散食い止めに動いているが、すでに短時間で数百万回のビューを獲得している。
YouTubeで「Plandemic」と検索すると、動画が主張する多くの誤った主張をただすコンテンツも多数表示されるが、依然として検索結果上位には動画からのクリップが表示される。
動画自体はオンラインで拡散している誤った新型コロナ陰謀論の寄せ集めであり、科学的根拠のない反ワクチン論と迫害の主張だ。
動画でミコビッツ氏はワクチンに反対したわけではないと述べているが、後になってワクチンが何百万もの人々を殺したとの主張を繰り返した。「これは、インフルエンザワクチンが新型コロナに感染する確率を高めると知っていながら、誰もが感染しワクチンを接種するまで治療法を確立しないというゲームだ」と同氏は陰謀論的に述べている。同氏はまた、医師と医療施設がメディケアの支払いで新型コロナの症例を過大に報告するよう奨励されていると示唆している。これは新型コロナの症例数が依然として実態より有意に少ないという専門家のコンセンサスと矛盾する。
ミコビッツ氏は動画で、ホワイトハウスの新型コロナ対策本部のメンバーであるAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)博士がヒドロキシクロロキンのような治療を抑制していると非難している。ヒドロキシクロロキンはトランプ大統領が誤って後押しした。ミコビッツ氏の主張は機会に乗じる動きとしては完璧だったようだが、ファウチ氏に売った喧嘩は過去から長く続いている。Buzzfeed(バズフィード)が報じたように、ミコビッツ氏は6年前に書いた本の中で、ファウチ博士が同氏のNIH(米国立衛生研究所)の施設への立ち入りを禁止したと非難した。ファウチ氏は覚えがないという。
ミコビッツ氏はまた、パンデミックを利用してワクチンから利益を得る動きにBill Gates(ビル・ゲイツ)氏が何らかのかたちで関与しているという考えに固執する陰謀論に触れ、「このウイルスが実験室で操作および研究されたことは非常に明白だ」という根拠のない主張を展開している。
ミコビッツ氏は別のインタビューで、フェイスマスクは着用者のウイルスを「活性化」させる可能性があり危険にさらすと示唆した。同氏はまた「Plandemic」動画で、「治癒効果のある海水中の微生物」と新型コロナから保護する効果のある砂の「シーケンス」を考えれば、ビーチは閉鎖されるべきではなかったという科学的ではない主張もしている。
知識のない視聴者にはミコビッツ氏が科学的に適切に答えているように見えるかもしれないが、同氏の科学面の実績は非常に疑わしい。同氏は2009年、慢性疲労症候群に関する研究を発表したが、Science誌が2年後に発表を取り消した。同誌の監査により「不十分な品質管理の証拠」が発見され、研究結果を後続の研究で再現できなかったという。この出来事とその後同氏が研究所から解雇されたことが、反ワクチン十字軍、陰謀論者、作家としての同氏の方向性のスタートになったようだ。
「Plandemic」のおかげで、ミコビッツ氏はパンデミックを巡る情報の空白をついて首尾よく自分自身のポジションを確保したようだ。同氏の書籍売り上げはAmazonで急上昇した。クリップの終わり近くで、インタビュアーはソーシャルメディアプラットフォームからの取り締まりを確実に招くような挙動に出た。この動画に含まれるような健康に関する有害な陰謀説を取り締まる動きをばかにして見せたのだ。
「市民を封鎖した輩がおり、大きなテクノロジープラットフォームがそれに続き、すべてを封鎖した」ウィリス氏は断固として懸念を示す。「この自由な国では、もはや反対意見は認められていない」
TechCrunchが以前報じたように、新型コロナ危機は陰謀説と偽情報にとって肥沃な土壌だ。「Plandemic」動画が主流を巻き込んで成功したことが証明している。広範囲にわたる不確実性と恐怖は強力だ。偽りの思想に新しい命を吹き込むことができる。新型コロナがなければ、陰謀論者の吹き溜まりでほこりを集め続けるにすぎなかったはずだ。
画像クレジット:Photo by JEFF KOWALSKY/AFP via Getty Images / Getty Images
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(翻訳:Mizoguchi)