暗号通貨バブルはイノベーションを絞め殺している

以前からバブルかもしれない、バブルっぽい、と言われてきたが、いや間違いなくバブルだ。しかしこれは良いことでもあると擁護する声もある。これまでバブルは必要な分野に注目と資金を集めるために役だってきた。バブル投資がインフラを作り、それが結局イノベーションの基礎となった、というのだ。

たとえばドットコムバブルだ。大勢の投資家が金を失ったが、これによって全世界がファイバー回線で結ばれ、安価なデジタル通信が可能になった。AmazonやGoogleが登場したのも結局はドットコムバブルの遺産だ。最近の暗号通貨バブルも同じようなものだ…というのだが。

しかし私の意見ではこうした合理化の試みは脆いものだ。なるほど部分的には正しいが、それ以上のものではない。暗号通貨の現状をみると、投機的利用法が他のあらゆる利用法を押しのけてスポットライトを浴びている。現在の暗号通貨の価値上昇はもっぱら投機によるものだ。

ほとんどの「暗号通貨トークン」は大げさに飾りたてられているものの、Ethereumのブロックチェーンに格納されたハッシュ値にすぎない。実際の内容は「アドレスA:10,000、アドレスB: 20,000」といった数字の列で、標準的な規格( ファンジブル・トークンならERC20、非ファンジブル・トークンならERC721)でコード化されて取引の容易化が図られている。

つまりEthereumブロックチェーンで実行されるあらゆる取引はその時価に比例した手数料がかかる。時価がロケットのように急上昇しているので(この記事を書いている時点で1000ドル)、これに歩調を合わせてEthereum上の取引の手数料は平均して2.50ドルにまでアップしている。

ハッシュ値生成に必要な計算量に比例してgas(手数料)を決定するメカニズムも実際にはあまり助けにならない。手数料は需要と供給によって決定される。これはEthereumだけではなく、BlockstackのDNSもBitcoinブロックチェーンに依存している。Bitcoinの取引に必要なコストもBitcoin価格と共に青天井で上昇中だ。

ともかく相場で一儲けを狙って何千ドルか何万ドルかの価値のトークンを取引しているなら手数料が高騰しても構わないかもしれない。しかしブロックチェーンのメカニズムを使って投機以外の目的のアプリケーションを書こうとすると事情は変わってくる。

もしブロックチェーンを利用して分散的な身元認証のようなサービスを作ろうとしても、そのコストは禁止的に高くなる。業者からブラウザが自動的に処理してくれるインターネット・ドメインを買うよりはるかに高いものになる。ユーザーが何らかのバーチャル資産を保有していることを証明するサービス、あるいは分散的ストレージへのアクセス・サービス等々を考えてみよう。トークンの取引はおろか、トークンを利用するという点だけで、そのコストは懲罰的から不可能までのさまざまな価格となるだろう。

つまりEthereumトークンを使って少しでも処理件数が多いサービスを作るという考えは忘れたほうがいい。そんなビジネスモデルはトークン価格の高騰により破滅的な結果をもたらす。Ethereumの場合、コストは常に送り手が負担するモデルであることもことをいっそう困難にする(ただしこの点については近く変更があるかもしれない)。逆に処理件数は極めて少なく、1件ごとの価値が極めて高いようなサービスなら可能だ。つまり現在のような投機だ。

Ethereumがトークン化のコストを劇的に下げる方法を考え出せば別だ。もちろん実験的サービスは多数作られてはいる。しかしほどんど誰も利用しない。こうしたサービスには好奇心の強いユーザーが近づいてみるものの、一回限りの実験にしても高すぎる手数料に驚かされている。まして日常利用するようなことにはならない。結果として、暗号通貨テクノロジーを利用する実験もイノベーションも投機バブルが破裂するまでは一時停止状態だ。

デベロッパーはブロックチェーン・テクノロジーを使ってアプリを書いても現実のユーザーが得られず、したがって現実のフィードバックも得られない。したがって新しい有望な応用分野を発見することもできない。ブロックチェーン・エコシステムの大陸は厚い氷河に覆われて活動を停止しているのが実情だ。

長期的にみて現状より桁違いに低い手数料が可能かどうかということも不明だ。 たとえばマイクロペイメント場合、普及にあたって最大の障害は手数料やインフラそのものより、むしろマイクロペイメント・サービスを利用しようというインセンティブの不足にある。AngelListのParker Thompsonはマス市場で成功する唯一の方法は手数料ゼロの分散的アプリが登場することだと論じている。この主張は正しいと思うが、手数料がゼロになった場合、ブロックチェーンを利用したスパム取引を判別したり防止したりできるのかという別の疑問が生じる。

しかし現状ではこれはあまり現実的な意味が議論だ。誤解しないでいただきたいが、私は手数料アポカリプスによって暗号通貨テクノロジーは永遠に呪われているなどと主張しているわけではない。現に、sharding, Raiden, PlasmaなどEthereumをスケールさせるための興味深い研究や開発が数多く行われている。こうした研究に対する期待は十分に高い。

しかしそうした新しいEthereumがロールアウトするまでは、暗号通貨に対してはきわめて注意深くあるべきだろう。株の値動きについて「市場は最初は投票だが最後は秤りになる」という言葉がある。つまり最初は人気投票のように動くがやがって実質を見るようになるという意味だ。現在、投機以外の暗号通貨トークン・プロジェクトは無期限の冬眠を強制されている。 本当にイノベーティブなサービスを作ろうとしているチームにとって、現在の暗号通貨バブルが弾けることは冬ではなく、むしろ春の到来を告げるものだ。

画像: Bitterbug/Wikimedia Commons UNDER A CC BY 2.0 LICENSE

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

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TechCrunch Japan

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