新興市場の貧困と食糧安全保障に食糧保存技術で戦いを挑むApeelが31億円の増資を獲得

社会を変革するほどのパワーを秘めた食糧保存技術の本格テストとして、カリフォルニア州サンタバーバラを拠点とする Apeel Sciences(アピール・サイエンセズ)は、アジア、アフリカ、中南米の選ばれた市場の配送センターに、革新的な食品処理とサプライチェーン管理サービスを提供する。

その目標は、栄養失調に最も陥りやすい地域住民の一員である農家の食糧不安を軽減することだと、Apeelの最高責任者James Rogers(ジェイムズ・ロジャーズ)氏は言う。

「地球上で栽培されている果物と野菜の大半を生産しているのは小規模な農家ですが、食糧不安を抱える人たちの3分の2も、やはり農家なのです」とロジャーズ氏。

その他の人たちに比べて農家の生活が厳しい原因は、自分たちが育てた作物から最大の対価を得る能力を彼らが持たないことにあり、それは農作物が傷みやすいだめだと、ロジャーズ氏は語る。

食品廃棄を少なくする同社の保存技術を導入し、米国、デンマーク、ドイツ、スイスといった市場のApeelの既存顧客で、購入を望むバイヤーにそれを提供する。それが予想を超えるインパクトを引き起こし、大量の金が農家のポケットに入るよう改善が促されるとロジャーズ氏はいう。

「国際金融公社との共同計画は、サプライチェーンを構築することです」と彼は話す。「これには単に長持ちする農産物というだけでなく、長持ちする農産物の市場アクセスという価値があります」。

当初の市場はメキシコ、コスタリカ、ペルー、南アフリカ、ケニヤ、ウガンダ、ベトナムとなる。そこではアボカド、パイナップル、アスパラガス、そしてレモン、ライム、オレンジといった柑橘系果物がApeelの技術によって処理される。

ある意味これは、世界中の食料品店に廃棄物削減のための同社のアプローチを受け入れてもらうという、この数年間のApeelの取り組みの集大成となる。

同社は、Bill & Melinda Gates Foundation(ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団)と英国際開発庁と共同で創設されて以来ずっと、その企業理念の中心に小規模農家を据えてきた。その目的は、最新の冷蔵サプライチェーンに頼ることなく、農家が生産した果物や野菜を店頭に置ける時間を長くすることで一貫している。だがそのためには、数年間かけて技術を洗練させ、小売りネットワークを構築する必要があった。

目指す未来のために、Apeelはこれまでに3億6000万ドル(約380億円)を調達した。その中には、2020年の初めにクローズした2億5000万ドル(約260億円)のラウンドも含まれる。

ロジャーズ氏は、国際市場からの需要を、地元の輸出業者を通じて地域の生産者に届けることを夢見ている。

冷蔵サプライチェーンを使わなければ、小規模農家は供給過多の地元の市場でしか作物を売ることができない。農作物は痛みやすいため、果物や野菜を輸出することができず、それが農業で生活を支えている人たちの貧困を悪化させ、食品ロスや食品廃棄を助長する市場力学を生み出してしまうのだとApeelは話す。

「持続時間を延ばすことで、小規模生産者は国際市場に道を拓き、その天然資源が本来的に持つ経済的価値を獲得できるようになります」とロジャーズ氏。

国際市場からの新たな需要を呼び込み、Apeelの技術で処理した農作物でそれを満たすことができれば、農作物の価格は理想的に引き上げられ、農家の収入が増えるという好循環が生まれる。少なくともそれが、つい最近、地域流通センターにApeelの技術を導入したロジャーズ氏のビジョンだ。

Apeelの技術導入で最も儲かるのは、海外のバイヤーに農作物を販売する中間業者ではないかとの心配もあるが、ロジャーズ氏はそのシナリオを否定する。

「この取り組みの目的は、小規模生産者を直接的に輸出業者のサプライチェーンに組み込むことです。共同対価を創出するためのテクノロジーは一般化してきましたが、その協力体制を使うことで、ごく小規模な生産者の対価を引き出すことができます」と彼は話す。「供給品をどこか別の場所から調達しなければならない市場で、農作物の需要を高めるのです。輸出業者は、数量ごとの割り前を得ています。対価を増やすには、取り扱う数量を増やすしかありません。彼らは、輸出に適した品物の量と需要を増やしたいと考えます。そこで流れが逆転します。需要の問題から、供給の問題に切り替わるのです。そして彼らは、商品をどんどん送り込むよう人々に奨励せざるを得なくなります」

この国際的な役割を果たすための資金として、Apeelはおよそ3000万ドル(約31億3000万円)の資金を International Finance Corp.、Temasek、Astanor Venturesなどの投資会社から新たに調達した。

「革新的な技術は、新興市場の発展の流れを変え、生活、経済、そしてこの場合は食糧が守られます」と国際金融公社の暫定業務執行取締役および上級副社長および最高執行責任者のStephanie von Friedeburg(ステファニー・フォン・フリードバーグ)氏は声明の中で述べている。「私たちはApeelとパートナー関係を結び、食糧廃棄を半分まで減らし、持続可能性を高め、気候変動を緩和できる画期的な技術に投資できることを嬉しく思っています」。

関連記事:フードロスを減らすApeelがシンガポール政府やケイティー・ペリーから約270億円調達

カテゴリー:フードテック
タグ:Apeel Sciences資金調達食品

画像クレジット:Getty Images under a Mariana Greif Etchebehere/Bloomberg license.

原文へ

(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。